モロッコ地震・イスラエル救援隊準備も出動受け入れられず:イスラエル人旅行者479人全員無事確認 2023.9.11

モロッコ大地震:死者2000人超える

8日深夜(日本時間9日朝)、アフリカのモロッコで発生した大地震(マグニチュード6.8)発生から、48時間が経過した。これまでに確認された死亡者は、BBCによると2122人。負傷者は2421人で多くは重傷だという。

今回の地震は、モロッコでは、1960年以来となる大地震で、現場は、あまりにも破壊が大きく、地震というよりは、大爆発が起こったかの様相にある。国連は、被災者は30万人にのぼると推測しており、死者数はまだ増えるとみられる。

地震発生とともに、イスラエル救援隊(捜索隊・医療部隊)は準備開始。すぐにモロッコに支援を申し出た。この他、アメリカ、フランス、イギリス、トルコ、アルジェリア、台湾などが、ただちに救急隊の派遣を申し出た。

しかし、モロッコ政府は、海外からの支援隊をなかなか受け入れず、48時間ほど経った時点で、スペインのチームが救助を開始した他、イギリス、UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーン、カタールが、救出活動を開始している。イスラエルのチームは、足止め状態にある。

時間が経過して、生存可能限界時間が終わりに近づいているため、被災地では、素手で、必死に瓦礫の下からの負傷者救出作業する様子もみられているという。

イスラエルなど海外からの救援隊の多くが、今もまだ現地入りできない中、「国境なき救助隊」は、国連をプラットフォームとする、100か国からの3500人を登録。モロッコの要請に応じて派遣する準備は整えたとのこと。

イスラエル人旅行者479人無事確認

地震発生時、モロッコには、多数のイスラエル人旅行者がいたが、すでに479人全員の無事を確認している。現地のマーケットで地震を体験したイスラエル人旅行者は、煙の中で、血だらけになっている人々の様子は、まるで、911のニューヨークの同時多発テロの時を思い出すような様相であったと語っている。現場で救援に協力したとのこと。

www.i24news.tv/en/news/middle-east/north-africa/1694287949-at-least-56-israelis-listed-as-out-of-reach-in-morocco

*2020年に国交正常化署名したモロッコとイスラエル

モロッコは、北アフリカに位置し、ヨーロッパに近い。ユダヤ人は、ローマ帝国の時代からモロッコに住み始め、独自のユダヤ教経典や文化を築き上げていった。その後、中世の時代には、激しい迫害と追放令により、スペインやポルトガルからユダヤ人が、モロッコに流れ着いて、この流れに加わっていった。

これが、ヨーロッパ系白人のユダヤ人をアシュケナジーというのに対し、アジア系有色系のスファラディというユダヤ人の流れである。このため、モロッコには古いシナゴーグも残されている。

スファラディたちは、モロッコがイスラム教国として独立してからも、共存を続け、両者の間には友好的な空気もある中、1800年代には、スファラディたちも、イスラエルの開拓、移住に加わっていった。今のイスラエルにいるユダヤ人のうち、70万人ほどが、モロッコにルーツを持つと言われている。

その後、イスラエルが建国すると、イスラム教国としてモロッコもイスラエルとの国交は持たなかったが、歴史的にユダヤ人との関係が深いので、連絡事務所は置き、水面化での市民レベルでの交流はあった。

しかし、2000年代にパレスチナ人によるインティファーダ(武装蜂起)が始まると、パレスチナ側を支持するとして、その連絡事務所も閉鎖し、正式な国交は冷えた関係にあった。この状態で、2012年のデータでモロッコには、2000人から2500人がカサブランカに在住するといわれていた。

こうした中、2020年12月、モロッコは、トランプ大統領のアブラハム合意に誘われ、問題となっていた西モロッコの領有権を認めるとのゴリ押し交渉もあって、イスラエルとの国交を開始したのであった。これにともない、イスラエルとモロッコの間の直行便運行が始まり、イスラエル人旅行者も多数、モロッコを訪問するようになっていた。

他人事でないイスラエル:地震の備え不十分

モロッコがここまで壊滅的なダメージを受けたのは、地震に対する建物の補強といった対策がなされていなかったことが考えられる。

イスラエルも、100年に一度という大地震がいつ発生してもおかしくない時期に入っているのだが、半年前には、トルコシリア国境付近で地震が発生し、5万人が死亡している。そこへ、モロッコでの大地震である。

INSS(国家治安研究所)の地質学者、アリエル・ハイマン博士は、それは「もし」ではなく、「いつ」の問題であると強調した。イスラエルへの警告は、もう以前からなされているのだが、今のところどの政府もまだ、効果的な対策はしていない。

報告によると、シリアとアフリカのプレートにそったベイトシャン、ティベリア、キリアット・シモナ、ハツォルが特に危険とされる。しかし、建物の補強をするだけの予算は、23億4000万シェケルとも言われ、とうてい準備できない額だと言われている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。