内戦への懸念とガンツ前防衛相:反司法改革法案デモ隊と警察が衝突:11人負傷・50人逮捕 2023.3.2

Israel Border Police officers work to prevent protesters from spilling over into the highway amid nationwide judicial reform protests, March 1, 2023. (photo credit: AVSHALOM SASSONI/MAARIV)

反司法改革デモと警察の衝突

昨日水曜、司法制度改革法案に反対するデモ。テルアビブを中心に全国で行われた。今回もデモ隊はテルアビブの主要高速道路を封鎖するなどして、警察と衝突。警察との殴り合いが発生し、警察は放水銃や、威嚇用手榴弾を使うなどの事態にまでなった。11人が負傷し、逮捕者は50人以上にのぼった。

この騒ぎの中で、ネタニヤフ首相夫人が、しかもテルアビブの美容院に行っていて、デモ隊に囲まれた。数時間後、治安部隊の警護の中、救出されたが、ネタニヤフ首相は、ツイッターに投稿し、「無政府主義は止めなければならない。命が失われることになるかもしれない。」とを書き込んでいた。

www.timesofisrael.com/police-rescue-sara-netanyahu-as-protesters-accost-her-at-tel-aviv-hair-salon/

なお、全国レベルで、これまで最大のデモとなったが、翌朝には、もとの社会に戻り、それぞれの生活に戻ったとのことである。

ネタニヤフ首相が国民へのメッセージ:話し合いのオファーなく逆効果

ネタニヤフ首相は、YouTubeを通して全国民にメッセージを発した。ネタニヤフ首相は、デモは民主主義で保障されている権利だが、国を麻痺させるべきではない。みなさんも国を熱烈に愛しているのだが、おちついて、暴力に訴えるべきではない。

先のフワラでのパレスチナ人への暴行、テルアビブでの暴行、どちらも無政府主義の暴力であると非難した。また、今回のデモを2005年に、シャロン首相(リクード)がガザからユダヤ人を完全に撤退させた時にも、大きなデモが発生したが、当時じゃ、赤線(警察との暴力的衝突)にはならなかったと訴えた。

メッセージの内容は、フラワでまさに暴徒状態であった行為と、テルアビブでの市民のデモを同じ無政府主義を並べたことで、反発を読んだ。また、デモを非難するばかりで、反対派との話し合いということは全く触れられていなかった。

さらに、2005年のガザ撤退の際に、暴力的なデモがなかったということも事実ではなかったことから、ネタニヤフ首相のメッセージは、批判が噴出し、逆効果であった。

www.timesofisrael.com/netanyahu-compares-tel-aviv-protesters-to-settlers-who-set-fire-to-huwara/

ラピード代表野党反論:テレビ討論で

ネタニヤフ首相のメッセージが出た直後、筆頭野党ラピード氏は、チャンネル13でのインタビューで、ネタニヤフ首相のメッセージについて、問題と論議を深めるもので、ひどいメッセージだ。」と語った。

特にフワラの暴動とデモを同列に置いたことについて、「フワラの暴動は、テロリストによるポグロムだった。国の大事な市民が通りで訴えていることと比べるというのか。」と怒りをぶつけた。

ラピード氏は、ネタニヤフ首相が訴えているように、話し合いを拒否しているのではないと主張。ただ今行われている司法制度改革の法案の審議を一旦停止(期限は6ヶ月)さえすれば、話し合いに応じると強調した。

www.timesofisrael.com/netanyahu-compares-tel-aviv-protesters-to-settlers-who-set-fire-to-huwara/

内戦の懸念もとガンツ前防衛相警告:テレビ討論で

ガンツ防衛相は、デモが昨日だけで終わり、すぐに元の社会に戻っているとして、市民は、ただたんに社会に混乱をもたらしているのではないと強調。ネタニヤフ首相に対し、司法制度改革の動きをとりあえず、いったん停止すべきである。そうでないと内戦にまで発展しかねないと警告した。

国会では司法制度改革法案が続いて審議・1回目可決中

ネタニヤフ政権は、これほどの国民の反対にもかかわらず、話し合いに応じる気配はなく、次々と新しい法案の審議を続けている。まだどれも可決1回目なのであと2回目、3回目が通ってはじめて、法律となるのではあるが、1回目を通過した法案が、2回目3回目を通過する可能性は低くないわけである。

与党としては、選挙で過半数を取っている以上、今の政権は国民過半数の支持を受けているということだから、いくら反対があっても、過半数市民の支持に敬意を払うべきだというのが言い分である。

しかし、国会で審議が進められている法案の中には、極右ベン・グビル氏が、提案した、パレスチナ人テロリストには死刑を適応できるというものもある。十分な議論もせずにすすめてよいのかどうかという法案である。

さらに、こうした政府の決めた法律を、最高裁が基本法(憲法)から外れていないか、人権にふれないかなどチェックし、問題あれば、差し止めることもできなくなるというのが、司法制度改革である。これは慎重にならざるをえないだろう。

息子2人(19歳、21歳)失ったテロ犠牲者家族が一致をよびかけ

26日にフワラでのテロでハレルさん(21)とヤゲルさん(19)の葬儀は、27日に行われた。ナブルスから遠くない実家、ハル・ブラハを出て、エルサレムの戦没者墓地ヘルツエルの丘まで移動して、埋葬された。葬儀には数千人がいたとみられている。

2人の大事な息子を失ったヤニブさん一家は、深すぎる悲しみの中、「つらすぎる。結婚式であるはずが、葬儀で息子を葬っている。」と語った。

父のシャロームさんは、「こんなことが2度と起きるべきではない。子供たちは皆、結婚し、子供を産み、家を建てていくものなのだ。」と語った。

また、「私たちは兄弟です。軍隊は政治的に使うものではありません。」とイスラエル人全体にむかって一致を呼びかけた。「これは本当に痛い、難しいことです。しかし、ユダヤ人は強い。これまでからも多くの困難を通ってきた。わたしたちも耐えられると信じます。」と語った。

葬儀に立ったラビ・メラメドは、ユダヤ人の使命は、道徳を守り、世界に祝福をもたらすことだと語った。「私たちに敵対するものたちには、法律の範囲で、警察と軍隊が戦い、必ず勝ちます。」と語った。

www.timesofisrael.com/parents-of-brothers-slain-in-terror-attack-call-for-unity-amid-the-pain/

石のひとりごと

「内戦」・・どちらも引けない、ということで、こんな恐ろしい言葉が出てきているのであろう。現時点ではまさかそんなことにはならないだろうとは思うが、ユダヤ人自身がそこまでを懸念しているということである。

歴史をみれば、イスラエルの崩壊の原因は、外敵ではなかったことがわかる。バビロン捕囚の時も、ローマ帝国に滅ぼされたときも、国内で、ユダヤ人同士が、右派左派で争っていた時のことだった。

今、イランが核兵器まで数日まできているというニュースが出ているが、ひょっとしたら、そうした共通の外敵が、イスラエルの一致への回帰を助けるようなことにならなければ良いがとも思う。

聖書には次のように書いてある。

「あなたには、すべてができること、あなたは、どんな計画も成し遂げられることを、私は知りました。」(ヨブ記42:2)

人間社会がいかに混乱しようとも、創造主なる主に予想外も不可能もない。人間の力ではどうしようもない状況にある今も、イスラエルの上に主の目は置かれていることだろう。次のように祈りたい。

どうか御民を救ってください。あなたのものである民を祝福してください。どうか彼らの羊飼いとなって、いつまでも彼らを携えて行ってください。(詩篇28:9)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。