イラン革命防衛隊シリア担当最高司令官ら7人死亡:イランがイスラエルを非難 2024.4.2

IRGC official Mohammad Reza Zahedi, in July 2, 2017. (Ali Khara/Fars Media Corporation, via Wikimedia CC BY 4.0)

ダマスカスでIRGCクッズ部隊司令官ら暗殺

1日、シリアの首都ダマスカスにある、イラン大使館に隣接する外交官官邸が空爆を受け、イラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭特殊部隊クッズ隊、その中でも最高の第1800部隊、シリア・レバノン担当最高司令官モハンマド・レーザ・ザへディ(63)と、その副官と高官5人の計7人が死亡した。

崩壊した建物に隣接するイラン大使館には、2020年にアメリカに暗殺された、カッサム・ソレイマニ司令官の写真が大きく掲げられている。ザベディは、ソレイマニに次ぐ司令官で、ヒズボラのナスララ党首とも会話するほどの人物だった。

www.timesofisrael.com/top-iranian-irgc-commander-said-killed-in-alleged-israeli-strike-on-damascus/

イランは、この攻撃はイスラエルのF35戦闘機が発射したミサイルにものだったとしてイスラエルを非難する声明を出した。当然ながら、イランと、ヒズボラも報復を宣言している。

一方、イスラエルは沈黙を続けているが、NYTが、複数のイスラエル政府高官が、イスラエルによるものと認めたと報じている。

またこの攻撃は、イラクから発射されたと見られるドローンによって、エイラットの港の建物が被害を受けたと伝えられていたが、その場所が、イスラエル軍海軍基地であったと発表された数時間後のことであった。いわば、やられたので倍返しというところかもしれない。

しかし、その3日前の3月30日には、イスラエルがシリアのアレッポを攻撃し、ヒズボラ高官のアリ・ナイムが死亡していたので、まさしく、両者のやったらやり返す、やられたらやり返すの繰り返しの状態である。

Times of Israelによると、イスラエルのシリア領内イラン関係地点への攻撃は、これまでに数百回に及んでいる。しかし、ここしばらく、特にガザとの戦争が始まってからは、イスラエルのシリア領内への攻撃のターゲットは、回数やレベル、その場所がアレッポやダマスカスといった大都市へと、エスカレートする傾向にあった。

今回は、ダマスカスのイラン大使館近くへの攻撃だったが、これほど政治外交にも影響を及ぼしかねない攻撃は初めてのことである。

www.timesofisrael.com/top-iranian-irgc-commander-said-killed-in-alleged-israeli-strike-on-damascus/

www.jpost.com/breaking-news/article-794796

今後どんな反撃があるのか注目される中、イスラエル北部、国境だけでなく、上ガリラヤ地方などでも、1日に数回、サイレンが鳴り響く日々が続いている。

イスラエルのギフト!?:ザヘディ暗殺を歓迎するイラン人も

今回の攻撃はイラン、ヒスボラ、シリアにとっても受け入れ難いことであろう。しかし、イスラエルとの対決は、イランにとっても、全てを失うほどの大戦争が予想されるため、そう簡単には、手が出せないとはみられている。だからこその大胆な攻撃出会った可能性もある。

イランが、イスラエルとの直接戦争に首を突っ込みにくいのは、イスラエルの軍事力が強いというだけでなく、国内に、今の強硬イスラム政権に反発する国民が少なくないという点が考えられる。

昨年、女性のヒジャブ装着が義務化されたことに反発する国内での反政府デモは全国に拡大していた。イラン国外には、今の政権に反発していて、故郷に帰れない人も少なくない。

エルサレムポストによると、今回死亡した司令官ザヘディの暗殺を喜ぶ声が、ペルシャ語、アラビア語のSNSで上がっているという。上げているのは、イラン国内外の反政府活動家たちである。

そういう人々にとっては、ザヘディのような、イラン革命以来、祖国を今のような形にしてきた指導者たちの死は喜ばしいこと、祝い事の感覚すらあったようである。

エルサレムポストによると、ザヘディが暗殺された日は、「さらに暗殺が続けばいいのに」との書き込みや、暗殺が、ラマダン中にあるイスラム教の例祭の日「シズダ・べダル」の日であったので、「ネタニヤフ首相からの最高の贈り物」との書き込みすらあったとのこと。

レバノンからなどアラブ諸国の中からも同様の動きがあったと以下の記事は伝えている。

www.jpost.com/middle-east/iran-news/skewers-patties-and-rings-iranian-and-arab-social-media-users-celebrate-zahedis-assassination-794837

かつて、トランプ前米大統領はイランに厳しい経済制裁を課したが、この時、トランプ大統領とネタニヤフ首相が期待したのが、イラン人自身による強硬イスラム政権の転覆だった。

残念ながら、イランは、ロシアや中国とも組んで、欧米社会の経済制裁を乗り越え、政府に反発するデモは何回かあったが、いずれも政府に制覇されてきた。しかし、その勢力は今もまだイラン国内外に存在しているということである。

ザヘディの死は、イランにとってもヒズボラにとっても、大きな打撃になったとみられている。今後、この微妙なイランの国内事情の中で、イスラエルにどう反撃してくるのか。ヒズボラがどう出てくるのか。これまでのように、イランが、イスラエルへの本格的な攻撃は避ける道を選ぶようにと祈る。

www.jpost.com/middle-east/iran-news/skewers-patties-and-rings-iranian-and-arab-social-media-users-celebrate-zahedis-assassination-794837

石のひとりごと:もう一つの疑惑・・?

これはまったくのひとりごとである。イスラエルは今週末、10万人規模ともみられる反政府デモが行われた。ネタニヤフ首相を退陣させようとする動きが高まっている。

こうした時に国を一致させる最も効果的な方策は、共通の敵を国民にみせつけて、一致を促すことである。

まさかネタニヤフ首相がそれをねらって、ザヘディ暗殺を指示したとは思いたくはないが、こうしたタイミングで、大きな戦闘に発展したことは、これまでにもあったことである。あくまでも石の悪い想像にすぎないが。。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。