イスラム化・独裁化で中東に進出するトルコ 2020.8.12

エルドアン大統領 出展:トルコ大統領府HP: https://www.tccb.gov.tr/en/news/542/120418/-no-pandemic-is-greater-than-our-unity-and-solidarity-

トルコのイスラム化

そのトルコだが、エルドアン大統領が、トルコのイスラム化を進めている。先月は、世界遺産で博物館扱いであったアヤ・ソフィア(長い歴史の中でキリスト教会時代とイスラム教モスク時代が同居したような建物)をモスクにすると発表。実際に、観光客を締め出して、イスラムの金曜礼拝を行って世界からの懸念と批判を浴びた。

トルコではキリスト教とへの締め付けが厳しくなってきているが、2018年には、アメリカのプロテスタント、ブランソン牧師(トルコで20年牧会)がクルド人との関係疑いで逮捕された。ブランソン牧師は、トランプ大統領が経済制裁までちらつかせてようやく釈放を勝ち取り、アメリカに帰国するという事件もあった。

言論の自由にも懸念が続く。トルコでは、2019年末までに、40万8000のサイトが停止処分になっている。

最近では、ツイッター、フェイスブックなど100万人以上の利用があるソーシャルメディアは、トルコ国内に代表を置き、データをトルコ国内から出さないようにすることを義務付ける法案を出した。この法律はまだ発動されていないが、ソーシャルメディア各社は、発令された際には、これに従うよりはむしろトルコから撤退するとみられている。そうなると、トルコ市民はこれらのSNSを使えなくなる可能性すら出てくる。

edition.cnn.com/2020/07/29/europe/turkey-social-media-law-intl/index.html

社会的なイスラム化も懸念されている。トルコは、2011年にイスタンブール合意とされる家庭内暴力など女性へ暴力に反対するヨーロッパ諸国の合意に署名していた。しかし、今、トルコはこの合意から撤退するのではないかとの懸念が噴出。8月4日、イスタンブールで、女性たちがこれに反対する大きなデモを行った。

イスラム教では、不貞の疑いがあるなどの場合、家族親族が、家族の恥をぬぐとして、女性を殺害することが認められている。イスラム化がすすむトルコが、もしこの合意から離脱した場合、今後、トルコの女性たちの立場は、さらに難しいものになっていくと懸念される。

edition.cnn.com/2020/08/05/europe/turkey-gender-protests-istanbul-convention-intl/index.html

内戦のリビアに進出

日経新聞よりhttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO53859720W9A221C1FF8000/

トルコのイスラム化とともに、エルドアン大統領が目標としているのが、かつてのオスマン・トルコ帝国の栄光を取り戻すことである。トルコは、政府に反発を続けるシリア北部のクルド人(PKK)への攻撃を大胆に実施し、シリア領北部の一部を支配するようになった。しかし、シリアで影響力のあるロシア、また南にはアメリカ軍が駐留しているので、今の所、これ以上の南下はできていない。

また、トルコは、昨年12月末、2011年にアラブの春で国が崩壊して以来、内戦でどろどろになっているリビアに進出。カタール、イタリアとともにトリポリを拠点におくシラージュ暫定政権(イスラム政権)を支援して、リビアで影響力を拡大している。一方、反政府勢力(世俗派)のリビア国民軍(LNA)を支援しているのは、ロシアを先頭に、サウジアラビア、フランス、UAEで、トルコが参戦したのちからは、エジプト(派兵はしていない)もこれを支持すると表明している。

www.nikkei.com/article/DGXMZO48559900U9A810C1910M00/

エジプトは、リビアの内戦において、暫定政府側にムスリム同胞団が関係していることから、陸続きのエジプトにまで波及してこないように介入したのであった。

このように、リビアでは、ロシア対トルコという代理戦争状態になっているが、これはシリア北部での対立の形と同じであることから、シリア内戦がリビアにも波及したといった言い方もなされている。しかし、シリアでは、ロシアの方が優位であるのに対し、リビアにおいては、ロシアよりトルコの方が優位にあるようである。

そのロシアとトルコだが、今年1月、ベルリンで、欧米列強も関与して、和平交渉を試みたが失敗。コロナ危機を経て、5月に遠隔会談も試みられたが、今も戦闘は続いている。

天然ガスパイプラインをめぐってギリシャ海域へ進出

産経新聞よりhttps://www.sankei.com/world/news/200118/wor2001180017-n1.html

トルコがリビアへ進出した大きな目的が、ハイファ沖で発見された天然ガスを、ヨーロッパへ流そうとするイスラエル、ギリシャ、キプロスが計画しているパイプラインを妨害しようとしたとの見方がある。

このパイプラインは、リビア沖のEEZ(排他的経済水域)を経由している。トルコはリビア暫定政権と、この地域で外国勢力がパイプライン建設など一方的な開発を行うことを拒否すると発表した。

*EEZ (排他的経済水域)

それぞれの国が、周辺海域で、天然資源、自然エネルギーの探査や、人口島の設定など主権を発揮できる水域として国連海洋法が認めた海域。領土から大陸棚にそった200浬以内とされる。

こうした中、今年8月6日、ギリシャとエジプトが、EEZの範囲で合意するとトルコは猛反発。10日、トルコは東地中海で、トルコとギリシャの両国が自国の棚田だと主張する微妙な海域での海底資源の探査を開始した。

ギリシャはこれを違法だと訴えている。イスラエルは、ギリシャ側に立つ姿勢だが、トルコのこうした動きには今の所、ノーコメントをつらぬいている。

www.jpost.com/middle-east/israel-takes-greeces-side-in-maritime-standoff-with-turkey-638344

石のひとりごと

トルコは、自国のイスラム化とともに、中東や地中海への進出をアグレッシブにすすめているようである。また、ムスリム同胞団とハマスを支援して、イスラエルにはあからさまな敵意を表明している状況が続いている。

しかし、これまでのトルコの流れを振り返ると、水面下のビジネスにおいては、これまでのイスラエルとの友好的な関係は維持されている場合が多く、表向きのニュースだけで判断することは難しい。今、イスラエルがトルコのアグレッシブな動きにも、無視状態ということは、水面下の現実的な両国の関係は、意外にこれまで通り維持されているということなのかもしれない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。