タイミングは何を語る!?神殿崩壊記念日に国が分裂の様相 2023.7.24

Jerusalem, Sunday, July 23, 2023. The demonstration came a day before parliament is expected to vote on a key part of the plan. (AP Photo/Ohad

イスラエルではこの26日日没から、ティシャ・べ・アブ(アブの月の9日)、別名、神殿崩壊記念日に入る。この日は、紀元前586年に第一神殿がバビロンによって破壊された日、さらに、紀元後70年、第二神殿が、ローマ帝国によって破壊された日も、この日であったと言われている。

2回の神殿の崩壊は、いずれの場合も、国内でいわゆる熱心党と呼ばれた強硬右派たちと社会の分断が大きな原因の一つであった。奇しくも今イスラエルで起こっていることは、強硬右派政権とそれに反対する市民たちの衝突である。

今右派政権が維持でも進めようとしている司法制度改革は、つきつめれば、西岸地区や東エルサレムの統合を進めやすくするということである。その先には第三神殿というビジョンも見え隠れする。いわば現代の熱心党のような感じである。

エルサレム国会前に集まった反対派市民の数は、もはや数えきれないほとの人の波となっている。その中には大勢の医師が含まれている。

また、この法案を取りやめにしないかぎり、特別招集に応じないとする予備役兵は1万人にまでふくれあがった。

明日からは、全国で、大手産業150社がストを開始する。これほどになっても、政府はがんとして妥協する様子を見せていない。

政府は、昨日日曜から、司法の権力を縮小する司法制度改革の中の「合理性」に関する国会審議を開始した。本日月曜と火曜の審議で、この法案が2回目、3回目を過半数で通過した場合、まさに神殿崩壊記念日に入る26日、これが法律として成立することになる。

野党党首のガンツ氏やラピード氏を含む反対派は、日曜、嘆きの壁で神に祈りを捧げた。嘆きの壁には、司法制度改革推進派も祈りを捧げにきており、対立する両者が共に、神の前に出た形となった。

国家分裂の様相:イスラエル軍、ビジネスも麻痺へ

1)エルサレム国会前に反対デモの人の渦:全国から医師数千人も参加

テルアビブから4日間の行進を経て、エルサレム入りした反対派の数は、土曜安息日明けには、数十万人ともみられ、もはや数えられないほどとなった。「イスラエルは民主国家であり続ける」と叫んでいる。エルサレムでの抗議集会には、リブリン前大統領も参加し、「国を救えるかどうか、残された時間は24時間しかない。」と、デモ隊に賛同する意向を表明した。

(以下はエルサレムのデモ隊・人間の渦)

その後、数百人は、国会前のサッカーパークにキャンプ用のテントをはって、強烈な熱波に耐えながら、そこにとどまっている。審議が始まる日曜夜にはまたそこで、大規模な抗議行動を行うためである。テルアビブでも大規模なデモは続いている。

また日曜朝には、全国から数千人の医師たちがエルサレムに集まり、司法制度改革に反対の意見を表明した。司法の権力が弱体化し、強硬右派で、ユダヤ教超正統派の影響を強く受ける政府にブレーキが聞かなくなった場合、女性医師やアラブ人医師が働けなくなるといった懸念を表明している。なお、医療に影響がないようにスケジュールは調整してのデモ参加だと強調している。

www.timesofisrael.com/with-israel-on-the-edge-of-disaster-thousands-of-doctors-protest-in-jerusalem/

2)予備役1万人以上が志願兵役一時停止を表明:IDF参謀長が危機を警告

兵役拒否に署名する
Tel Aviv, Israel, July 19, 2023. (AP Photo/Ohad Zwigenberg)

22日(土)ヘルツェリアにおいて、イスラエル軍の数十部隊に所属する予備役兵1万人以上の代表とするグループが、司法制度改革に反対するとして、志願兵役を一時停止する、言い換えれば、招集に応じないと表明した。

この日、声明を出したエイヤル・ネーベ氏は、「これまで打開に向けて努力してきたが、もはや限界に達した。私たちは国を愛して、国に仕えるのであって、国王に仕えるつもりはない。」と述べた。

イスラエル軍予備役兵たちからの抗議の表明は、さまざまな形でこれまでからも続いていた。情報総局長官の元には、904人の予備役兵(うち487人は頻繁に招集される人々)が署名して招集に応じないとする書簡を提出。空軍でもパイロット400人を含む1192人が同様の書簡に署名していた。

www.timesofisrael.com/this-is-where-we-draw-the-line-10000-more-reservists-to-stop-volunteering/

これを受けて、ハレヴィIDF参謀総長は、「国防軍の一致が損なわれている。これはイスラエル国家存亡の危機になりうる。」と警告を発した。ハレヴィ参謀省庁は、「イスラエル軍の目標は、安全な中で論議できるようにすることだ。」として、予備役兵たちにその任務に戻るよう訴えた。

www.timesofisrael.com/idf-chief-overhaul-debate-splitting-military-israels-existence-could-be-imperiled/

大手企業・ハイテク業界などが全国スト:労働組合長が妥協案提示もネタニヤフ首相拒否

アルノン・バル・デービッド組合長(ヒスタドルートHP)

イスラエル大手企業150社の代表機関が、月曜(日本時間本日)ストを行うと発表した。これにより、一部の銀行やショッピングセンター、などが閉まるとことになる。またハイテク企業200社も労働者がストを行うとしている。

イスラエル最大の労働組合ヒスタドルートについては、まだ前回のような全国ゼネストにまではまだ至っていない。

ヒスタドルートのバルデービッド組合長は、「合理性基準」(司法が行政の決定を覆す権利)は、内閣全体の決定の場合は、適応されないが、個別大臣たちのレベルでの決定の場合は、適応される(決定は覆される可能性あり)とする妥協案を出した。ネタニヤフ首相は、これを拒否したと伝えられている。

ヒスタドルートは、もし本日午後4時(日本時間22時)までになんらかの変化がない場合は、今後の動きについての協議を行うとしている。

www.timesofisrael.com/business-forum-tech-companies-to-strike-ahead-of-final-votes-on-reasonableness-law/

ヘルツォグ大統領が非常事態を警告:ネタニヤフ首相・野党ガンツ氏・ラピード氏と仲介中か

ヘルツォグ大統領は、国家分裂への警告を表明。ネタニヤフ首相と話し合うため、アメリカ訪問から帰国した日曜夜、空港から首相が入院中の病院へと直行し、話し合った。その後、野党代表のガンツ氏、ラピード氏との協議を行ったとされる。これに関するまだ正式な発表はない。

嘆きの壁で賛成派・反対派双方の群衆が祈り

Pro- and anti-overhaul demonstrators hold prayers at the Western Wall, in Jerusalem, July 23, 2023. (Charlie Summers/The Times of Israel)

神殿崩壊記念日を前に、国が分裂する勢いにあることから、23日、嘆きの壁での祈りの集会が行われた。参加者は、司法制度改革反対者、賛成者、双方数千人だった。主催したのは、穏健派ラビ、保守派ラビなどで、野党ガンツ氏も参加していた。

主催者の一人であるラビ・デービッド・スタフは、集会の目的は、全能の主に、イスラエルがこの状況から無事解放されるように、また指導者たちに知恵が与えられるよう、その導きのために祈ることだと語っている。

西岸地区入植地の名門イシバ(ユダヤ教神学校)のラビ・ヤアコブ・メダンは、自身は右派であると思われるが、改革に反対派、賛成派双方に団結を呼びかけ、「私たちの魂を焼き尽くそうとする日を鎮めてくださるように祈ろう。」と呼びかけた。

ラビ・メダンは、イスラエルが多様であり、さまざまな意見があることは良いことだが、それよりももっと大事なのは、ユダヤ人の存続と、それを守るイスラエル軍の存続だ。」と述べた。

西壁で祈った人々は、団結を訴えるとして、手をつないで、国会に近い、イスラエル博物館の方へ歩いていったとのこと。

www.timesofisrael.com/activists-on-both-sides-of-overhaul-debate-hold-mass-western-wall-prayer-for-unity/

石のひとりごと

AP通信

エルサレムでは、今イスラエルの旗がまるで川のような群衆とともに、数えきれないほどのイスラエルの旗が振りかざされている。

しかし、その同じ旗の下では3種類の考えがあるようである。①司法制度改革に絶対反対、②司法制度改革に賛成、③中間を探して団結が必要。

この多様性。これがイスラエルである。多様だが、それぞれ皆、心底国を愛しているからこその行動なので、絶対に引かない。

そういえば、少し設定は違うが、イスラエルでは、対向車が正面から来た場合、ただちに双方が引こうとする日本と違い、双方とも絶対に引かない。延々と睨み合い、クラクションの鳴らし合いであったことを思い出す。

しかし、こうしたデモに出てこない人の方が多いのだが、実際のイスラエル民衆の思いはどこにあるのだろうか。Times of Israelによると、司法制度改革を全面的に停止してほしいと答えた人(反対派)は36%、今のまま改革を進めてほしい(賛成派)と答えた人は25%、幅広い合意を得るような中間の改革を支持するとした人は29%。

www.timesofisrael.com/as-judiciary-fight-reaches-a-climax-both-sides-set-to-lose/

同紙の解説員ハビブ・レティグ・グル氏は、どうころんでも、どちらも勝利にはならないと指摘する。どちらにしてもこの中間の29%は満足しないからである。司法制度改革が強硬に実施された場合、中間層は、これに反発して左派陣営に流れる可能性が高い。

一方、司法改革が失敗に終わった場合、中間層は、ある程度は、改革が必要と考えているわけなので、その後、右派の方に傾くと考えられる。いずれにしても政権としては長続きしないということなのである。

イスラエルが直面する危機は、外からだけではない。明らかに内部からも存続の危機はあるということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。