北部情勢:一段落するも危険度は一段階上 2018.2.17

シリアからイラン製のドローンが、イスラエル領内に侵入し、イスラエルが、シリア空軍基地(イラン革命軍拠点)4カ所を含む少なくとも12箇所を空爆。イスラエルのF16戦闘機一機が墜落して、あわや戦争かと、北部に予備役兵が呼び出されて、緊急事態になってから、1週間になる。

今のところ、大きな衝突はなく、北部シリアとの国境周辺は落ち着いている。今回、イスラエルとシリアの間に入って、戦闘をやめさせたのは、シリア領内に自らも軍を駐留させているロシアだった。

戦闘機を撃墜されて、イスラエルが黙っているはずはなく、もしロシアが介入しなければ、イスラエルはもっと攻撃を継続させるつもりで、準備をすすめていたとみられている。

しかし、一応落ち着いてはいるが、次の衝突は時間の問題であり、もし戦闘になれば、かなり深刻なものになると予想されている。アメリカのタイム紙はイスラエル北部の治安は、「一段階上の危険度になった。」と評している。

なお、今回のイスラエルによる攻撃の結果だが、イスラエル軍は、シリア空軍機の約半数は、破壊できたと判断している。また、Times of Israelが、レバノン系メディアの情報として伝えたところによると、イラン革命軍兵士12人が死亡したもよう。

www.timesofisrael.com/arab-media-12-iranians-killed-in-israeli-strike-in-syria/

<シリアからのミサイルに200キロの爆弾か>

シリアは、攻撃するイスラエル空軍機に対し、地対空ミサイルを多数、発射。ミサイルは戦闘機を追ってきたため、一発はイスラエル領ヨルダン渓谷のベイトシャン地域に着弾するとみられた。そのため、イスラエル軍は、最新の迎撃ミサイル、アロー3を発動しさせ、着弾前にミサイルを迎撃。破片はヨルダン領内に落下した。

後に、このミサイルの弾頭には200キロもの爆弾が搭載されていたことがわかった。アロー3迎撃ミサイルは、一発300万ドル(3億円以上)もするため、後になって、その必要があったのかとの声も出たが、対応に誤りはなかったとされた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4938142,00.html

<イスラエル外務省から世界15カ国へ:ゴラン高原に毒ガスが漏洩した場合>

シリアのアサド大統領は、火曜、イスラエルとの将来の衝突について、「イスラエルはもっと驚くことになる。」と脅迫した。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/241892

そのシリアだが、ここ2週間、シリアイドリブ地方で、アサド政権軍が、これまでになく頻回に化学兵器を使用しているとの警告が発せられている。BBCによると、少なくとも6回は化学兵器が使われたとみられ、子供20人が被害にあったとの報告もある。

これを受けて13日、フランスのマクロン大統領が、「化学兵器は明確なレッドラインだ」として、フランスは攻撃(空爆)も辞さないと発表したが、同時に、まだ証拠は得ていないとも言った。

フランスが本当に攻撃する意思があるかないかは別として、シリアの化学兵器の問題は欧米社会が注目するに値するほどになっているということは確かである。

www.bbc.com/news/world-middle-east-43074956

シリアの化学兵器使用疑惑について、国連安保理では、アメリカのヘイリー代表が、先週、シリアへの非難決議を提案したが、ロシアは、これに拒否権を発動した。

こうした中15日水曜、イスラエル外務省は、世界15カ国の大使たちに、それぞれの駐留国に、イスラエルのイラン、シリア、ヒズボラの敵対行為へのイスラエルの厳しい対策を伝えるよう、指示した。

その中で、もし、シリア政府と反政府勢力が、ゴラン高原で毒ガスを用いた場合、イスラエル側に毒ガスが流れてくる可能性を上げ、その場合、イスラエルは強力な行動に出ると示唆した。

イスラエルは、シリア領内にイランがいる限り、常にイスラエルを攻撃する可能性があり、イスラエルはこれには、強力な対策をとらざるをえないとして、国際社会がイランに圧力をかけて、シリアから追放する必要性も強調した。

www.timesofisrael.com/israel-said-to-fear-assad-chemical-weapons-spillover-into-golan-heights/

*シリアに化学兵器はないはずでは!?

シリアは、2012年、明確に化学兵器を使用したため、アメリカの軍事攻撃を受ける直前までいったが、そこでロシアが介入し、シリアに化学兵器を放棄を約束させたと主張したため、オバマ大統領は攻撃を中止した。

以後、国連の化学兵器禁止機関、OPCW(ノーベル賞受賞)が設立され、シリアの化学兵器の放棄を監視。すでにシリアには化学兵器はないということになっていた。今、シリアに化学兵器があることは、その責任を負うと言ったロシアんいは認め難いことであろう。

<レバノンとイスラエルの領土問題>

イスラエルは、レバノンにいるヒズボラの侵入に備え、国境にコンクリの防護壁を建設中である。これについて、レバ人のアウン大統領は、「イスラエルはレバノン領内に壁を建設している。」と訴えた。

イスラエルとレバノンの間は、今も正式に合意した国境はない。そのため、ハイファ沖の天然ガス田についても、イスラルとヒズボラはもめている。

今、中東を歴訪しているティラーソン米国務長官は、レバノンにも立ち寄り、アウン大統領や、ハリリ首相と会談。イスラエルとの紛争を起こさないよう、要請した。なお、ティラーソン国務長官がイスラエルに立ち寄る予定はない。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5115407,00.html

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。