これからどうなる?:高等裁判所が法律撤回を求めて誓願書提出 2023.7.25

イスラエル高等裁判所Pool photo by Abir Sultan

高等裁判所が誓願書

これからどうなるのか。反対派はあくまでも戦うとしているが、いったん可決した法律を覆すことができるのか。

最も単純な方法は、総選挙で、今とは違う政府になることである。しかし、これについては、その可能性はほとんどないとみられている。そうなると、今の政権は2026年まで続くことになる。

次の可能性は、この法律が、イスラエルの基本法(憲法のようなもの)に抵触すると証明することで、この法案を破棄するという流れが考えられる。すでに高等裁判所は、その申し立てを出しているとのこと。同様の申し立てをラピード氏も提出するとみられている。

イスラエルは現在、国境線不確実などの理由から、憲法成立の途上にあり、基本法はその草案のような位置付けにある。今は、政府が出してくる法案がそこに入るべきかどうかを判断するのだが、その権限は、司法にあるとされている。

この権利を剥奪しようとするのが、今の合理性基準法案なのである。したがって、これが現存する基本法に反するという論議を行う可能性はあるということなのである。これから先、激しい論議になると予想されている。

www.haaretz.com/israel-news/2023-07-24/ty-article/.premium/can-the-high-court-block-the-new-law-that-limits-its-actions-against-israeli-government/00000189-88a1-d5eb-abcb-f9e725150000

世界も報じたイスラエルの混乱:イスラエル株とシェケル低下

イスラエルの混乱は、世界でも報じられた。特にアメリカではニューヨークタイムスが、この件をトップで報じていた。

www.nytimes.com/2023/07/24/world/middleeast/israel-netanyahu-judiciary-analysis.html

バイデン大統領は、今イスラエルが直面している脅威と課題を考えると、今、この問題を急いで国内を分裂させることは理に変わっていないと述べ、採択を延期、改革を停止するよう、ネタニヤフ首相に5回も申し入れていたのである。

バイデン大統領は、法案の可決後、深い懸念を表明。市民たちに暴力を振るわないようにとの声明を出した。ホワイトハウスは、公式の声明として、ヘルツォグ大統領の仲介を支持するとし、両陣営に幅広い合意に至るように発表した。

バイデン大統領としては、こうした懸念はあっても、イスラエルと切れるわけにもいかないので、今後もただ見守る以上のことはできないだろう。ネタニヤフ首相もそれはよくわかっていたことと思われる。

国会で、合理性法案が採択されたあと、テルアビブ証券取引所では、株価指数が2.3%低下した。イスラエルの5大銀行株は3.9%の下落となった。シェケルも1%低下して、ドル3.58から3.68となった。

www.timesofisrael.com/israeli-shares-shekel-slide-as-judicial-bill-passage-crushes-compromise-hopes/

石のひとりごと:実際何がおこっているのか?

独立75周年を迎えたイスラエルにわきおこったこの混乱。その本質は何なのだろうか。

専門家の中には、よーく考えれば、大した問題ではないという人もいる。確かに、これまでオスロ合意やガザ撤退など、非常に重要な決断は、市民の大規模な反発に反して、政府が強硬に進めてきたのであった。

合理性の法律があろうがなかろうが、イスラエルの存続にかかわるほどの大きな決断については、司法が政府に反するようなことは言わないということなのである。だから反対デモに加わっている人たちは頭を冷やせというのである。

しかし、これまでの政府と今の政府は、同じではない。これまでイスラエルの戦争を導いてきた政府は、左派か右派であっても中道右派であった。ところが、今の政府は強硬右派、かつユダヤ教に傾く政府である。

この政府なら、聖書を持ち出して神殿の丘に強行に神殿を建ててしまうかもしれない。過激右派たちが、今後、西岸地区からパレスチナ人を追い出しにかかるかもしれない。

ユダヤ教にのっとって、他宗教を排斥したり、女性への制限も出てくるかもしれない。実はイスラエルでは、もうそういう傾向は、すでに出始めている。先週、キリスト教司祭が、嘆きの壁広場で、十字架を取り外すよう、要請されたとして問題になっていた。

ネタニヤフ首相自身は中道かもしれないが、ラピード氏がいうように、今のネタニヤフ首相は、強硬右派のベングビル氏らの言うなりでしかないようにみえる。しかし、何を隠そう、人々が反発するこの政権は、実は彼ら自身の民主的な選挙によって、選ばれた政権なのである。

そういえば、国連も多数決では必ずしも民意を反映していないという状況に直面することがあり、民主主義が機能しなくなっているとも言われている。

にもかかわらず、民主主義で一旦決まったことを、変える知恵も可能性も見えていないのである。世界は今、全体的にも民主主義の本質を考えるよう、迫られているのかもしれない。

いずれにしても、今、イスラエルはさらに世界からますます嫌われる方向に向きはじめたかもしれない。ひょっとして、今の政権が強硬に神殿を建ててしまうのか?

この法案をめぐる論議はどうなっていくだろうか。今後どうなっていくのかは、全能の神である主のみぞ知る、である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。