新型コロナ感染者10人:イスラエル動向 2020.3.2

感染者を移送するイスラエルの救急車 出展:イスラエル健康省

全世界をふりまわしている新型コロナウイルス。イスラエルでは、横浜に停泊していたクルーズ船に乗船していたイスラエル人らが帰国した他、2月22日に帰国した韓国人グループから多数の陽性・発病者が出たことで、全国がパニックとなった。

その後、さらにイスラエル人旅行者も多いイタリアで感染が拡大、死者の数も増えてきた。危機管理には特に厳しいイスラエルである。世界に先駆けて厳しい措置を取っており、今の所、新型コロナ陽性者は10人にとどまっている。イスラエルでのこれまでの主な動きは以下の通り。

横浜のダイアモンド・プリンセス号乗船の15人:日本から帰国14人から2人陽性

横浜に停泊していたダイアモンド・プリンセス号には、イスラエル人15人が乗船していた。このうち11人は2週間の隔離後、陰性が確認されたため、イスラエルへ帰国。空港からシェバ・ホスピタルに設置された隔離病棟へ直行し、さらに2週間の監視下におかれている。このうち、2人は、帰国後に陽性が確認された。

日本で陽性が判明した4人は日本の病院で治療を受けていたが、1人を残して3人は陰性が確認されたためイスラエルへ帰国した。しかし、このうち1人は、帰国直後に陽性が判明。一時日本の検査体制を疑う記事も出た。

なお、イスラエル帰国後に陽性と判明した人は、皆、シェバ・ホスピタルにいる。それ以外の人で、陽性者と同じ飛行機に乗り合わせた人も含め、自宅での隔離14日間が義務付けられている。

なお、日本で治療を受けたイスラエル人は、隔離中にも、日本人医療スタッフから日本語を学び、日本人スタッフにはヘブル語を教えた人もいた。ユダヤ人はどんな困難が来てもなんらかの外部への働きかけを求める人々である。

日本人スタッフからは、ヘブル語で、「私はあなた方の味方です。早くよくなられるように。ともにがんばりましょう。」との手紙が来て、心が温まったと言っている。

www.timesofisrael.com/israelis-held-in-japan-with-virus-taught-doctor-hebrew/

イタリアからの帰国者7人、タイからの帰国者1人計8人陽性

2月28日、イタリアから帰国したイスラエル人男性、続いてその妻も陽性であることがわかった。

www.i24news.tv/en/news/israel/1582902733-third-israeli-tests-positive-for-coronavirus-in-israel-after-recovering-at-japan-hospital

テルアビブ近郊オール・ヤフダのおもちゃ屋店主が、イタリアから帰国後に陽性が判明。この人の妻も後に陽性であることがわかった。このため、この日この店にいた人とその周辺地域在住、数百人が自宅隔離に置かれた。

さらに、タイから帰国した男性が陽性であることが判明。帰国後20人以上と会っていたため、全員自宅隔離とされた。

www.haaretz.com/israel-news/.premium-as-officials-struggle-to-contain-coronavirus-outbreak-some-israelis-defy-quarantine-1.8600400

この後、2月27日に、やはりイタリアから、エルアル機で帰国していた南部住民2人が陽性、上記おもちゃ店店員が陽性となり、これまでに感染者は10人となった。

韓国人観光客:帰国直後30人が陽性でイスラエルはパニック

2月中旬、イスラエルを訪問した韓国人観光客39人のうち30人が、帰国直後に韓国で新型コロナ陽性であったことから、このグループが訪問した場所に居合わせた人々に自宅隔離を命じた。このグループと観光地マサダですれ違った高校生約200人も自宅隔離の対象とされた。

韓国人グループは、福音派であったとみえ、ヘブロンなどユダヤ教超正統派が集まる地域も訪問していたため、一時、超正統派はすべて自宅隔離すべきだとの声も出て、問題となった。

この直後にテルアビブに到着した大韓航空機からは、イスラエル人12人のみが降りて、残りは韓国へそのまま送還された。中国の航空会社、香港のキャセイパシフィックに続いて大韓航空も、イスラエルへの乗り入れ禁止の対象とされた。

この後、大韓航空で帰国しようとした韓国人グループが帰国できなくなり、イスラエル政府は、韓国人らを、エルサレム郊外のイスラエル軍駐屯地に、収容しようとした。すると、付近住民らが、激しい抗議の声をあげ、紛争にもなりかかったため、これを中止しなければならなかった。

韓国人たちは、ベン・グリオン空港で夜を明かし、迎えに来た大韓航空機に乗せられて帰国していった。こうした流れを受けて、韓国政府はイスラエルに抗議の声をあげたが、いうまでもなく、イスラエル政府は、これに応じる様子はない。

www.timesofisrael.com/south-koreans-being-shipped-out-of-israel-on-special-flights-amid-virus-fears/

この流れの中で、日本人も、韓国人とともに、2月24日朝8時施行として、イスラエルへの入国禁止の措置が発令された。この時筆者はガイドとして日本人グループとともにいたが、帰国のフライトまで全員ホテルで隔離と言われた。グループは、帰国を早める方向で帰国便の振替をおこなったが、その直後に観光は許可との許可が出て、また帰国便を振り替えるという一幕もあった。

我々の前に帰国予定であった日本人グループの帰国便は、エル・アル(途中で乗り換え予定)でであったため、日本人の乗機を拒否。ヨルダン航空に振り替えたものの、また拒否されて、空港に18時間止められたあげく、結局トルコ航空、タイ航空などを経由しながら帰国されたとのこと。

イスラエル人には、中国人も韓国人も日本人も違いはわからない。観光中、あちこちで、「コロナだ」と言われた。パレスチナでは、チャリティで滞在している日本人女性が、「コロナ」と言われながら、髪をひっぱられる暴力騒ぎにもなったと伝えられている。

www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20200302_45/

しかし、今の所、イスラエル人で、韓国人や日本人観光客を発端とする新型コロナ陽性者の報告はない。

なお、イスラエルは、中国、韓国、香港、マカウ、日本、シンガポール、タイなどアジア諸国とイタリアへ旅行したイスラエル人は、帰国後14日間の自宅隔離とし、守らないものには7年間の収監という厳しい法令まで出している。*台湾はすぐれた対処で感染者は非常に少ない。

イスラエルのエル・アル航空はこれらの国々への乗り入れを停止しているが、3月11日に就航開始予定の東京への直行便については、今の所、中止との決定はされていない。

イスラエル人は海外旅行を全面的に控えるよう警告

この後、イタリアで、新型コロナ陽性者と、死者も急増すると、イスラエル政府は、イタリアから到着した飛行機も、イスラエル人以外はすべて、飛行機から降ろさず、そのままイタリアへ送り返した。

この後、イスラエル政府は、イタリアとタイの航空会社もイスラエルへの乗り入れを禁止するという措置をとっている。最終的にイスラエル政府は、イスラエル人は、よほどの理由がない限り、海外へは出ないようにとの警告を出した。

現在、自宅隔離しているイスラエル人は、有権者だけで5630人。

*3月2日時点での新型コロナウイルス(WHO via BBC)現状: イランで副大統領が感染

67カ国、8万8000人以上が感染。3000人以上死亡。中国以外で最も感染者が多いのは韓国で4335人。次にイタリアで1689人。イラン1501人。日本239人。ドイツ129人。WHOは「世界的な緊急事態」を宣言している。

感染者、死者ともに今も最大は中国・武漢だが、2月末から死者数の増え方はやや安定してきているという。回復率も高まっているが、回復後に再度肺炎を再発するケースもあり、まだ予断を許さない状況である。

www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-51641257

死者が多いのはイランで、政府によると66人だが、イランの医療関係者がBBCに伝えたところによると210人が死亡している。イラン国営通信によると、26日にロウハニ大統領も出席する閣議に出席していたエブカテール副大統領が、新型コロナに感染していることがわかった。

イラン政権内に感染が広がることも懸念されている。

www3.nhk.or.jp/news/html/20200227/k10012305141000.html

石のひとりごと

この新型コロナによるパニックの中、イスラエル健康省のトップは、よりにもよって、科学を信じない黒服のユダヤ教超正統派リッツマン氏である。しかし、逆にリッツマン氏がこの件について、まったく無力であるためか、感染・医療の専門家が、初期段階からすべてを取り仕切っているようにもみえる。

しかし、一方で、担当が医療関係者であるために、政治・外交への配慮がほとんどないようでもある。外務省は、イスラエルが、世界に類をみないほど、外国からの飛行機をシャットアウトすることや、観光客をそのまま追い返すなど、非常に失礼な対処をとっていることに懸念を表明している。

日本は逆に、中国への忖度から、未だに中国全土からの就航を拒否するにいたっていない。当初からの対処を見ても、医療関係の専門家ははたして関わっているのかと思われるほど、水際対策は甘かった。今も関空には、中国、韓国、シンガポールの飛行機は普通に就航しているし、関空からの入国もまったく素通りであった。

イスラエルとはあまりにも危機感が違っていたのに驚かされた。また日本のテレビでは、健康に見える人が感染源になりうるということを今頃発見したかのように、警告しているが、イスラエルはそんなことは当初から含めた上での対処をとっていたわけである。

しかし、実際のところ、この新型コロナウイルスは、どのぐらい人類にとって危機的なものなのだろうか。死者がでていることを過小評価することはできないのだが、実際には、ウイルスそのものよりも、それによる経済の崩壊など、副作用といってもよい世界情勢への影響の方も気になるところである。

また今回、台湾の指導者が、非常に効果的な対処をしたことが高く評価されている。台湾人クリスチャンは、祖国のために、常日毎から力強く祈っているが、台湾人の友人によると、イスラエル在住の台湾人たちは、特に2018年から、今回のような災害も含め、緊急時を見据えての指導者へのとりなしを行っていたという。

私たち日本人も、政府を批判するだけでなく、政府を本気でとりなしていかなければならないと実感させられた。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。