日本の対イスラム武装勢力対策 2013.1.30

アルジェリア人質事件から2週間が経過した。犯行グループが潜伏するとみられるマリ北部(アルジェリアと国境を接する隣国)では、事件発生前から軍事介入しているフランス軍が、イスラム武装勢力との戦闘を続けている。

フランス軍は、徐々にマリ北部を解放しはじめており、ガオなど解放された町では、イスラム武装勢力は姿を消している。しかし、サハラ砂漠は広いため、砂漠に隠れているだけだと懸念する専門家もいる。

今回人質事件で5人を殺されたイギリスは、フランス軍の援軍として300人規模の部隊を派遣することを決めた。キャメロン首相は、今日、アルジェリア現地入りし、今後の警備、マリでの軍事作戦などについてアルジェリア政府と検討する。

<アフリカ連合軍への引き継ぎ>

アフリカ連合(AU)諸国は29日、エチオピアで会議を開き、フランス軍撤退後はアフリカ諸国でイスラム武装勢力を押さえられるよう、アフリカ人による連合軍を配備することで合意した。

今後、フランス、イギリスなどEUが中心となり、アメリカも協力してアフリカ連合軍の訓練の他、悪の巣窟になる貧困を解決するため、地域の開発計画などを行う。

ただ欧米が訓練するというこのアフリカ連合軍。兵士の中にはつい最近までイスラム武装勢力にいた者が軍に戻ったという者もいるという。結局は、お金のあるところに人が集まるだけで、訓練したあげく、将来イスラム勢力に寝返る可能性も十分あるという分析もある。

<日本は資金援助>

日本は最大の犠牲者を出した国だが、自衛隊法があるため、イギリスのように部隊を派遣することはできない。そのかわりに日本は、上記のアフリカ連合軍訓練や、経済開発に向けて、約109億円を拠出することを決めた。

国連、アメリカ、日本など海外からの上記プロジェクトへの支援金は全部で約412億円。この中で、日本の拠出額はアメリカよりも多く、日本が全体の30%近くをカバーすることになる。

日本政府は、今後海外にいる邦人を守るため、迅速な決断を可能にするための国家安全保障会議や、自衛隊法改正も含めて検討することになっている。4月までにはなんらかの方針を決めたいとしている。

<石のひとりごと-今後、日本の政府に期待したいこと>

今回の人質事件を通して、日本政府が、緊急時に迅速で実際的な行動をすることができず、海外の邦人は、結局外国の軍隊に守ってもらわなければならないというきわめて不確かで無防備な状況であることが明確となった。

また、日本は、諸外国が世界レベルでイスラム武装勢力に対処しようとする中、4月までかかって、まずは自国民をどう守るという話し合いを国内でするところからのスタートになっている。被害者数も拠出金も最大であるのに、現地での活動にはいっさい参加できず、発言力もない。

急速に変わっていく世界情勢をふまえ、今後安倍政権が適切な法整備を行い、海外邦人の保護体制を確立するとともに、諸外国の中で、日本も共に協力する国になるよう期待したい。

イスラエル市民、ガスマスク準備に走る!? 2013.1.30

”何らかの変化がおこっている!?”と緊迫するシリア情勢。イスラエルでは、1991年の湾岸戦争以来配布されているガスマスクをリニューアルするイスラエル人が急増し、先週から通常の3倍近くになっていることがわかった。

ガスマスク・キットには、ガスマスクの他、化学兵器にさらされた場合に使用するアトロピン皮下注射などが含まれており、定期的にチェック、リニューアルする必要がある。

これまでに配布された最新のガスマスクは450万個以上。全人口の3分の2程度である。(Yネットニュース)

アサド政権崩壊に備えるイスラエルとヨルダン 2013.1.28

シリア内部の情勢が深刻化するとともに、ヨルダンへの難民急増(1日からだけで3万人)、アサド大統領の母親が脱出するなど、崩壊が近いと思われせるような微妙な動きになりつつある。

シリア内部には現在、アルカイダを含む様々なイスラム武装勢力入り込んでおり、アサド政権が崩壊した時に、どんな状況になるかはだれにも予想がつかない。

ヨルダンは、イスラエルとも連絡をとりあい、”その時”に備えてシリアとの国境警備を増強しているもよう。

<イスラエル、北部にアイアンドーム(迎撃ミサイル)2基設置>

イスラエルは、アサド政権が崩壊した瞬間、大量破壊兵器がヒズボラ(レバノン)の手にわたる可能性に備え、シリア内部の化学兵器の監視を強めている。

Yネットによると、シリア国内で化学兵器が保管されているとみられる場所付近にヒズボラが拠点を築いているという。アサド政権が崩壊前に、化学兵器がヒズボラの手に渡る可能性が高い。

シリア情勢が微妙になってきたのを受けて、イスラエル政府は昨日より、北部ハイファ近郊にアイアンドーム(迎撃ミサイル)2基を設置した。

エジプトで混乱の3都市、緊急事態宣言 2013.1.28

この週末だけで、政府側と反政府側との衝突で50人近い死者をだしたエジプト、スエズ運河周辺の3都市、ポートサイード、スエズ、イスマイリア。ムルシ大統領は、27日、この3都市について非常事態宣言(夜9時から翌朝6時までの外出禁止令)を出した。

これにより、むこう1ヶ月間、治安部隊は疑わしい人物を逮捕できるなどの権限を行使することになる。スエズ地域は、すでに無法地帯となっているシナイ半島に隣接しており、武器が比較的手に入りやすい地域である。

治安部隊(政府側)とデモ隊(反政府側)との衝突が収束するかどうか、予断をゆるさない状況である。

(アルジェリア関連)マリでイスラム勢力との戦闘本格化 2013.1.27

日本ではアルジェリアで人質事件の犠牲者10人が悲しみの帰国となっているが、この人質事件に関係したイスラム武装勢力と現在、アルジェリアの隣国マリで戦闘を続けているのがフランス軍である。

ここ数日、フランス軍とナイジェリア軍などアフリカの軍隊も協力し、イスラム武装勢力に支配されたマリ北部を解放し始めている。27日、マリ北部でイスラム武装勢力に占拠されていた町ガオがフランス軍によって解放され、市長が町に帰還することができた。

27日、アフリカ同盟(AU)はアジスアベバでサミットを開き、マリで戦闘中のフランス軍2500に加わるアフリカ軍を近隣アフリカ諸国から出すことを決めた。チャドやニジェールなどから7500人規模の軍が準備中である。

AUは現在、国連安保理に許可を申請中。アメリカ軍もフランス空軍に空中給油を提供する形で参加することになった。

*アルジェリア人質事件の首謀者とされるベルムフタルは、この北部マリに逃げ込んだといわれているが、その後の消息はつかめていない。

<残酷きわまりないイスラム武装勢力>

マリ北部に入っているメディアによると、マリ北部の町には、切断された手足がころがっているという。この地域のイスラム武装勢力の残忍性を現している。地上軍として戦っているフランス軍兵士らのリスクは非常に高い。

フランス軍の軍事介入により、現在西アフリカの欧米人が危機にさらされている。リビアのベンガジでは、深刻なテロの警告があったため、欧米人約50人が緊急脱出。アルカイダ系イスラム武装勢力は、フランスはじめ、ヨーロッパで報復すると言っている。

収拾つかない怒りの子 エジプト 2013.1.27

アラブの春2年目を記念して26日からエジプトで再燃した反政府デモ運動だが、全国で死者30人以上、負傷者数百人と激しさをましてきている。カイロのタハリル広場はまるでアラブの春が戻ったかのようである。

今回、さらに火を注いだのが、昨年発生したサッカー競技場での乱闘事件(73人死亡)に関連して行われた裁判。26日、シナイ半島に近い町ポート・サイードの裁判所で、この事件で拘束された21人に死刑が宣告された。

これを受けて歓喜する遺族とそのサポーターに対し、死刑になる者たちの家族とそのサポーターが裁判所の外で暴力的な衝突となり、少なくとも26人が死亡した。

ここまで暴力的になるのは、これが政府側と反政府側という対立の構造に関係しているからである。昨年のサッカー場での乱闘は、政府(当時は暫定軍政権)が全国的な戒厳令を出すために仕組んだものと考えられている。

そのため、サッカー場での被害者は反政府側、死刑判決に同意せず反発したのが政府側という構図なのである。エジプトがシリアのように内戦にならなければよいが、イスラエル周囲はますます嵐に突入していくようである。

イスラエル総選挙・その後 2013.1.26

22日に行われた総選挙だが、24日に集計が終わって正式な数字が発表となった。出口調査とほぼ同数で国会120議席のうち61席を右派、59席を左派(中道)と左右半々となった。

選挙名簿によって第19代国会入りを果たす120人の特徴は以下の通り。新党で社会変革をめざす「未来がある」党が予想以上に躍進したため、これまでの古い議員が出て、新しい議員が多数加わることになった。日本でいえば、新党の維新の会が、旧体制派を破って躍進したような形である。

1.新入りが49人(41%)
2.女性議員27人(イスラエル史上最大)
3.ジャーナリスト、大学教授など政治以外でのエキスパートが多く含まれる。
4.西岸地区側に住む議員が12人(10%)
5.ユダヤ教を生活に取り入れている議員は39人(30%)
6.アラブ系議員は11人(2人減)

これが何を意味するかといえば、全体的に内政重視で外交ではハト派の国会であると分析されている。

<ネタニヤフ首相、連立交渉開始>

右派左派半々、ハト派に傾く国会の中で、自身は右派のネタニヤフ首相がどんな連立を組むのか。以下の状況から過半数60議席以上のグループをつくるというパズルである。安定した政権を作るためには、実際には80議席を連立に入れる必要がある。

右派-リクード・ベイテイヌ合併党(31)、ユダヤの家党(12)、シャス・ユダヤ教政党(11)など
左派(中道)-未来がある党(19)、労働党(15)、ハツナ(リブニ党)(6)カディマ(2)など

ネタニヤフ首相自身は右派だが、右派だけで、連立を組むのは60ぎりぎりで不安定。今日、労働党が、連立には加わらないと発表したため、左派(中道)だけの連立も不可能となった。右派左派同居の政権は免れない。

<鍵を握る中道左派・新党の「未来がある党」>

結局は、次期政権に今回躍進した中道左派の「未来がある党」(ヤイル・ラピード党首)を連立に入れることになり、彼らとどの右派が同居するかなどで、ラピード党首とどう折り合いをつけるかが鍵になる。

また、連立の交渉は通常、どの大臣の椅子をどの党首に割り当てるかが大きな焦点になる。しかし、「未来がある党」のラピード党首は、つい最近まで人気ニュースキャスターだった人物で、政治家ではない。

そのため、自分の大臣の椅子よりも、実際の社会変革ができるポジションにしか興味がない。どの大臣でもよいというわけではないため、これまでのような交渉ではうまくいかない様子である。

<今後の流れ>

正式には来週、ペレス大統領が、ヨーロッパから帰国しだい、各党をまわってだれが連立・組閣を実現できるかを判断し、指名する。指名された党首は28日以内に連立政権を結成しする。もしできなければ2週間の延長が可能である。

選挙結果からもネタニヤフ首相が指名されることは確実。さらに3月初頭にはアメリカでAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)があるため、おそらく2月末までには組閣を終えるとみられる。

ヨルダンでも総選挙 2013.1.26

25日、ヨルダンでも初めての国会の総選挙が行われた。これは、ヨルダンで発生したアラブの春の結果、実現したことである。この選挙では最も組織力のあるムスリム同胞団はボイコットした。

そのため、選挙結果では別のイスラム主義勢力が、議席数を伸ばしたが、結果的に、親王室派が過半数を維持し、王室の主導が維持されることとなった。しかし、今回の選挙で、これまで国王にあった権威の一部は、議会に委譲されることになる。

まだまだ可能性は低いが、イスラエルの懸念は、アラブの春の延長でヨルダン王室が転覆させられること。その場合は、ヨルダン人口の70%を占めるパレスチナ人が台頭し、西岸地区のパレスチナ人と協力する可能性がある。

エジプト再燃 2013.1.26

エジプトでは、アラブの春2年目にあたる25日から、再び全国的に群衆が出てデモ活動を再燃させている。今回は、ムスリム同胞団出身でイスラム主義に傾く現ムルシ大統領に反対する世俗派のデモである。

カイロのタハリル広場でも負傷者多数、スエズでは5人の死者が出ている。

シリア情勢アップデート 2013.1.26

シリアでの殺戮は相変わらず続いている。反政府勢力が、イスラエルとの国境付近にあった政府本部を爆破したとの報告がある。イギリス系の情報筋によると、アサド大統領の母親がアラブ首長国連邦へ、妹がドバイへ逃亡したもよう。

1月に入ってから、シリアからヨルダン、レバノンへの難民が急増、12月の倍となっている。すでに70万人(22万レバノン、15.6万人ヨルダン、7.6万人イラク)を超える勢いである。

難民の多くは子供たちを女性たちが導いて逃げてきているという。難民の生活状況は悲惨で、国連人権保護団体によると人間が住む限界を超えているもよう。

総選挙・驚きの出口調査結果 2013.1.23

<テルアビブに設置された選挙センターより速報>*出口調査であり、最終結果ではないことに注意

1.右派と左派が半々

イスラエルで22日行われた国会総選挙。投票締め切りの22時に近づくに連れて、予想以上の投票率となり、最終的に66.6%となった。その結果、出口調査によると、右派に傾くとの予想を大きく覆し、右派政党が61、左派政党(中道を含む)が59とほぼ半々のバランスのとれた国会になるみこみとなった。

2.右派のびなやみ-ネタニヤフ首相に苦しい結果

22:00の時点で、最大議席を獲得したのはネタニヤフ首相のリクード・ベイテイヌ合併党だが、獲得した議席は予想を大幅に下回る31議席。同じく得票を伸ばしていると思われた極右の「ユダヤの家」党も17席との予想を大幅に下回る12席にとどまった。

3.中道左派躍進

右派に変わって予想以上に得票をのばしたのが中道政党の「未来がある党」(ラピード党首)である。2位になると思われた労働党(左派)を抜いて2位となった。3位となった労働党(中道)は17席。

宗教政党シャスは、予想通りの12席。かつての女性首相候補だったツィッピー・リブニ氏の党は7席だった。

<国内問題解決を望むイスラエル市民>

今回、大きく議席を伸ばした新党「未来がある党」は、社会構造の変革を訴える党で、指示基盤は、世俗派からユダヤ教正統派までと幅広い。今回の結果は、イスラエル市民が、より平等な徴兵制など、国内に山積みとなっている社会問題の是正を第一に望んでいることを示している。

しかし、「ユダヤの家」党も、予想を下回ったとはいえ、解散前の国会では3議席であったのが12議席へと躍進している。「ユダヤの家」党は2国家2民族(国をイスラエル人とパレスチナ人で分け合うという考え)を支持していない。
したがってパレスチナとの土地問題に関していうならば、イスラエル市民が右寄りに傾いてきていることも確かなようである。

<今後の動き>

最大議席をを獲得した党の党首として、時期政権でもネタニヤフ首相が続投となる。

首相は今後42日以内に連立政権を立ち上げなければならない。右派だけで政権を形成することは難しいため、中道の「未来がある」党に、極右の「ユダヤの家」党を含める可能性があるが、難しい交渉になりそうである。

明日、第19代国会・総選挙 2013.1.21

イスラエルでは明日、総選挙が行われる。イスラエルで投票できるのは18才以上で,今回の有権者数は566万人。投票率はこれまでの平均からすると70%と予想されている。明日は、バスは動くが全国で休日となる。

選挙会場は、全国に10235カ所。障害者のための会場は1552カ所。病院に94カ所。刑務所にも57カ所となっている。
朝8時から夜10時まで(日本時間22日午後3時から23日朝4時)投票が受け付けられ、即時開票される。日本と同様、11時ごろには、出口調査ですでに結果がわかるようになっている。

<選挙のしくみ>

イスラエルは小さな国なので、選挙区は一つである。有権者は、登録された34党の中から一つ選んで党名で投票する。獲得票の割合にしたがって、各党に議席数が割り当てられる「選挙名簿」式である。

イスラエルの国会の総議席は120。イスラエルでは建国以来、単独政党が政権をもったことがなく、必ず連立政権になる。最大議席を獲得した党の党首は、42日以内に連立政権を確立することになる。

<選挙運動>

イスラエルでは街頭演説や、選挙カーによる宣伝はない。党首の顔をあしらった大きなポスターは電車の駅などにあるが、町中にはみあたらない。バスの中に、党名をアピールした小さなステッカーが数枚はってあったが、男性がそれをはがしてまわっていた。

イスラエルでは、テレビでの討論がさかんで、党首への直接インタビューはもちろん、それぞれの党が代表を出して、けたたましく論争している。お互いを非難するタイプのアピールも結構あり、醜い争いとなっている。

現時点で、まだどの党に投票するか決めていない人は18%。市民の反応は、おおむね「政府が変わってもどうせなにもかわらないだろう」というもの。特にアラブ系市民にとっては何も期待するものがないため、アラブ人の投票率はこれまでで最低と予測されている。

<史上最も右よりになると予想>

今回の選挙では、すでにネタニヤフ首相のリクード・ベイテイヌ合併党が最多議席を獲得するのはすでに予想ずみである。しかし、最多といっても予想は32議席。したがって、選挙後にどんな党と連立を組むかが時期政府の特徴となる。

今回の特徴としては、宗教シオニストの「ユダヤの家」党が獲得票を増やしていることがあげられる。ネタニヤフ首相と「ユダヤの家」党のベネット党首は犬猿の仲と言われているが、彼らを含めないわけにはいかないと思われる。BBCは史上最も右よりになるとの予想(懸念)を報道している。