イスラエル軍ラファへ進軍開始:人質家族たちが大規模デモ 2024.5.7

IDF troops on the Gazan side of the Rafah border crossing on May 7, 2024 (Israel Defense Forces)

ハマスとの交渉が大詰めになる中、イスラエルが、限定的ではあるが、ラファへの侵攻を開始した。人質家族たちからは、「政府は人質を見捨てた」との激しい反発の声が上がっている。

ハマスが停戦を受け入れとの発表をめぐる混乱

カイロでの交渉が座礁寸前と見られる中、アメリカのCIA長官もカイロ入りして、再び、両者を交渉に戻そうとしている。アメリカの目標ば、両者が納得する形で停戦に至ることである。

6日、ハマスのイシュマエル・ハニエが、「今出ている停戦の条件を受け入れる。今、ボールは、イスラエルの手にある。」と仲介役のカタールとエジプトを通して発表。ガザでは、すでに停戦祝いムードになった。

世界は、イスラエルの出方を見守っている中、イスラエルは、ハニエが認めたと言っている条件は、論議に上がっていたものと異なっていると主張。もしそうであれば、「受け入れた」のではなく、「受け入れてない」になるわけである。

アメリカは、今、ハマスが「受け入れた」と言っている条件を精査すると言っている。

ラファへの限定的攻撃開始

こうした中、イスラエルは、6日夜からラファへの空爆を開始した。これに先立つ戦時内閣では、ラファへの侵攻開始については、右派左派、異論なく、全会一致で、決定したという。

7日早朝から、ラファ検問所近くから、ガザ内部へ侵攻を開始した。現在は、すでにラファ東部に到達し、ハマスを標的にした攻撃を行なっている。

以下は、ラファ検問所のエジプト側で聞こえるガザ内部での戦闘の音。

これまでに、ハマス戦闘員20人が死亡。トンネル3本を摘発。武器を満載した車両爆破などの報告が入っている。イスラエルの戦車隊が、ケレン。シャローム検問所のガザ側と、そこからの主要道路を制圧したとのこと。

しかし、今はまだカイロでの交渉と並行した、限定的な攻撃であり、今後の様子によっては、戦闘を停止、もしくは、本格的な戦闘に入るという段階である。

昨日避難を命じられたラファのパレスチナ人は10万人

現在、戦闘になっている地域は昨日、イスラエルから、約10万人のガザ避難民に、ちらし配布や、メール、電話を通じて移動を呼びかけていた地域である。ラファの避難民は、150万人とも言われているので、まだ一部だということである。

行き先は、ハンユニス方面とその先にある、イスラエルが攻撃しない安全地域と指定している海岸ぞいのアル・マワシ地域である。

この2月、イスラエルはアル・マワシ地域に2万5000人を収容するテント村を15つ用意する計画をエジプトに出していた。どこまでそれが準備できているのかは不明。すでにだいぶ混み合っているので、新たに定着できる場所があるかどうかもわからないまま、東部ラファの人々は移動を強いられたということであr、

www.timesofisrael.com/israel-plans-to-move-rafah-civilians-to-15-tent-cities-along-the-coast-report/

どさくさに紛れて、エジプト側へ逃れようとしたパレスチナ人も複数いたらしく、エジプト軍に差し止められたとのこと。

ハマスによると、イスラエルのラファへの侵攻が始まってから、12人が死亡したとのこと。

www.jpost.com/breaking-news/article-800175

「政府は人質を見捨てた」全国都市で政府を避難する大規模デモ

イスラエル戦時内閣が、ラファへの侵攻を決定すると、人質家族やその支援者たち(左派勢)が、「ビビ(ネタニヤフ首相)は人質を見捨てた」と激怒し、6日、テルアビブとエルサレム、ベエルシェバ、ハイファなどで、再び激しい政府への抗議デモが勃発した。

ネタニヤフ首相と戦時内閣は、ラファへの攻撃を開始したのは、ハマスに軍事的な圧力をかけるためで、よりよい条件で人質を取り戻すためだと説明しているが、デモ隊は納得するはずもない。

テルアビブでは、数百人が、アヤロン高速道路を封鎖し、火を燃やすなどして、「(ハマスが条件を受け入れた)今は、こちらも交渉を受け入れる時だ。このチャンスを逃してはならない」と訴えた。テルアビブでは、防衛省前の道路も封鎖し、警察がこれをとりしまり、複数の抗議者が、身柄を拘束された。

 

ハマスとの交渉はありうるのか:石のひとりごと

ハマスとの交渉や停戦ということはありうるだろうか。まず人質を取られたままになっている家族たちのことを思うと、心痛むしかない。

国を守るためには、ハマスを温存させておくわけにはいかない。しかし、今の交渉で、たとえ一人でも生きて帰ってくることができるのならば、なんとしても、取り戻したいという気持ちになるだろう。確かに今生きているのに、政府が交渉しないで戦争に突入するということで、死んでしまうのである。

この深すぎる思いは想像を超えている。同じ国民として、特にユダヤ人であるネタニヤフ首相が、その痛みをネタにヤフ首相が理解していないはずはないと思う。

しかしながら、その一人が助かることが、非常に大きな問題となって戻ってくる可能性があるということをイスラエル政府、さらにはネタニヤフ首相個人は、はすでに痛いほど経験している。

かつて、イスラエルは、人質になっていた、イスラエル兵のシャリートさんを奪回するために、ハマスと交渉し、その代価として、パレスチナ人テロリストの囚人約1000人を釈放した。今、イスラエルが、探し出すのに苦戦しているガザのハマスの指導者ヤヒヤ・シンワルは、その釈放されたテロリストの中の一人である。

シンワル以外にも、多数のテロリストが、この1000人の中から出てきて、多くのイスラエル人をテロで殺害した。このシャリートさん救出の決断をしたのは、ネタニヤフ首相だった。人質の家族を思えば、本当に辛いが、これと同じことを、今、ネタニヤフ首相がするとは考えにくい。

またネタニヤフ首相は、これまでの長い首相生活の中で、何度も何度も、ハマスと停戦を繰り返してきた。その都度、裏切られ、次なる戦いになった。戦闘は徐々に深刻度を深めた。停戦するたびに、ハマスは戦力を改善したからである。ネタニヤフ首相自身は、国民、特にガザ国境周辺の住民たちからは、いつ徹底的にハマスを攻撃するのだと、さんざん批判されている中で、停戦を繰り返してきたという経過もある。

以下のアニメーションは、その経過をよく表している。イスラエルは、ハマスより強いだが、国際社会の手間もあり、これまで我慢に我慢を重ねてきたのである。今反撃したら、体の大きいイスラエルの方が非難されているということである。

一方、今、人質交換の条件を受け入れると言っているイシュマエル・ハニエにも交渉に応じるとは思えない背景がある。

ハニエは、今年4月、3人の息子と複数の孫たちを、イスラエルの空爆で失った。また妹は、イスラエルのベドウィンに嫁いでイスラエルに住んでいたが、4月、テロへの協力の疑いで、逮捕されている。それでも妻とともにピースマークを出す強者である。

イスラエルと個人的にも宿敵であるのに、それをイスラムの使命と重ねてで受け取っているような人物である。交渉で、イスラエルとの平和な関係を持つなど、ちょっと考えられないことではないだろうか。

では人質は見捨てて、戦争するしかないのか、という結論になってしまうのだが、無論、人質は無事帰ってきてもらいたいし、多くの犠牲者が避けられない戦争は、してほしくはない。ただ戦争というものは、時にしたくなくてもさせられるときがあると思わされる。

また、ハマスだけでなく、ヒズボラやイランなど、イスラエルを、ただイスラエルであるというだけで憎む勢力は、人間的な理論で行動していないので、欧米社会が考えるような、話し合いで解決することはないということも、なんとなくわかる。

ネタニヤフ首相が言っているように、今、イスラエルが、10月7日のような、悪魔的と言える犯罪を行った、ハマスという深刻なテロ組織と停戦合意に至った場合、以後、世界中に同じようなテロが拡大していく可能性は否定できない。

イスラエルが直面していることは、そういう目に見えない背景も絡んでいると思われるので、ただ人間的な正義感だけで、イスラエルを非難することは、逆にすえ恐ろしくもみえる。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。