ラピード外相がロシア訪問:イラン核開発危機に警鐘  2021.9.10

ロシアでイラン核開発危機を訴え

ラピード外相が、9日、日帰りでロシアのモスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談した。

ラピード外相は、まず、イランがウランの濃縮を高度にすすめるなど、深刻な合意違反をしており、非常に危険な状態にあるとして、これはイスラエルだけの問題ではなく、世界全体の脅威であるとして、イランの核兵器保有をけっして認めてはならないと伝えた。

もし、世界が動かない場合でも、イスラエルは自衛の権利を有するとの考えを伝えた。

現時点でアメリカはまだ、イランと国際社会(ロシア含む)との核合意に復帰して、イランの核開発を留めるという外交的手段を目指している。しかし、イランで新政権が発足し、話がなかなか進まない中、8日、ブリンケン米国務長官は、「アメリカがイランの返事を待つにも限界がある。」と述べている。

www.sankei.com/article/20210909-I7SRKZXSMFOC7OEND2USYHHSPA/

もしアメリカが、今の外交手段をあきらめた場合、残されるのは、イスラエルが、イランの核施設を再起不能なまでに破壊することぐらいである。これについては、ベネット首相もバイデン大統領を訪問した際に、話し合いが行われており、イスラエルではその準備がすすんでいるとの報道もある。

ラピード外相が、ロシアを訪問しているのと時を同じくして、ロシアの副外相が、アメリカのイラン関連の使節団と、アメリカの核合意について話し合いが行われているとのことであった。最終的ななんらかの話し合いが中露の間ですすんでいるのかもしれない。

ラピード外相は、ラブロフ外相に、イスラエルは、「ロシアが、今は中東ではキーパーソン」であると認識しているとした上で、イスラエルは、シリアや、どこからでも、危機には確実に対処するして、その理解を求めた形である。

一方、ラブロフ外相は、メディアに対し、イラン問題には触れず、最近、イスラエルがシリア領内のイラン関連施設を頻回に攻撃していることについて、シリアが第三国(イラン?)の、イスラエルやその他の国への攻撃の足掛かりになることは好まないと述べた。言い換えれば、今後も、イスラエルの自衛は認めるという、イランへの牽制ともいえる言い方である。

イスラエルとロシアは、来月、国交30年を迎える。両外相は、この件についても話し合った。ラピード外相は、ラブロフ外相にイスラエルに来るよう招待を申し出たところ、ラブロフ外相はこれを快く受け入れたとのこと。

国同士の外交は、本当に難しい。ベネット首相が、コロナ対策や、刑務所からの脱獄など、国内の問題で手一杯のところ、ラピード外相が、外交を抑えているという様相である。

ロシアとの関係めざす背景:アフガン問題で明確になる中露と欧米の対立

イスラエルが、ロシアに近づいている背景には、アメリカとの関係は維持しながらも、自衛のためにはアメリカだけに頼っているわけにはいかないとう現状がある。アフガニスタンを撤退したアメリカは、今後、イラクなどからも撤退していく可能性が高い。

そのアメリカが撤退した後に入ってこようとしているのが、ロシアと中国である。両国はどちらもタリバン政権を認める方向で動いており、アメリカのよびかけで、8日に行われた、アフガン問題に関するオンラインでの22カ国外相会議に出席しなかった。ロシアと中国はもはや、国際的な足並みを揃える必要がなくなったともいえる動きである。

www.asahi.com/articles/ASP993HV8P99UHBI004.html

この同じ日の8日、中国は、アフガニスタンに2億元(34億740万円)相当のの人道支援やワクチン300万回分を支援をすると発表した。欧米の自由主義諸国と、中露先制主義諸国との対立が、どんどん明確になっているというのが、今の時代である。

そのロシアや中国は、イスラエルが最も警戒するイランの背後にいる国だ。今後の中東勢力図において、ロシアと中国を無視するわけにはいかない。

www.bbc.com/japanese/58496679

一方で、イスラエルは、アメリカの最大の友好国でもあるので、この複雑な世界の動きの中で、イスラエルが、中東におけるアメリカの重要な拠点、情報源になっていくだろう。こうした中、外相としてコマをすすめているラピード外相に、ますます先見の目と知恵が必要になっているようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。