過激ユダヤ人入植者のパレスチナ居住地放火襲撃連続5日間:分裂際立つイスラエル国内 2023.6.26

5日間続いた入植者たちの焼き討ち暴動

先週19日、ジェニンでの大規模なパレスチナ人とイスラエル軍との衝突でパレスチナ人6人が死亡し、その後、ユダヤ人入植地エリで発生した銃撃テロで、イスラエル人4人が死亡してから1週間になろうとしている。

その間、安息日を含む5日間続けて、数百人のユダヤ人入植者が、パレスチナ人の車や家に放火し、銃撃もするなど、本格的な攻撃を行なった。この間に、パレスチナ人のオマール・カティンさん(27)が死亡したが、詳細は不明。その後、イスラエル警察は、暴行に加わったユダヤ人4人を逮捕はした。しかし、こちらも詳細は不明。

入植者たちの暴行を、イスラエル軍は、十分に阻止していなかったとの非難もあがっている。イスラエル軍は、入植者たちの暴行を止めるのに「失敗した」と認めているとのこと。止められないはずはないと思われるので、なんとも力のない説明である。

当然ながら、国際社会はこれを「テロ」と非難。23日、EUとアメリカなど、20以上の外交使節団が、焼き払われた村をパレスチナ人の家屋を視察した。黒いすすの残骸になっている車両、日常の居間などが、その時の恐ろしいほどの炎を想像させられる。

筆頭野党のラピード氏は「あらゆる一線を超えている。」と入植者らの行為を非難したが、現政権で西岸地区の入植地を実質的に管理する、宗教シオニスト政党のスモトリッチ氏、ベングビル氏は、これは「テロではない」と言っているので、その声はほとんどとりあげられなかった。

www.timesofisrael.com/settlers-riot-in-palestinian-village-in-latest-such-rampage-of-recent-days/

過激右派ベングビル氏が扇動:もっと“ヒルトップ”に登れ

過激右派であるのに、国家安全保障相として、警察を掌握する権限が与えられ、物議がやまないベングビル氏が、24日、入植者たちの暴力が続く中で、西岸地区でも特に問題となっている前哨地エブヤタルを訪問した。

エブヤタルは、前ネタニヤフ政権の時に、撤去を命じられ、建物はそのままでいったん撤退させられた前哨地(入植地以前の開拓地)である。今の右派ネタニヤフ政権は、入植者たちが戻ることを許可したことから、入植者たちが舞い戻り、問題になっている地域である。

頻発するテロで知られるタプアハジャンクションに近く、また先週パレスチナ人のテロで、イスラエル人4人が殺害されたエリから、わずか5キロ南に位置している。

ベングビル氏は、正式なイスラエルの閣僚として、そのエブヤタルに足を踏み入れ、「もっと“ヒルトップ”に登れ」と入植者たちの暴力を扇動するようなメッセージを発した。

ヒルトップとは、現在はヨルダン川西岸地区の山地を指すことばだが、ベングビル氏はあえて聖書的に「ユダヤ・サマリア地区」と呼び、ヒルトップは、「イスラエルの土地」なのだから取り返さなけれなならないと呼びかけていた。いわば、第二神殿時代の熱心党のような気分になっているものと思われる。

www.timesofisrael.com/visiting-evyatar-ben-gvir-tells-settlers-to-head-for-the-hilltops-expand-outposts/

治安関係組織が異例の共同声明:ネタニヤフ首相も「テロ行為」は受け入れられないと声明

June 25, 2023.(Abir Sultan/Pool Photo via AP)

ベングビル氏の行動に慌てたのか、その後の24日、イスラエル軍のハレヴィ参謀総長と警察のシャブタイ警視庁長官、シンベト(国内治安担当)バル長官が、異例の共同声明を出し、入植者たちのパレスチナ人攻撃を非難。とりしまりを強化すると発表した。

www.haaretz.com/israel-news/2023-06-24/ty-article/.premium/israeli-military-police-and-shin-bet-chiefs-settler-attacks-are-nationalist-terrorism/00000188-ee85-df52-a79d-fea74a640000

その後、シャブタイ警察庁長官は、今のまま(ベングビル氏の傘下)では働けないとして、次の任期は務められないと表明した。

続いて、25日には、ネタにタフ首相が、「西岸地区への違法な進出は容認しない」と、ベングビル氏の発言に対抗する声明を出した。ネタニヤフ首相は、入植者たちが、西岸地区の秩序を見出しているとも述べた。

するとベングビル氏は、「右派政権は、そのビジョンを実現しなければならない。すなわち、西岸地区を取り戻すこと。それに反対するものたちのいうことを受け入れてはならないということである。彼らは、彼らのいうことを我々が受け入れないなら戦争になると言っている。イスラエルは滅びてはならない。」と語った。

www.timesofisrael.com/contradicting-ben-gvir-netanyahu-says-illegal-west-bank-land-grabs-unacceptable/

石のひとりごと:深刻になりつつあるイスラエル国家の分裂

今の様子は第二神殿時代崩壊のころの時代を彷彿とさせられるところがある。新約聖書に出てくる「熱心党」は、今の時代の極右、入植者たちにあたり、神の名の元でテロ行為を繰り返していた人々であった。

思えばモーセに率いられ、その後ヨシュアに率いられて、ようやくイスラエルを占領したころも、イスラエル人たちの現地人へのテロ行為が繰り返され、ついにはイスラエルの領土となったのであった。もし入植者たちやベングビル氏が、この戦いが神の望まれていることだと考えているとすれば、入植者たちは本当に、正義感をもって、戦争になるまで、戦おうとするかもしれない。

しかし、ベングビル氏のいうことは過激だが裏がないように聞こえる。実際、イスラエル人たちは、ベングビル氏は、無能だという声をよく耳にする。

一方で、ネタニヤフ首相には、かならずといってよいほどに裏がある。今も、暴力を非難しながらも、入植地は拡大する方針を打ち出しており、うまくかわしながら、実際に西岸地区の拡大を進めているのは、ベングビル氏ではなく、ネタニヤフ首相なのである。

それにしても、イスラエル国内の分裂は本当に今深刻な事態になっているようである。一般のイスラエル人たちも、それを察しているようだが、どうにもこの右派政権を止められるものが何もない、何もできない、という壁にぶち当たっている様相である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。