国連安保理で即時停戦決議:アメリカ1国のみ反対・拒否権発動で否決 2023.12.9

UN headquarters in New York City, on Friday.Credit- Yuki Iwamura / AFP

ガザは人道的大惨事:グテーレス国連事務総長

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国連では先週、グテーレス事務総長が、第99憲章を行使して、国連安保理に、イスラエルとハマスの戦闘に即時停戦を命じるよう、要請を出した。これを受けて、昨日8日、この件に関する国連安保理が開催された。

グテーレス事務総長は、残虐な攻撃を受けたからといって、残虐な攻撃をし返すことへの正当性はないと指摘。今ガザ地区では、1万7000人が死亡し、人道支援もままならないとして、「人道的大惨事」にあると訴えた。

しかし、ハマスを排斥さえすれば、人道支援状況は一気に改善することはあきらかである。今は、停戦ではなく、一刻も早く、この重大犯罪を犯した武装ハマスを一掃すること。それが最も早い改善の方法である。

国際社会はそれを支援するべきではないのか。なぜ、そこに思い至らないのか、不思議である。(石のひとりごと)

*ガザ地区避難民の現状:イスラエル軍は安全地帯150ヶ所指定

国際社会とアメリカからの強い要請で、イスラエルは、パレスチナ難民が戦闘に巻き込まれる心配がないとする安全地帯を、南部海岸沿いのアル・マワシ含め150ヶ所を設置したと発表している。

また人道支援物資のトラックの搬入も認めているが、ガザ南部については、国連支援団体が、搬入される物資が限られているとして、放出を渋る傾向にあり、混乱を極めている。先日、パレスチナ人が、食糧庫になだれ込んで食料を持っていく様子もお知らせしたところである。

国連安保理:英米以外の13カ国が即時停戦に賛成・しかしアメリカが拒否権行使で否決

即時停戦を求める決議案は、UAE(非常任理事国)がアラブ諸国を代表する形で作成し、パレスチナ自治政府の国連代表が、15の理事国それぞれに送付するという流れであった。

このため、決議案は、明らかにアラブ諸国の意向のみが反映するものであり、10月7日にイスラエルで行われた大虐殺への非難が含まれていなかった。

イスラエルは、10月7日の残虐性が想像できないレベルであったことや、死者1万7000人のうち、民間人がどのぐらい含まれているのか、明確ではないと訴えている。少なくとも5000人は武装ハマスであること。また1000人は、10月7日にイスラエル領内へ侵入していて殺されたテロリストであると主張した。

しかし、8日の投票で、これに反対票を投じたのはアメリカ1国のみ。日本を含む13カ国がこれに賛成票を投じた。イギリスは、ハマスへの非難が含まれていないことをあげ、棄権票を投じた。

賛成多数ではあったが、アメリカが拒否権を発動し、即時停戦案は否決となった。アメリカは、その理由として、「この決議案は10月7日の虐殺を含んでおらず、現実から解離している。今、停戦して軍事活動を止めれば、ハマスがガザでの支配を継続してしまい、次の戦争の種を撒くだけに終わる。」と説明した。

決議後、イスラエルのエルダン国連代表は、アメリカに感謝を表明した。

www.timesofisrael.com/us-vetoes-un-security-council-resolution-demanding-immediate-gaza-ceasefire/

今は感謝・戦後についてはアメリカと溝

イスラエルにとって、アメリカは唯一の友好国で、現時点ではハマス殲滅を強力にバックアップしてくれている。しかし、戦後どうするかについては、ブリンケン国務長官自身も、イスラエルと意見が違っていることを認めている。

アメリカは、戦後、パレスチナ自治政府が主体となって、ガザを管理する方策を模索している。パレスチナ自治政府のシュタイエ首相も、アメリカと戦後に関する対話が始まっていると語っている。

Nov. 11, 2023. (Ammar Awad /Pool Photo via AP).

しかし、パレスチナ自治政府は、確かにハマスとは決裂の中であるが、イスラエルを消し去るという目標については一致している。

実際、シュタイエ首相は、将来のガザの管理にハマスも含まれることを望むと語っているのである。アメリカはこれを知りつつ、パレスチナ自治政府と論議を続けているという。

これではまったく元のもくあみである。またそもそも、今のパレスチナ自治政府はすでに倒れる寸前であり、いつハマスにとってかわられてもおかしくない存在である。

アメリカがそれをわかっていないはずはないのだが、もしかしたら、アメリカは、イスラエルがハマスを全滅しきることは不可能だという、シュタイエ首相の意見とどこか同感であるのかもしれない。

www.timesofisrael.com/pa-says-its-working-with-us-on-post-war-plan-for-gaza-hopes-to-include-hamas/

ともかくも、パレスチナ自治政府がガザを管理する状況をイスラエルは絶対に認めないだろう。イスラエル自身は、ガザ領内深くに緩衝地帯を設け、その緩衝地帯の治安を管理するのは、イスラエル軍だと言っている。他にそれを任せるほどに信頼できる国はないからである。

しかし、ガザ内部に食い込んでイスラエル軍が駐留することは、「占領」とみられる可能性が高く、イスラエルへの非難は免れないだろう。しかし、イスラエル南部に再び人々が住むためにはこの方法しかないとイスラエルは考えている。

今はまだ、ガザにいるハマスを殲滅させることが第一歩なので、それ以上のことは、イスラエルではまだ論じられていないが、将来的には問題になるかもしれない。

<石のひとりごと>

 

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。