サウジアラビア油田攻撃:アメリカはイランを攻撃するか:INSS イスラエル国家治安研究所分析より 2019.9.19

14日サウジアラビアの石油施設が攻撃を受け、産油量が半減していることについて、アメリカのポンペイオ国務長官が、イランによるものとの判断を表明。同時にペンス副大統領も、アメリカは臨戦態勢を整えたと語り、緊張が続いている。これについて、INSS イスラルの国家治安研究所の分析からお伝えする。

<サウジアラビアが武器残骸をイラン製と発表>

18日、サウジアラビアは、攻撃に使われたドローンと巡航ミサイルの残骸を公表し、イランのものであると断定する声明を出した。記者会見を行ったサウジアラビアのマルキ中将によると、アブレイクなど2箇所を攻撃したドローン18基、巡航ミサイル4発はすべて北部からのもので、南部イエメン方面からではないとのことである。

サウジアラビアは、攻撃は、国際社会全体への攻撃との認識を語った。

これについて、イランは今も関与を否定。もしイランが攻撃されたら、必ず反撃すると反発している。

www.bbc.com/news/world-middle-east-49746645

<アメリカは攻撃するか?:イランの背後にロシアの影>

今後、アメリカがイランを攻撃するかどうかが注目されているが、実際には、そう簡単には攻撃できないだろう。

アメリカがイランを攻撃したら、サウジアラビアをはじめ、湾岸諸国に戦火が広がってしまう。イランがヒズボラを使って、イスラエルを巻き込む可能性もある。

この一連のことが進行する中9月16日、イランのロウハニ大統領は、アンカラでのロシアとトルコとの3国首脳会議に出席した。シリア内戦に関する会議だが、3国は、シリアの新憲法に関する委員会を立ち上げることで合意したという。

世界がイランと対峙する最中に、ロシアとトルコが、イランと手を組むことをアピールした形である。さらにややこしいことに、ロシアはサウジアラビアにロシアの迎撃ミサイルs300を購入することを勧めたという。

www.reuters.com/article/us-saudi-aramco-russia-putin/putin-proposes-russian-weapons-for-saudi-arabia-after-oil-industry-attacks-idUSKBN1W12CV

こうした中で、もし今、アメリカがイランを攻撃したら、トルコやロシアまで巻き込んでいく可能性も否定できない。イランは周到にこうした状況を読み、ロシアの存在もちらつかせて、アメリカを牽制しているようでもある。

www.jpost.com/Middle-East/Russia-Iran-unlikely-to-concede-to-Turkey-on-Syria-worries-Analysts-600687

イランは、現在、2015年の核合意を復活させようとして、イランに譲歩案を出しているフランスのマクロン大統領と水面下での交渉を行っていると言われている。おそらくトランプ大統領とマクロン大統領とのコンタクトもあると推測されている。

イランは、この交渉が遅々として進まない中、経済制裁の報復として、核合意で定められた核開発のレベルを次々に逸脱している。もしイランが、関与を否定する中で、アメリカが攻撃を行った場合、その報復としてまた核合意から逸脱した核開発をすすすめていく可能性もある。

一方で、イランは、イスラエルにシリアやイラクにあるイランの軍事拠点をいくら攻撃されても、今の所、反撃に出てくることはない。イランも大きな反撃に出て、自分の意図としない形で、イスラエルやアメリカを巻き込む大戦争にはしたくないとみられる。

イランとの攻防は、まるで、水面下で、チェスを打つかのようにじわじわとすすめられているようである。

<イランの優れた軍事力に要注意:INSS イスラエル国家治安研究所>

今回のサウジアラビアへの攻撃をイランによるとみられる攻撃から、イスラエルとしてこれをどう見ているのか、イスラエルの国家治安研究所は以下のようにまとめている。

1)イランの高い軍事力とリスクを恐れない実行力が証明された。

今回の攻撃は、イラン国外から正確な攻撃が行われた。イランが高い軍事能力を持っていることを表している。さらに、イランは、攻撃によるリスクを恐れておらず、攻撃するときには躊躇しないで実行するということがわかる。

イランが国外からも正確な攻撃ができるということは、イスラエルにとっても大きな脅威。将来、イスラエルとヒズボラが戦争になった場合、イランのこの軍事力が使われるということを意味する。

2)イエメンでサウジアラビアが劣勢

今回、サウジアラビアは、これほどの攻撃を予防、阻止、反撃もできなかった。サウジアラビアは、イエメンでイエメン政府側に立ち、反政府勢力のフーシ派と戦って4年になるが、最近、劣勢に陥っていると言われている。

アラブ首長国連邦がイエメン内戦から撤退したことで、サウジアラビアが打撃を受け、流れはイラン優勢になっている。

3)イランの核開発がすすむ?

上記のように、今回、たとえアメリカの攻撃が大きな戦争につながっていかなかったとしても、イランが今後も湾岸諸国への攻撃を続ける可能性がある。それに伴い、イランの核開発が加速していく可能性がある。

イスラエルにとっての最大の敵はイランであるため、今後のアメリカの動きをイスラエルは注意深く見守っているということである。

www.inss.org.il/publication/the-attack-on-the-saudi-oil-facilities-a-new-level-of-iranian-audacity/?offset=0&posts=1216&type=399&utm_source=activetrail&utm_medium=email&utm_campaign=INSS%20Insight%20No.%201214

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。