米最高裁が州の中絶禁止策は合憲と反転:イスラエルは中絶を容易に 2022.6.29

ワシントンDC最高裁前のデモ スクリーンショットhttps://www.youtube.com/watch?v=7E-nCgExajM

米連邦最高裁が中絶禁止は違憲にあたらないと判断

アメリカでは、1973年、米連邦最高裁判所(判事9人)は、州がその判断で、人工妊娠中絶を禁止するのは、違憲にあたるとの判断を出した。いわゆる「ロー(中絶は女性の権利と訴えた原告の仮名)対ウエイド(地方裁判官名)」である。これにより、アメリカでは、中絶がおおむね合法的に行われてきたのであった。

ところが、この24日、米連邦最高裁判所はこの判断を覆し、州の判断で中絶を禁止することは違憲ではないとの判断を表明した。

これを受けて、この件については、最高裁の判断に自動的に従うことを定めていた州、ケンタッキー、ルイジアナ、サウスダコタ、ミズーリ、オクラホマ、アラバマでは、ただちに、人工妊娠中絶禁止法が施行されることとなった。その他の多くの州も、これに続くとみられる。

これは中絶に反対してきた福音派のプロライフなどにとってはよいニュースである。また、この結論を出した連邦裁判所の裁判官9人のうち、この問題に賛成票を投じて可決させた5人の裁判官のうち、3人は、トランプ前大統領が指名した裁判官だった。いわば、トランプ前大統領の福音派クリスチャンたちへのお土産的な結果といえる。

www.cnbc.com/2022/06/24/roe-v-wade-decision-trump-takes-credit-for-supreme-court-abortion-ruling.html

一方、中絶を違憲とする米連邦最高裁判所の判決を受けた民主党のバイデン大統領は、「国にとって悲しい日だ」と言った。また、アメリカの代表的な世論調査機関であるピュー研究所が、今月発表した結果によると、アメリカ市民の3分の2は、中絶の権利を奪われたくないと考えているとのこと。

アメリカでは今も、激しい論議が行われ、各地で抗議運動も続いており、今後、アメリカにとっての激震になっていく可能性とともに、福音派への攻撃が始まっていく可能性も懸念されるところである。

www.bbc.com/japanese/61934070

www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61934255

*日本では中絶の配偶者合意を義務付けで論議

不思議にも、アメリカより少し前、日本でもこの問題が持ち上がっていた。5月に、国会では、新しく中絶用の経口薬が承認された場合も、本人と配偶者の合意が必要とするとの判断を発表し、議論になったのである。*暴力による妊娠など、例外は認められているもよう

この判断が出されると、塚原久美さんらが中絶は女性の自己決定権であると訴えた。毎日新聞によると、この陳情書に署名した人は8万2000人であった。

mainichi.jp/articles/20220627/k00/00m/040/300000c

日本は、社会ではタブー視される中絶問題だが、実は世界でも有数の中絶国と言われている。1950年代には、年間110万人以上が中絶で処分されていた。普通にだれもが中絶していた時代である。

www.jfpa.or.jp/kazokutokenko/topics/001431.html

以後は、減少傾向に転じて、2020年は、前年から10%減ったとのことだが、報告されていただけでも14万人以上が、中絶で処分されていた。おそらく、未報告例はもっとあるとみなければならないだろう。この年生まれた新生児は約85万人だった。妊娠する命、10人のうち、1-2人が処分されてたということである。

イスラエルは中絶を簡易化すると発表:ホロビッツ保健相

アメリカでこのような問題が大きくなる中、リベラルな町テルアビブでは、アメリカのこの判断に反対するデモが行われた。

また、イスラエルの国会、攻勢労働委員会は27日、アメリカとは真逆に、中絶手続きを簡素化する法案を可決した。

イスラエルは、子供を非常に重要視する国である。したがって、女性自身個人が中絶の権利を持つものではないと法律で定められている。

そのため、中絶を希望する場合は、その施行を行う医療機関の3人からなる妊娠停止委員会から許可をもらうこととなっている。女性にとっては、個人的な内容も含む書類を提出したり、委員会の人々の前に出るなど屈辱的な過程もあったという。

しかし、現地での経験からすると、実際には、この手順はそう難しくないようであるし、イスラエル軍では、軍が中絶を支援するという動きもある。イスラエルのプロライフによると、建国以来、中絶されたイスラエル人は、わかっているだけで200万人にのぼる(実際はもっと多いとみられる)。実は、イスラエルは、中絶大国の一つと言われている国なのである。

そこへもって、今回は、その手順を簡易化するという。これからは、申請はすべてデジタル化され、委員会の前に個人的に出ることも免除になる。

イスラエルのホロビッツ保健相は、「アメリカは100年後退した。イスラエルこそ、正しい方向を向いている。」と語った。なお、新しいシステムの導入は3ヶ月後予定とのことである。

www.timesofisrael.com/israel-eases-access-to-abortion-canceling-key-decades-old-mandatory-formalities/

石のひとりごと

中絶は違憲というような決断が、リベラルの民主党バイデン政権下で、今この時に出てくるとは本当に驚きである。これが民主主義ということなのだろう。

それがまたトランプ前大統領の置き土産によるものであったというのも興味深いところである。やはり、トランプ氏は、主によって、あの時期にアメリカに建てられた大統領だったのだとうと思わされる。

しかし、イスラエルでも今なぜこの時期に、この話題が出てきたのだろうか・・。

中絶の簡易化を発表したホロビッツ保健相は、左派世俗派である。一方、ベネット首相は、正統派ユダヤ教徒なので、中絶には反対の立場であると思われる。多様な政権の一面ということである。

確かに、これまで、右派政党と左派、アラブ政党が、同居するという点では、なんとか違いにも折り合いがついたかもしれない。しかし、さすがにこの問題については、命の創造主である神の民として選ばれているイスラエルにおいては、赦されることではないのではないかと、黄色、いや赤信号すら感じてしまう。。やはり、今、ベネット統一政権はここまで、というしるしなのかもしれない。。と、これは石のひとりごと。。

また余談として紹介した我が国の中絶についてだが、我が国では、今でもほとんど公には論議されたことがなかったのではないだろうか。しかし、海外では、特にプロライフの人々から、日本は中絶問題では世界でも最悪の国だと何度となく指摘されたものである。

今回の問題についても、もうメディアからはすっかり消え去っている。中絶において、配偶者の署名を得られずに苦しんでいる女性はいるものとは思うが、この規制をなくしてしまうと、さらに闇に葬られてしまう中絶も増えてくるかもしれない。日本ではとにかく、臭いものにはフタの文化だからである。

また、このような、中絶ありきの議論ではなく、その前に、中絶しなければならないような事態をなくすための教育や、手立てを考えた方がよいのではないかとも思ったりする・・・。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。