地獄の経験を語るアロン・オヘルさん 2025.12.3

解放された人質たちが、少しずつ、その恐怖の体験を明らかにしている。最後に解放された20人のうちの一人、アロン・オヘルさんが、イスラエルのテレビ(チャンネル12)で衝撃の証言をした。

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アロンさん(当時23歳)は、ノバ音楽フェスティバルでハマスの襲撃を受けていた。この時アロンさんは、ハーシュ・ゴールドバーグさん、アネル・シャピラさんらと、道端のシェルターに駆け込んだ。

アロンさんたちの隠れ場に、ハマスが投げ込んでくる手榴弾を投げ返したのは、シャピラさんだった。

シャピラさんは、手榴弾7個は投げ返したが、8個目が間に合わずに爆発で死亡したアロンさんは、この時、軍は何をしているのかと思ったと語っている。

この時一緒にいた、ハーシュ・ゴールドバーグさんも手榴弾を投げ返そうとしたが、手中にあるうちに爆発し、左腕を失った。家族には後に、その左腕がない姿の映像が送られていた。

アロンさんはこの一連の攻防の中で、破片が目や、胸部などにあたったと考えている。この時、アロンさんは、何があっても絶対に死なないと心に決めたと語っている。

その後、アロンさんは、シャラビさんらとともに拉致された。ガザに着いた時、怒り狂ったガザ市民の群衆が待ち構えていたという。「罪のない傍観者のガザ市民」という表現には、笑いしかないと語る。

その翌日、アロンさんは、麻酔なしで、傷の治療を受けた。それから最初の52日は、エル・シャラビさん、ゴールドバーグ・ポリンさんら4人とともに、地上にいたという。

その後、アロンさんとシャラビさんだけは、別のトンネルに連れて行かれた。その他3人は、2024年8月に別のトンネルの中で処刑され、遺体が発見されたのであった。

アロンさんは、シャラビさんと、あと二人とともに、地下のトンネルで2年近くを過ごした。トンネルの中では、猿のように鎖に繋がれ、監禁されていた間に大半は、意図的な飢餓状態に置かれたという。時に食料が与えられると犬のように食べさせる。もはや動物だったと語っている。

ある時、オヘルさんは、空腹に立腹し、壁を叩きつけた時に、骨が折れたかもしれない痛みに襲われた。この時しっかり抱きしめてくれたのが、エル・シャラビさん(当時53)だった。

は、待っている家族のために生きようと励ましあったという。シャラビさんは、アロンさんにとって父親のような存在になった。

しかし、エル・シャラビさんは、この時、妻も子供二人も殺されていることを知らなかったのである。救出されたあとでそのことを発見したと聞いて、解放後、頑張っていたアロンさんは、精神的に崩れたと語っている。

アロンさんは、人質の間中、イスラエル軍の攻撃を恐れていたと語っている。まるで映画のように、イスラエル軍の銃撃の中、トンネルの中を走って逃げた時もあった。

軍への信頼が薄れる中、アロンさんを支えたのは、ハマスが見せた、テルアビブでのデモに、自分の写真が掲げられていたのを見た時だった。

知らない人までが、自分の解放を願っている様子を見て、絶対に諦めないと自分に言い聞かせたという。

しかし今年1月、父親のように頼りにしていたシャラビさんが、先に解放され、アロンさんはトンネルの中で、たった一人になった。シャラビさんは、この時、アロンさんがしがみついて、離れなかったと語っている。

*以下はエリ・シャラビさんの証言

mtolive.net/人質が直面していた地獄:元人質エリ・シャラビ/

人質の最後の一人になるかもしれないという絶望に襲われたが、それ以降、食料には困らなくなったという。解放されるシャラビさんの痩せこけた様子が批判を受けたことから、ハマスが方向転換したのである。

シャワーも浴びるようになったが、このころから、管理者がアロンさんの全身を触るという性的な嫌がらせを受けたという。

さらにはその後、人間の盾として、ガザ北部へ移動させられ、家族に手紙を書かされた。それから急速に交渉は進み、解放へと進んだのであった。

www.timesofisrael.com/no-matter-what-i-choose-life-alon-ohel-shares-how-he-survived-2-years-in-gaza-captivity/

石のひとりごと

名前は思い出せないのだが、別の人質は、手錠をかけられたが、担当のハマスが鍵をなくして、外せなくなった。

そのため、とうとう、お前の手を切るしかないと言われたという。死んだ方がましだと思った瞬間、別のハマスが鍵を持ってきて、その難は逃れたという証言もあった。

2年半におよぶ人質の地獄の経験は、アロンさんも言っているように、経験したものでなければ想像もつかないだろう。このようなハマスを支持する世界の人々は、こういうハマスのリアルを知っているのだろうかと思う。解放された人質たちの今後の人生を思うと、若い人が多いので、長いバトルになりそうである。

家族全員を殺されてなお、新たな人生を歩んでいるエリ・シャラビさんの生き方が、彼らの模範になるだろうかとも期待する。

しかし、やはり最終的な解放は、古い人生から全く新しい人生に導く福音だと思う。

シリア国境で戦闘:イスラエル兵6人負傷・シリアで13人死亡 2025.11.29

White House in Washington, November 10, 2025. (Syrian Presidency press office via AP)

ガザ、レバノン南部での衝突に加え、シリアがきな臭い感じになっている。

シリアのアル・シャラア大統領は、トランプ大統領から、イスラエルとの国交正常化して、アブラハム合意に参加を勧められたが、まだ時でないと受け入れなかった。

加えて、イスラエルに対し、ゴラン高原など、イスラエルが緩衝地帯だとして、アサド政権打倒につながった内戦時に、シリア側に前進して、そのまま駐留しているところからの、撤退を求めたのであった。

現時点でイスラエル軍が駐留しているのは、ヘルモン山2か所とゴラン高原などシリア南部とイスラエルの国境周辺の9か所である。

多くのドルーズ族が住んでいる地域でもあり、イスラエル軍の支配域になったことで、シリアとイスラエルにいるドルーズ族が再会できたといったニュースも出ていた。

それから今に至るまで、シリアにいるテロ組織と、イスラエル軍、またドルーズ族にも攻撃は続いていたのであった。

シャラア大統領の要求に対し、ネタニヤフ首相は、あえて、ゴラン高原の駐屯地を自ら査察し、そこから絶対に撤退しないとの返事を発したのであった。

こうした中、11月28日(金)早朝3時、イスラエル軍は、シリアとの国境から7キロシリア側の村、ベイトジンも入り、イスラム教テロ組織アル・ジャマア・アル・イスラミヤ(ムスリム同胞団(ハマス関連)の政治ネットワークの一部)のメンバーで、兄弟の2人の身柄を拘束した。

イスラエルのテレビ、KANによると、2人は、以前に爆発物をしかけたことや、イスラエルに向けたミサイルにも関与していたという。

イスラエル軍によると、アル・ジャマア・アル・イスラミヤは、レバノンとシリアでハマスと連携する組織で、今回、戦闘になったベイトジン含むシリアとレバノンの国境周辺、またレバノン南部でも武力維持を維持しているテロ組織である。

2人の拘束自体に混乱はなかったが、逮捕して家を出たところで、イスラエル軍への銃撃が発生。部隊が反撃するとともに、イスラエル軍からは、ドローンやヘリコプターも加わって、戦闘状態になった。

この戦闘で、イスラエル兵6人が負傷(3人は重傷)。シリアのメディアによると、シリア側では、少なくとも13人が死亡した。シリアは、これを戦争犯罪だとして、非難した。

www.timesofisrael.com/report-idf-mulling-expanded-op-in-syria-checking-whether-sharaas-forces-fired-on-troops/

しかし、イスラエルは、今回阻止した、アル・ジャマア・アル・イスラミヤ戦闘員2人によるイスラエル攻撃計画と、以前発生していたドルーズ族攻撃の背後に、アル・シャラア大統領の諜報機関が関与した可能性があるとみている。

イスラエル軍は、これまで、地上軍がシリア側に入って、アル・ジャマア・アル・イスラミヤなどのテロリストを未然に拘束する方針をとってきたが、今回の衝突を受けて、地上でのテロリスト逮捕ではなく、拠点を空爆する方針に変える可能性があるという。

そうなれば、イスラエルと今のシリア政権との戦闘の構図にもなり、明らかに、シリア国境もエスカレートする形になる。

www.timesofisrael.com/report-idf-mulling-expanded-op-in-syria-checking-whether-sharaas-forces-fired-on-troops/

石のひとりごと

イスラエルを亡き者にしようとする勢力は、あきれるほどに限りない。まさに人間力を超えている。主があらゆる策略からイスラエルを守ってくださるように。

イスラム聖戦の人質だったドロール・オールさん(48)の遺体帰国 2025.11.27

ガザでイスラエルとハマスの衝突が続く中、イスラム聖戦の人質となっていた遺体一人が、ガザ市内でみつかったとハマスが発表。

11月26日夜、赤十字を通じて、イスラエル軍に引き渡した。その後の法医学検査の結果、遺体が、キブツ・べエリ住民のドロール・オールさん(48)であることが判明した。

 

ドロール・オールさんは、10月7日、自宅のキブツ・べエリで、イスラム聖戦によって殺害され、遺体はガザへ拉致されていた。

妻のヨナット・オールさんも同時に殺害されたが、遺体は残されていた。

子供2人、ノアムさん(写真左端)、アルマさん(右端)は、ガザへ拉致され、2023年11月の停戦合意の際の人質交換により、イスラエルへ帰国した。

ドロールさんは、料理学校出身で、テルアビブで料理人として働いていた。ヨナットさんと結婚後、ヨナットさんの実家であるキブツ・べエリに定住し、2009年からは、キブツの中で、料理人の経験を活かして、チーズ製造分野で働くようになった。

その後、イタリアとフランスで学んでチーズのスペシャリストとなり、キブツで、乳製品のケータリング事業の経営を担当してういた。キブツでは、チーズ職人として親しまれていた人だった。

ドロールさんの遺体が戻されたことを受けて、イスラエルは、27日、パレスチナ人15人の遺体を、赤十字を通じて、ガザへ返還した。

ここではあまり、お伝えしてこなかったが、合意に従い、ガザから人質の遺体が戻り、確かに人質であることが確認されると、代わりとして、パレスチナ人収監者遺体15人を引き渡してきている。

現時点で、残されている遺体は、2人、イスラエル人のラン・グヴィリ軍曹と、タイ人のスティサック・リンタラックさんとなった。

www.timesofisrael.com/body-of-dror-or-devoted-father-and-beeri-cheesemaker-returned-to-israel-from-gaza/

石のひとりごと

人にはそれぞれ人生があり、世界がある。それを破壊しつくしてしまう、改めて、殺人の罪深さを感じた。

あと2人の遺体が、絶対に帰ってくるように祈る。

ラファで起こっていること:地下トンネル立ち往生のハマス一掃とガザ避難民仮設地域設営準備 2025.11.27

ガザでは、停戦から1ヶ月をすぎたたが、人質全員解放の約束がまだ完了していない。しかし、CMCC(国際軍民調整センター)では、第二段階への準備を始めている。

まずは、ガザの中に駐留するISF(国際安定化軍)の準備だが、さすがにこれほど複雑で危険な地域に、喜んで自国兵士を派遣する国は少ないようで、まだ配備にむけた具体的な発表はない。

しかし、ぐずぐずしている間に、イスラエル軍が撤退した地域では、すでにハマスが本格的な支配を回復させている地域があるとのこと。

こうした中、アメリカとイスラエルはが、第二段階への準備を進めている。ガザ南部ラファ地域に、ハマスが入り込まない、安全なガザ市民が住む安全地域を設立することである。

こうした中、南部ラファでは、以下のようなことになっている。

ラファ地下トンネルで足止めのハマス

10月の停戦合意から1ヶ月以上になるが、ガザ南部ラファでは、停戦になった時から、イエローラインのイスラエル軍側の地下トンネルで、ハマス約200人が、足止めになっている。これらを一掃しなければならない。

イスラエル軍は、先週、仲介国を通じて、ハマス幹部に、ラファの地下トンネルにいる者たちが、投降し、イスラエルの刑務所に入ることに同意するなら、その後で、ガザのハマス側へ釈放する道を提供すると申し出た。ただし、釈放の条件は、テロ活動への復帰を放棄し、武装解除に同意することとなっていた。

これに応じる形ではないが、さすがに、停戦から1ヶ月をすぎ、食糧もなくなってきたとみえ、戦闘員たちが、地上に出てくるようになっている。

投降する者もいるが、多くはイスラエル軍を攻撃して、逆に射殺される者もいる。イスラエル当局者は、「ハマスには、生存の機会を提供したが、結局、“殉教”の道を選んだようだ」と語っている。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/report-israel-offers-trapped-hamas-fighters-in-rafah-chance-to-surrender-and-relocate/

ラファにアメリカ主導のガザ避難民代替安全地帯「グリーンラファ」設立へ

ラファでは、アメリカが、イエローラインから東側でイスラエル軍が駐留している地域に、ハマスが関与できない形の、ガザ市民代替安全地帯の設立を計画している。そこには、2万5000人を収容する予定で、「グリーンラファ」と呼ばれ、来週にも着工が始まるとみられている。

www.jpost.com/middle-east/article-876340

この施設には、診療所や教育施設も設置される予定である。将来的には、今イスラエル軍が駐留する地域(ガザの53%)に、6つの安全地帯を設立する計画が提案されているとのこと。しかし、ガザ市民は200万人いることを考えれば、まだまだ一部にすぎないといえる。

また、アラブ系外交官は、多くのガザ市民は、ハマスの支配下で生活したくないと考えてはいるものの、ガザでこの2年の間に、これだけの破壊と、7万人近くの死亡の原因となった攻撃をしたイスラエル軍の支配下に入ろうとする人が果たしているだろうかと疑問を呈している。

www.timesofisrael.com/construction-of-first-us-backed-housing-compound-said-to-begin-this-week-in-rafah/

しかし、ガザでは、先週と今週にも大雨でテントを失った避難民も出ているので、この地域に入るしかない人もいるのではないかと期待する。

www.timesofisrael.com/everything-is-soaked-rain-floods-gaza-tents-amid-efforts-to-ramp-up-aid/

GHF(ガザ人道財団)活動終了と発表 2025.11.27

ガザでの停戦から1ヶ月をすぎた今、ガザで食料配布を行なっていた、GHF(ガザ人道財団)がその活動の終了を発表した。

GHFは、ガザでの戦争が続く中、国連によるガザへの支援物資搬入が、ハマスの強奪などで市民に効果的に届いていないことを受け、、国連が関与しない(つまりはハマスが関与しない)方法で、ガザでイスラエル軍が治安維持を図っている地域の4か所に、独自の支援物資配布センターを設立。ガザ市民に物資を取りに来てもらう様式での支援活動を開始した。

しかし、この方式では、人々が遠くの配布所まで、歩かなければならないことや、ハマスの妨害で、道中でイスラエル軍と衝突が発生した他、配布センター周辺でも衝突が起きて、多くの人が死亡したため、国際社会では物議となった。国連を通していなかったことで、国連からも不満が続いた。

GHFは、資金不足もあり、9月ぐらいから、支援は徐々に縮小されていたようである。停戦以後の国際社会による、ガザ復興計画にGHFは含まれていなかった。

こうした中、11月24日(月)、GHFは、正式に5ヶ月の任務を終え、CMCCにその任務を引き継ぐと発表した。

GHFが、この5ヶ月の間に配布した食料は1億8700万食。当初計画していた16カ所での配布計画は実現しなかったが、緊急事態には対処できたのであり、失敗した点も次に活かせるとして、GHFは活動が果たすべき任務を果たし終えたとしている。

なお、停戦になっている今では、1日平均800台分の支援物資がガザに搬入されている。相変わらずハマスなどによる強奪は発生しているが、ガザ市民への物資配布は十分になっていると推測されている。(ハマスの横領や、高価で販売するなどの問題は今も続いている)

www.timesofisrael.com/gaza-humanitarian-foundation-announces-end-of-operations-in-strip-after-5-months/

ヒズボラNo2タバタバイ暗殺その後 2025.11.27

(Photo: REUTERS/Mohamed Azakir)

11月23日(日)、イスラエル軍が、レバノンの首都、ベイルート南部で、ヒズボラNO2のアリ・タバタバイを暗殺した。

その後、イスラエルでは、ヒズボラによるロケット攻撃に備えて防空警戒レベルを強化していたが、ヒズボラからの大きな反撃は今のところ、発生していない。

ベイルートでは、数千人ともみられる人々が、タバタバイの葬儀の参列していた。「私たちは降参しない」と強気の声をあげている。

今後、イランを含めどう出てくるか、懸念は続いている。

10月7日の原因はどこに?イスラエルがハマス襲撃から学んだこと 2025.11.27

イスラエルでは、今、10月7日のハマス侵攻を許してしまったことの原因とその責任の検証が行われている。

イスラエル軍では、当時の司令官たちが、ハマスの実力を誤認していたことに加え、ハイテク防衛機器に依存していた部分もあり、警告があったのに、ハマス侵攻にすぐに対処していなかったという、大失策を認め、当時の参謀総長ら複数の司令官たちが、辞任している。イスラエル軍もこれらの失策を正式に認めている。

しかし、ネタニヤフ首相や政府高官たちは、責任を認めないため、政府と軍が対立していることが報じられている。軍のザミール参謀総長と、カッツ国防相の対立に、ネタニヤフ首相が間に入るほどの対立である。


IDF Chief of Staff Lt. Gen. Eyal Zamir salutes over the grave of David Ben-Gurion at Midreshet Ben-Gurion next to Sde Boker in southern Israel, November 26, 2025. (Israel Defense Forces)

しかし、ザミール参謀総長は、11月26日(水)に行われた、ベン・グリオン初代首相死後52周年記念式典において、「イスラエルには、責任から逃げない、勇気あるリーダーシップが必要だ」と表明した。

また、指揮官の責任は再建することにあると語り、今後の歩みへの覚悟も語っていた。

www.timesofisrael.com/idf-chief-israel-needs-bold-leadership-that-recognizes-failure-doesnt-frighten-evade/

レバノンでのヒズボラNO2のタバタバイの暗殺は、イスラエル軍が、ハマス対策の失策から学んだことを反映していると言われている。

それは、危険因子を、絶対にそのままにしておいてはならないということである。国境付近にヒズボラが活動しているなら、世界に何を言われようが、これを殲滅する。ガザも同様である。これがハマス侵攻から学んだこととみられている。

www.timesofisrael.com/idf-on-alert-as-hezbollah-weighs-response-to-military-chiefs-killing/

*なぜイスラエルはタバタバイの暗殺をしたのか

2023年10月7日のハマスによるイスラエル襲撃以降、ヒズボラは、ハマスを支援するとして、イスラエル北部からの攻撃を開始した。イスラエル国境からは6万人が避難を余儀なくされた。

これに対し、イスラエルは、レバノン南部地域に入って、ヒズボラ拠点を攻撃、破壊し、ついには、ナスララ党首を殺害した。しかし、戦闘はやまず、レバノン南部住民もまた避難を余儀なくされ、レバノン政府も巻き込まれることになった。

約1年後の2024年11月、イスラエルは、レバノン政府と停戦合意に至り、レバノン政府が、ヒズボラを、リタニ川以北まで撤退させ、レバノン南部地域に残留するヒズボラとそのインフラを一掃することになった。

しかし、ヒズボラは、レバノン軍よりはるかに強力である。レバノン南部から撤退するどころか、武器の蓄積や南部への駐留を再開し始めた。このため、イスラエル軍が、自ら攻撃してきたが、特に、ここしばらく、激しい攻撃を行っていた。タバタバイは、南部でのヒズボラ再建の責任者だった。

ベイルート攻撃でヒズボラ参謀総長死亡・レバノン南部攻撃の波の中 2025.11.24

イスラエルがベイルートでヒズボラNo2暗殺

11月23日(日)、イスラエル軍が、レバノンの首都、ベイルート南部の建物(9階建の3、4階部分)にミサイル3発を発射。その部分と付近の建物、階下の車両などが破壊された。

これにより、ヒズボラの軍事部隊No2のヘイサム・アリ・タバタバイ(56)と戦闘員4人が死亡した。

夕刻になり、ヒズボラが、タバタバイの死亡を確認する声明を出した。この他、レバノン保健省からは、28人が負傷したとの報告が出ている。

2024年11月にイスラエルとレバノン(ヒズボラ)が停戦して以降も、ヒズボラは合意に違反して、南レバノンに再結成する動きを止めていない。

合意によれば、レバノン軍が、南レバノンのヒズボラを武装解除することになっていたが、時間の経過とともに、ほぼ何もできていないことが明らかになっている。

このため、イスラエル軍も、合意違反ではあるが、自ら南レバノンへのヒズボラ地点への攻撃を行い、ヒズボラ戦闘員や、司令官の殺害も行っていた。

しかし、ここ数週間の間、イスラエルの攻撃がエスカレートしており、先月だけでヒズボラ戦闘員20人を殺害。先週だけで合計13人を殺害していた。

www.timesofisrael.com/idf-carries-out-wave-of-airstrikes-on-hezbollah-sites-across-lebanon/

しかし、イスラエルが、レバノンの首都ベイルートへの大規模な攻撃を実施するのは、停戦以来、最大の攻撃となる。

これについて、ネタニヤフ首相とカッツ国防相は、これまで現地で指揮する比較的下級の司令官たちを暗殺してきたが、それだけでは、ヒズボラの動きを止められないことがわかったとして、今回、ヒズビラ軍事部No2(故ナスララ元ヒズボラ党首の後継者ナイム・カセムの次)の暗殺に踏み切ったと語っている。

*タバタバイ:賞金500万ドルの指名手配テロリスト

Ali Tabtabai, November 23, 2025. (credit: screenshot, US STATE DEPARTMENT)

タバタバイは、1980年代からヒズボラに入隊し、エリートのラドワン部隊司令官やシリアにおける、ヒズボラ部隊の総司令官、その後も作戦部門総責任を務めた。

イスラエルは2015年に暗殺を試み、2016年からは、アメリカの指名手配対象となり、情報提供者には、500万ドルの賞金がかけられていた。

それでも生き延びていたタバタバイは、イスラエルと停戦になった2024年11月以降、ヒズボラの軍参謀総長となり、組織の再建を主導していたとみられている。タバタバイの死は、ヒズボラには大きな打撃になったと予想される。

ネタニヤフ首相は、タバタバイ殺害の後、「ヒズボラの再建に対する軍参謀総長の勧告を受け、攻撃に踏み切った。イスラエルはヒズボラが軍事力を回復することを看過することはできない。今後は、レバノン政府が、ヒズボラの武装解除をするという約束を果たすことを期待している」との声明を出した。

今後どうなる?

ヒズボラは、イスラエルが新たな一線を超えたと非難。レバノンのアウン大統領は、イスラエルのレバノン侵攻を国際社会は阻止するべきだと訴えた。

今の所、ヒズボラが大規模な反撃をする様子はないが、かつてヒズボラはイスラエルに向けたミサイル15万発の発射準備を整えていた。

これまでの攻撃でかなり減らしたが、まだ数万発は残っていると推測されている。それらがハイファや、テルアビブなどに発射される可能性は否定できないとのこと。

www.jpost.com/middle-east/article-874901

タバタバイの暗殺について、アメリカには、事前報告はなかったが、アメリカ当局者は、この暗殺を賞賛していると、Times of Israelは伝えている。

www.timesofisrael.com/in-escalation-idf-says-it-killed-hezbollah-military-chief-in-targeted-beirut-strike/

ラファの地下トンネルから出てくるハマスと戦闘・投降も:週末に21人死亡とハマス 2025.11.24

ガザについては、10月10日に停戦となり、イスラエル軍は、イエローラインまで撤退した。以後、その範囲内にまだいるハマスやそのインフラの破壊を行っている。

以下は、ガザ北部、ベイト・ハヌーンの地下で発見された、7キロに及ぶハマスの地下トンネルの全貌。

一方、ハマスは、停戦後に物資搬入が、1日600〜800台以上で再開されたことを受け、イスラエル軍が撤退した、イエローラインより海岸側の地域で、勢力を強化しているとみられている。

しかし、イエローラインからイスラエル軍側に出てきて攻撃してくるケースもあり、これまでにイスラエル兵3人が死亡している。

その度に、イスラエル軍と衝突になり、ハマスによると、これまでに、300人以上が死亡したと主張している(戦闘員と民間人の区別なし)

ガザ南部ラファでは、イエローラインよりイスラエル側、イスラエル軍が駐留している、その足元の地下トンネルに、ハマス200人が立ち往生になっていた。

そこから戦闘員が出てきて、イスラエル軍と衝突するケースが増えている。以下はラファのトンネルから出てくるハマスの様子。

Gaza’s Rafah on November 21, 2025. (Israel Defense Forces)

Times of Israelによると、この週末も、ラファの別々の位置にある2つのトンネルから、ハマス15人が出てきて、5人が投降して身柄を拘束され、6人はイスラエル軍を攻撃して逆に射殺された。ハマスは21人が死亡したと主張している。

www.timesofisrael.com/idf-troops-killed-6-hamas-operatives-who-emerged-from-rafah-tunnels-nabbed-another-5/

こうした状況の中、国連安保理は、先週11月17日(月)、ハマスの武装解除を含むトランプ大統領のガザ和平案20項目を可決して、正式な国際社会の方針と位置づけたが、ハマスは、武装解除を拒否する声明を出した。

11月22日(土)には、ウィトコフ米特使に、停戦の崩壊を警告していた。

www.jpost.com/israel-news/defense-news/article-874788

ハマス指導者たちは今、カイロに集まり、トランプ大統領案の第二段階についての検討を行っている。

なお、ガザには、まだ3人の遺体が残されている。ややこしいことに、今、ラファのイエローラインのイスラエル側で、ハマスが遺体の捜索を行っている。

こちらはイスラエルとの協力体制があるもようである。

しかし、ネタニヤフ首相は、11月23日(日)、あくまでもハマスとヒズボラに対する攻撃はやめないと表明している。

石のひとりごと

国際社会は停戦と和平を望んでいるのだが、ハマスがイスラエル崩壊を諦めることはないし、イスラエルが、そのハマスを信用することもない。対立は延々と続くとしかみえない。。

国際安定化軍(ISF)派遣に向けて計画急ぐCMCC(軍民調整センター)2025.11.24

今後ガザの治安を維持し、復興させていく計画は、トランプ大統領の主導のもとで進められる形である。10月10日の停戦合意の後、イスラエル中部のラマット・ガンでは、CMCC(Civil-Military Coordination Center)の拠点が設立された。

CENTCOM訪問のルビオ米国務長官Kiryat Gat on October 24, 2025 (Marco Rubio via X)

CENTCOM(アメリカ中東軍)を中心に、イスラエルを含め、協力しようとする20カ国からの代表と40の国際機関代表、計600人以上が集まっている。

ラマット・ガンに、既に人員を派遣している国々は、次の17カ国。欧米諸国もアラブ諸国も含まれている。

オーストラリア  カナダ  キプロス  デンマーク  エジプト  フラン  ドイツ  ギリシャ  イスラエル  ヨルダン  オランダ  ニュージーランド スペイン  スイス  UAE アラブ首長国連邦 イギリス  アメリカ

20カ国のうち、パレスチナ自治政府と、イスラエルと直接国交のない、カタールとトルコも代表を派遣していない。しかし、トルコとカタールは、不在であってもガザ復興の、特に経済的なことでは、中心的存在なので、存在感は十分あるとのこと。

ラマット・ガンのCMCCは3階建てのビルで、それぞれチームに分かれて、ガザ復興にむけた計画を進めている。ここでは、停戦状況をチャートで示す大きな画面があり、ガザで何が起こっているのかが見えるようになっている。

イエローラインからイスラエル側へ出てくるハマスや、その時の紛争。また、物資のトラックが横領される様子も、イスラエルが説明せずとも、国際社会の目に明らかになっていることは、イスラエルも評価している。

しかし、集まってはいるものの、今後、この試みが、どうなっていくのか、先行きは、まだあまり見えてこない。

これまでからも、紛争地帯に国際社会の監視団体が入る例はいくつかあった。

その一つが、レバノンでイスラエルとレバノンの停戦を監視するUNIFILである。しかし、UNIFILがヒズボラの拡大を取り締まれなかったように、これまでに、国際監視部隊が、効果的に任務を果たせた例はない。

今回は、さらに、通常は敵対しがちな欧米諸国とアラブ諸国が一緒になっている。それが、イスラエルとハマスがまだ戦っている紛争地帯に入って、停戦を監視するとともに、ガザの復興も図るという。これまでにない、史上初の試みだと言われている。

さらに、今回、主導はアメリカだが、復興への主な出資者は、カタールとトルコとされている。しかし、イスラエルは、この2カ国がハマスの支援国なので、パレスチナ自治政府関係者とこの2カ国代表が、ガザに入ることに、強く反対している。

今、CMCCが、まずしなければならないことは、ISFをガザに派遣することである。遅くなればなるほど、ハマスが勢力を拡大してしまう。

現在、部隊の名前や、ユニフォームが検討されているとのことだが、その構成がどうなるのかなどは、まだ明確ではない。

ISFは地元パレスチナ人とも協力することになっているが、その代表は含まれていないことにBBCは懸念を表明している。実際のところ、これで、ISFは本当に稼働できるのかどうか、先行きはかなり不明といえる・・

www.timesofisrael.com/as-us-dives-into-remaking-gaza-shades-of-nation-building-come-into-focus/

www.ynetnews.com/article/sjrlhdqgwg

www.timesofisrael.com/optimism-abounds-at-gaza-coordination-center-but-violence-puts-truce-at-risk/

石のひとりごと

今世界で起こっていることは、予想外ばかりである。なので、いかに否定的に見えても、何が起こるかはわからない。意外に成功するかもわからない。今後、CMCC、ISF、また、ガザがどうなっていくのか、注視しながら、お伝えする。

ネタニヤフ首相シリア国境訪問:撤退しないと強調 2025.11.24

November 10, 2025. (Syrian Presidency press office via AP)

11月10日、シリアのアル・シャラア大統領が、ホワイトハウスでトランプ大統領を訪問した際、アブラハム合意にはまだ参加する時ではないと表明していた。

その時に訴えたことの一つが、前アサド政権追放のゴタゴタの中で、ゴラン高原のシリア側などに、進出して居座っているイスラエル軍が撤退することだった。(紫部分)

この後の11月19日(水)、ネタニヤフ首相が、サル外相、カッツ国防相、ザミールIDF参謀総長、シンベトのジニ長官を伴って、ゴラン高原に駐屯するイスラエル軍を訪問。

「シリアとの緩衝地帯にイスラエル軍が、駐留することは、両国の衝突を防止するために不可欠だ」と述べ、駐留部隊を賞賛するクリップを発表した。

イスラエルがここから撤退することはないという、クリアなメッセージとシリアとアメリカにも見せつけた形となった。

www.ynetnews.com/opinions-analysis/article/s1u26ahxbe

イランが核ミサイル製造疑い:IAEA理事会が6月破壊?核施設査察要求で可決 2025.11.24

今年6月に、イスラエルとアメリカが協力して、イランの核開発施設を攻撃してから5ヶ月になる今、イスラエルがイランを再攻撃するのではないかとの懸念が高まっている。

イスラエルとアメリカは、今年6月13日から12日間、イランの核施設への攻撃を断行した。この時、イランが、どこかに隠している高濃度ウランを取り上げることはしなかった。

しかし、それを核兵器にするための施設は全て破壊したとして、イランが核保有国になる危険性は、当分遠のいたと判断している。

しかし、イランは、その後9月に予定されていた、IAEAによる核濃縮施設への査察を受け入れなかった。

Iranian President Masoud Pezeshkian listens to explanations as he visits the country’s nuclear achievements photo released on November 2, 2025. (Atomic Energy Organization of Iran via AP)

イランが今も保有する60%の高濃度ウランは、440.9キログラムである。これを90%にするのは容易で、イランが核兵器10個を製造することも理論上は、可能である。IAEAの査察を拒否する中、懸念が広がっていた。

こうした中、11月9日、ニューヨークタイムスは、イランが、弾道ミサイル数千発を急ピッチで増産していると報じた。

www.nytimes.com/2025/11/09/world/middleeast/iran-nuclear-program-israel.html

高度な迎撃能力を持つイスラエルでも、数千発のミサイルが一気に発射されたら、全部迎撃することは難しい。もし核弾頭がついたミサイルが迎撃をすりぬけて、イスラエル国内に着弾したら、想像を絶する被害を受けることになる。

これをイスラエルが黙ってみているはずはなく、イスラエルが再びイラン攻撃に出るのは時間の問題との懸念が高まっている。

www.timesofisrael.com/another-israel-iran-war-increasingly-seen-as-just-a-matter-of-time-new-york-times/

このため、11月20日(木)、IAEAの理事国35カ国が、「イランは、“遅れることなく”、ただちに核濃縮施設への査察を受けるべきかどうかとの採択をとったところ、賛成19、反対3、棄権12で可決した。賛成は欧米諸国が中心で、反対は、ロシア、中国、ニジェールの3カ国である。

Iranian Foreign Minister Abbas Araghchi November 16, 2025. (AP Photo/Vahid Salemi)

これに対し、イランのアラグチ外相は、IAEAへの信頼は失われたとして、具体的な合意がない限り、6月に攻撃された各施設への視察はありえないと発表した。

ミサイルに関するアメリカとの協議についても否定する考えを示した。

www.timesofisrael.com/iran-vows-to-block-foreign-access-to-bombed-nuclear-sites-unless-deal-reached/