30週目反司法改革デモ20万人:合理性基準法可決その後の動き 2023.8.1

先週、国会で合意し、基本法の一つとなった合理性基準法案。安息日明け29日日没後には、連続30週目となる、反司法制度改革デモが、テルアビブを中心に全国で行われた。デモに参加した市民は20万人にのぼっており、これからも続くみこみとなっている。

最高裁での審議は9月12日:裁判官15人参加予定

ハユート最高裁判官 Wiki

国会審議を通過した合理性法案が可決してから、これを不服として審議を要請する申し立てが8件になったことから、最高裁のエスター・ハユート最高裁判官は、これらを9月12日に、最高裁の裁判官15人全員で審議すると発表した。最高裁の裁判官が全員出席するのはイスラエル史上初となる。

問題の合理性法は、すでに基本法となっているので、これを覆すことがあるとすれば、これもまた史上初であり、ネタニヤフ首相は、「未知の領域」のことになるとの認識(覆すことは不可能との自信?)を語っている。

www.timesofisrael.com/unprecedented-15-judge-panel-to-hear-petitions-against-coalitions-reasonableness-law/

しかし、国会は、7月31日から3ヶ月の休会に入った。次の国会は11月なので、それまでの間に何か大きな変化はないとみられる。ネタニヤフ首相は、11月までは、交渉の余地を残すという姿勢を明らかにしている。この状況で、交渉の余地はあるのだろうか?

連立政権の穏健派が野党との統一政権を打診:ラピード氏はネタニヤフ首相がいる限りNO

Abir Sultan/Pool via REUTERS/File Photo

連立政権の中にいる穏健派たちは、国民の分断を避けるため、野党も加わった統一政権にしてはどうかと、ラピード氏に連立参加の打診したもようである。

背後には、国内分断を避けるためだけでなく、今になって、アメリカが動き、イスラエルが長年、求めてきたサウジアラビアとの国交正常化の可能性が出てきたことが考えられる。今、イスラエルが国内で分裂していては、この機会を失うと考えたのかもしれない。

しかし、ラピード氏は、ネタニヤフ首相が首相である以上、統一政権に加わることはありえないと拒否した。ラピード氏はまず、サウジアラビアが、ウランの濃縮をしている事をあげ、それを黙認して国交を結ぶことは、中東のどの国もが核を持つべきでないというイスラエルの基本方針に外れると指摘した。

続いて、ネタニヤフ首相が首相である以上、野党が、その政権に加わることはありえないと述べた。

ラピード氏によると、合理性法案が可決となる直前、ヘルツォグ大統領の元、与野党で行われていた交渉において、ネタニヤフ首相は、この法案を一時停止することに合意するという感触に至っていたという。たしかにその類の記事も出ていた。

ところがその直後、ネタニヤフ首相が、レビン法相と、ベングヴィル氏に連れられいったのが目撃された後、ネタニヤフ首相は、態度を変え、結局、この法案は合意となった。

ラピード氏は、今のネタニヤフ首相は、レビン法相たちにあやつられている状態にある。自分のことで頭がいっぱいで、真に国益を考える状態にないと悟ったと語っている。

www.timesofisrael.com/lapid-rules-out-coalition-with-likud-while-netanyahu-in-power-death-of-decency/

この流れから、ラピード氏は、とりあえず、司法制度改革という概念を凍結し、一旦棚上げにしないと、いくら交渉しても意味はないとして、改革を18ヶ月(2025年まだ)凍結することを、交渉の再開の条件にすると、国会最後の日に述べたのであった。

石のひとりごと:デモに参加する普通の人々

デモには、筆者の知人たちも多く参加していた。デモに参加してどうなるのかといった具体的な目標はないようだったが、とにかく、政府を止めなければという熱意はあった。それがこの暑い中、わざわざテルアビブまで出かけていく理由になっているのである。

ネタニヤフ首相がだれよりも優秀な政治家であることはわかっているが、今のネタニヤフ首相は、個人的にも汚職、息子の問題など、課題が多すぎて、よい判断ができる状態にないと言っていた。

またユダヤ教政党は、イスラエルが分断しようとしているのに、一言も意見を出さず、逆にイシバ(ユダヤ教神学校)への支援予算を増やしたり、国のために祈ることが兵役と同等に扱われることを要求したりしていることに、特に怒っていた。

神に仕えるといいながら、いったいこれはなんなのか。結局自分達の利益だけしか考えていないのではないかと、怒りをあらわにしていた。(超正統派は、基本的に税金も兵役も免除になっていることが、すでに問題になっていた)

また、過激な入植地のユダヤ人たちが、強硬右派政権であることに自信をつけてか、明らかなキリスト教徒への嫌がらせ、アラブ系市民への差別が始まっていることへも危機感を語っていた。こうした右寄り姿勢が、国際社会の中でのイスラエルの立場をいっそう危うくすることも避けられないだろう。

個人的な印象としては、ラピード氏が、まっすぐで率直であるという印象は受ける。元ジャーナリストで、不正はぜったいに受け付けない。自分になんの益も考えてない。ただそれが、時に泥沼の中で泳ぐこともある政治家、外交官として最善かといえば、そこはわからないというところかもしれない。

イスラエルの分断は心痛む問題だ。何が最善なのか、何がみこころなのかがわからない中、ただ主が、イスラエルとその中にいる人々をその手からこぼさないようにと祈りたい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。