イスラエルとトルコが外交正常化へ:4年の間に変化した中東とトルコ 2022.8.20

ヘルツォグ大統領とエルドアン大統領 GPO
ラピード首相 GPO

17日、ラピード首相とエルドアン大統領が電話で会談を行い、その後で、イスラエルとトルコは、正式に、4年前から途絶えていた外交関係を完全に正常化すると世界にむけて発表した。これに伴い、両国はそれぞれの国に大使を復帰させる。また、イスラエルからの直行便(ELAL)もこの9月から再開するとのこと。

ラピード首相は、両国の関係改善により、貿易や文化交流をすすめることで、地域の安定化が期待できると語っている。

www.timesofisrael.com/lapid-erdogan-speak-after-restoring-ties-agree-to-restart-direct-flights/

しかし、両国の関係は、ここ20年ほどずっと離れてはまた関係回復という状態が続いていたので、今回の外交回復は、何か真新しいことではない。今回もいつまで続くのかは、まあ不明というところだが、この4年の間の中東の変化から、今回はトルコもイスラエルとの国交を破棄にすることはないのではないかと思われる。

www.timesofisrael.com/with-reset-turkey-and-israel-look-to-build-durable-ties-that-can-reshape-the-region/

以下はここ20年ほどの両国の付かず離れずの経過。

2003年から2018年:エルドアン大統領のイスラム化政策・ガザフロティーラ事件でイスラエルとの関係悪化

マビ・マルマラ号(フロティーラ) BBC

トルコは、かつて、世界で唯一、イスラム教国家で民主主義を実践している国であった。イスラエルとも友好関係を維持し、国は安定し、繁栄していた。トルコはイスラエル人の近場で最大人気のリゾート地だった。

エルドアン大統領は、2003年から首相を務めて、独裁に近いほどに権力を持つようになり、2014年、大統領ポストを設立して、自ら初代大統領に就任した。

国内では、政権への反対派を強力に抑えると同時に、急激にイスラム化を進めていった。パレスチナ問題では、パレスチナ支援を明確にし、特にハマスを支援するようになった。2010年、トルコは、ハマスに送る支援物資を積み込んだ、マヴィ・マルマラ号をガザへ向かわせた。

当時ガザの海上封鎖をしていたイスラエル軍は、入ってこないように何度も呼びかけていたが、ナビ・マルマラ号は出航し、封鎖海域に突入してきたため、イスラエル軍が、船に突入して、これを取り押さえた。この時、トルコ人乗組員9人が死亡した。(ガザ・フロティラ事件)

これを受けて、エルドアン大統領は、在イスラエルのトルコ大使を召喚。イスラエルも大使を呼び戻して、以来、両国の外交関係は途絶えることとなった。イスラエルは中東で唯一の友を無くして、一時孤立を深める形となった。

ギリシャとキプロスの首脳たちと GPO

ところがこの年、ハイファ沖、イスラエル領内で、天然ガスされたのである。イスラエルは天然ガスを武器に、エジプト、ヨルダンとの関係を深め、さらにギリシャとキプロスとも手を組むようになった。こうなると、むしろトルコが孤立するようになる。エルドアン大統領は、シオニズムを激しく非難し、イスラエルへの敵意を明らかにするようになった。

その後、中東ではアラブの春が発生。シリアが内戦に突入。アメリカが中東から手を引く中、ロシアが勢力を拡大。イランの核問題が表面化するなど、中東の勢力図が大きく変化していった。

この間、イスラエルとトルコの関係は、政治的には決裂していても、実質的な交易は続いていたこともあり、2013年にネタニヤフ首相が謝罪を申し入れ、2016年から両国は、関係正常化で合意したと発表した。

www.meij.or.jp/kawara/2016_053.html

この間、トルコ航空はイスラエルに発着し、イスラエル人は、トルコへ遊びに行っていたし、貿易も継続されていた。政治とビジネスとの間には、それなりに格差があったようである。

2018年から現在:トルコの国力低下とエルドアン大統領の方針転換でイスラエルとの和解へ

しかし、両国の関係がまた冷え込む機会になったのが、2018年に、トランプ前米大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と宣言し、大使館をテルアビブからエルサレムに移動した時のことである。

この時のイスラエルとパレスチナ人との衝突を見て、エルドアン大統領がまた、イスラエルを「人種差別のテロリスト国家」だと大いに非難。トルコにいたイスラエルの大使を追放するに至った。イスラエルもまたトルコの大使を追放した。この時以来、今に至るまで、両国の外交は再び停止することとなった。

さらに、トルコはシリア内戦問題で、イランとロシアに接近するようになった。しかし、この関係は長続きしなかったようである。また、トルコでは大きな地震が発生したり、経済も後退し、国力は低下する傾向にあった。

Times of Israelによると、外資系資源は50%低下、トルコへの海外からの投資も38%低下。この影響で、インフレ率は80%も上がっているという。

一方、イスラエルは、アブラハム合意からサウジアラビアを含む湾岸諸国との国交も回復し、アラブ諸国とイスラエルのつながりが強化されている。スタートアップなど技術開発で世界はイスラエルへの投資をするようになり、イスラエル経済は強くなっていった。

こうした中、イスラエルでは、右派一色だったネタニヤフ政権から、多様なベネット政権になり、トルコとの交渉に前向きになってきた。ベネット政権の時からラピード首相は外相として、トルコのチャブシオール外相と対話を重ねた。また特にヘルツォグ大統領が、エルドアン大統領と水面化での外交を進めた。その結果、今年3月、エルドアン大統領がトルコを訪問し、両国の外交復帰への動きが一気に進んだとみられている。

トルコは、このころから、国際社会での地位復帰をもくろむかのように、ウクライナ問題で、仲介者をめざす動きに転じている。最近では、ウクライナ、EUとロシアとの独特な関係を活かして、穀物食料のウクライナからの輸出に大きく貢献をしようとする動きがある。

トルコとイスラエルのこれからの関係:トルコは実質をとる?

トルコはイスラエルとの外交回復を歓迎してはいるものの、あくまでもパレスチナ人の側に立っていることを強調している。しかし、お伝えしているように、西岸地区では、特にパレスチナ人とイスラエルとの衝突が頻発しているところである。

今後、トルコがどう出てくるかが注目されるが、いくら口では、パレスチナ支援を言っていても、再び、イスラエルを敵に回すことはあるだろうか。この20年ほどの歩みをみれば、イスラエルと敵対することがトルコの益にならないということは、どうにも明らかにみえる。

石のひとりごと

トルコのここ20年ほどの間の動きをみると、イスラエルをあなどることはしない方がよいという原則を見るようである。

イスラエルとの友好関係を維持していたころのトルコは、平和で経済も安定し、多くの旅行客で賑わっていた。ところが、エルドアン大統領が、急速なイスラム化をはじめて、国内では自由が失われ、経済も悪化していった。

トルコはイスラエルを孤立させたかのようにみえたが、すぐに、天然ガスという助け船がきて、周辺諸国はイスラエルと手を繋ぐようになり、トルコが逆に孤立するようになった。

イスラエルが完璧に良い国ではないので、人間的には理解不能ではあるが、聖書はイスラエルの父祖アブラハムに以下のように約束している。「あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたを呪うものを、わたしは呪う。地上のすべての民族は、あなたによって祝福される。」(創世記12:3)

トルコ、また特にイスラエルを憎んでいるイランも様々な困難を経験している。その様子を見ていて思うのだが、この聖書の言葉は、やはり生きて働いているように思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。