反米・反イスラエルの波:その後 2017.12.14

<イスラエル国内・西岸地区>

1)エルサレム中央バスステーションでテロ

10日午後、エルサレムの中央バスステーション入り口で、パレスチナ人が、警備員の男性の胸部を刺すテロ事件が発生。犯人は、市民にとり押さえられ、警察に連行された。

被害にあった警備員はアシェル・エリメレクさん(46)病院に搬送されたが、重賞でまだ命の危険がある。犯人は、西岸地区ナブルス在住のヤシン・アブ・アル・クラ(24)。「アラーのためにやった。」と言っている。

西エルサレムの中心、しかも市民が日常最も出入りの激しい中央バスステーションでのテロであったため、市民らはショックを受けている。しかし、そこはイスラエル。現場は直ちに通常に戻っている。

www.timesofisrael.com/doctors-stabilize-security-guard-wounded-in-jerusalem-attack/

2)北部アラブ人地域ワジ・ワラではイスラエル人へのリンチ未遂

トランプ大統領のエルサレム首都宣言から4日目。今日は東エルサレム、西岸地区は若干落ち着いたが、国内で上記の事件が発生した他、北部アラブ人地区ワジ・ワラで、アラブ人系の若者らが、治安部隊に投石するなどの暴力的なデモが発生した。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/239105

警察が対処していたが、取材に来ていたイディオト・アハロノトの記者ジル・ネフュスタンさんが、ふいに警察が撤退したため、暴徒側に取り残された。記者は危険を察して逃げたが、暴徒はジルさんのバイクを破壊した。

3)西岸地区での衝突

西岸地区では、トランプ騒動から5日目になるが、まだ各地で投石するパレスチナ人とイスラエル軍との衝突が続いている。

パレスチナメディアによると、月曜から火曜にかけて、イスラエル軍による踏み込み捜査があり、西岸地区各地と東エルサレムで17人が連行されたもよう。(この数字はメディアによって格差あり)

www.maannews.com/Content.aspx?id=779613

◉ ハマスの息子の父ハッサン・ユーセフ逮捕

水曜深夜、イスラエル軍は、西岸地区でのハマスの最高指導者シーカー・ハッサン・ユーセフ(62)を自宅のあるラマラ郊外で逮捕した。この時の踏み込みでパレスチナ人32人を逮捕したとのこと。このうち少なくとも6人はハマス。

ハッサン・ユーセフは、ハマスの息子モサブ・ハッサン・ユーセフ(39)の父として知られる。モサブ氏は現在アメリカ在住。父の救いのために祈っていると思うが、まだその結果はでていないようである。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/239255

この他、西岸地区ナブルス近郊でイスラエル人の誘拐を計画していたハマス2人が諜報機関により、未然に摘発された。

エルサレム市内はいたって平和だが、その背後でこうした治安部隊の危険な任務が夜な夜な行われているということである。その中でも、兵士たちは高い軍の倫理も守らなければならない。西岸地区では2件の残念な事件が発生した。

一つは、ヘブロンでの作戦中、イスラエル軍司令官が、自分と部下2人のために、パレスチナ人のりんご3こを盗んでいる様子が、ビデオに撮影されたこと。この兵士は、任務から外され、処罰されることになった。

www.timesofisrael.com/soldier-dismissed-after-being-filmed-stealing-fruit-from-palestinian/

12日には、西岸地区入植地アリエル付近で、イスラエル兵を襲ったみられるパレスチナ人にイスラエル兵が発砲。重傷を負わせた。しかし、その後、武器を持っていなかったことがわかった。

パレスチナ人はイスラエルの病院で手当てを受けている。こちらも調査が進められている。

www.haaretz.com/israel-news/.premium-1.828584

パレスチナはこれからクリスマスシーズンで、ベツレヘムのホテルは、今のところ満員である。しかし、こうした状況を受け、ぼちぼち旅行者のキャンセルが出始めている。

また、イスラエル人ガイドが、西岸地区に入ることが全面禁止となった。友人がガイドを務めていたグループは、ガイドなしという危険な状況で、運転手のみでベツレヘム入りしたという。

イスラエル軍の防衛省コーディネーターのヨアブ・モルデカイ大佐は、パレスチナ人に対し、神殿の丘の状況には全く変わりはない(イスラム教徒は自由に出入り可能)と強調。「クリスマスを妨害して、観光客を失わないようにしたほうがよい。」と警告している。

www.timesofisrael.com/idf-warns-further-gaza-rockets-will-be-met-with-severe-response/

<ガザ地区>

1)ガザからイスラエルに続くトンネル発見・破壊

10日、ガザ北部カン・ユニスからイスラエルに続くトンネルが新たに発見され、イスラエル軍はこれをイスラエル領内で破壊した。

イスラエル軍によると、地下トンネル対策の新しいテクノロジーにより、掘り進んでくるトンネルを監視。イスラエル領内へ数メートル入ったところで、爆破せず、静かにトンネルを使用不能にしたとのこと。

10月にもガザからの地下トンネルを大規模に破壊したが、この時にはパレスチナ人12人が死亡した。今回は死者は出ていないもよう。前回はイスラム聖戦のトンネルであったが、イスラエルは、基本的に責任はハマスにあるというスタンスである。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/IDF-neutralizes-cross-border-Hamas-terror-tunnel-second-in-recent-weeks-517583

2)ガザからのミサイル攻撃・イスラエルの反撃

ガザ地区からは、トランプ大統領がエルサレム首都宣言を出してから、金曜、土曜とロケット弾がイスラエル南部へ10発飛来。空き地に落ちたり、迎撃ミサイルが撃墜したが、1発は、スデロット市内の幼稚園の入り口に着弾した。幸い夜で無人であったので、物的被害だけで、人的被害はなかった。

これに対し、イスラエル軍は、ミサイルが発射される都度、ハマス関連の基地や武器庫を空爆。ハマス指導者2人が死亡。子供を含む多数が負傷している。

www.timesofisrael.com/idf-warns-further-gaza-rockets-will-be-met-with-severe-response/

11日夜には、ガザ周辺を超えて、アシュケロン方面へミサイルが発射され、迎撃ミサイルが撃墜した。住民たちは、2014年以来となるサイレンに起こされた。エルサレムポストによると、住民は、「ミサイルは数年ごとに飛んでくるのでもう慣れた。今回はトランプ(のエルサレム宣言)以来だ。」と言う人もいるようである。

12日午後、ガザで、バイクに乗っていた2人が、突然の爆発で死亡した。ハマスはイスラエルのピンポイント攻撃だったと非難したが、イスラエルはこれを否定している。

このように、ガザ情勢が徐々に悪化しており、また戦争になる可能性も懸念されている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/239214

*ガザ情勢でニューヨークの爆破テロ

11日ニューヨークで発生した爆弾テロの犯人は、ガザ地区でのイスラエル軍の攻撃に抗議するものだと、犯人のアカイド・ウラ(27)が自白した。ウラは、ISISの影響を受けていたようだが、直接のコンタクトはなかったとみられている。

この事件では、ウラが自爆テロを決行しようとしたが、失敗し、自分と3人が負傷した。

www.timesofisrael.com/new-york-bombing-suspect-was-reportedly-angry-at-israel-over-gaza/

<ペンス米副大統領のイスラエル訪問:17−19日>

大変な反米の渦の中だが、来週日曜からは、福音派キリスト教徒で、親イスラエルで知られるペンス・米副大統領がイスラエルを訪問する。

すでに、パレスチナ自治政府、エジプトへの訪問も断られるなど、反米の渦の中でのイスラエル訪問である。それでも日曜には、嘆きの壁を訪問する予定と発表された。相当な治安部隊が出動すると思われるが、要とりなしである。

www.jpost.com/Israel-News/Vice-President-Pence-to-visit-Western-Wall-on-Sunday-517888

<パレスチナ自治政府:ペンス副大統領との面会を拒否>

トランプ大統領が、エルサレムはイスラエルの首都と宣言してから1週間。次のステップとして、今月17日−19日、アメリカのペンス副大統領が、イスラエルを訪問し、18日にはベツレヘムでアッバス議長を面会する予定だった。

しかし、アバス議長はこれを拒否。エルサレムをイスラエルの首都と認めたアメリカは今後中東和平の仲介者ではありえないと表明した。ペンス副大統領は、「パレスチナ人は、また和平へのチャンスを失った。」と語っている。

www.jpost.com/Israel-News/Pence-an-architect-of-Jerusalem-recognition-plans-triumphant-visit-517803

中央バスステーションでパレスチナ人がイスラエル人に瀕死の重賞を負わせ、ガザでは、底知れない執念で、イスラエルへの地下テロ・トンネルを掘る。このようなことをしていても、パレスチナ側はこれをいっさい悪いこととは認めようとしない。

前にも書いたが、これはイスラエルの存在自体が悪いと言っているということである。これでは和平交渉がうまくいくはずがない。

このため、トランプ大統領は、まずイスラエルがおり、エルサレムを実質支配していることを認めて、そこから交渉していこうと提案したのだが、アッバス議長はこれを断った。今後は、アメリカ以外の国際社会との連携で、エルサレムはパレスチナ人のものとして独立をめざすということのようである。

<アラブ連盟:アメリカにエルサレム首都宣言撤回を要請>

アラブ同盟は9日、エルサレム問題について、エジプトのカイロで、外相級緊急サミットを行った。参加国は、サウジアラビアなど20カ国で、トランプ大統領に一方的な宣言を非難する声明を出した。

またこのサミットにて、エジプトで最大のキリスト教教会と、スンニ派イスラムの最高指導者は、ともに、20日にエジプトを訪問する予定のペンス米副大統領には面会しないと表明している。

www.timesofisrael.com/arab-foreign-ministers-blast-trump-over-jerusalem/

しかし、声明だけで、実質的なアクションは発表されなかった。10日、ヨルダンが、1ヶ月後ぐらいにまたアラブサミットを今度はアンマンで招集すると発表している。

*アラブ連盟

1945年に政治的な地域協力を目的として結成されたアラブ諸国の同盟。現在シリアを除く20カ国とパレスチナ自治政府が加盟している。サウジアラビアなど湾岸アラブ諸国。イラクは入っているが、イランは非加盟。

<バハレーンの超教派NGOイスラエル訪問>

このややこしい時期に、バハレーンが興味ふかい動きを見せている。土曜から「これがバハレーン」と称する24人のグループ(NGO)がイスラエルに5日間の滞在予定で訪問しているのである。

グループは、スンニ派、シーア派、クリスチャン、ヒンズー教、シーク教それぞれの指導者を含んでおり、バハレーンがオープンな国であることをアピールしている。ただし、政府関係者は政治家は1人も含まれていない。

エルサレムでは、今、イスラエルの首都であっても、すべての宗教にオープンであることを必死でアピールしているので、バハレーンからこのようなグループが来るのは、助かるというところかもしれない。一行は、エルサレムでハヌカの祝いにも参加したとのこと。

これを受けて、PLOハナン・アシュライ氏は、「次期的に最悪。はなはだしい無神経だ。」との怒りを表明している。しかし代表団は、これは前から計画されていたことであり、それを実行しただけだと反論している。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Bahraini-delegation-visits-Jerusalem-to-talk-about-peace-517664

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5056269,00.html

なお、来月には、イスラエルのビジネス団一行が、バハレーンを訪問することになっている。バハレーン側は受け入れを承認しているということだが、実現するかどうかはまだ不明。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Israeli-business-leaders-to-travel-to-Bahrain-in-next-normalization-step-517877

両者の違いの訪問を主催したのは、シモン・ビーゼンタール・センターで、政治的な意図はなく、両国の直接の対話の場を作ることが目的だと主張している。

*シモン・ビーセンタール・センターは、反ユダヤ主義を監視することで有名。寛容を促進するアメリカの組織。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。