リブリン大統領が総選挙の正式結果受領:各党との面談開始へ 2021.4.1

選挙結果を受け取るリブリン大統領 出典:GPO

リブリン大統領が受領した正式な選挙結果

31日、中央選挙委員会が、先週23日に行われた総選挙に違反はなかったとして、正式に結果をリブリン大統領に提出した。結果は以下の通り、これまでの選挙と同様、明白な勝利者がない行き詰まり状態となった。

右派ネタニヤフ首相陣営(52議席):リクード(30)シャス(9)統一トーラー(7)宗教シオニスト(6)

右派左派アラブ混合・反ネタニヤフ陣営(57議席):未来がある党(17)青白(8)労働党(7)イスラエル我が家(7)統一アラブリスト(6)ニューホープ(6) メレツ党(6)

どちらか不明な党:右派ヤミナ(7)イスラム政党ラアム(4)

この結果に基づき、今、右派陣営ネタニヤフ首相と、右派左派混合の打倒ネタニヤフ陣営の議席最多党首のラピード氏が、国会過半数になる政権樹立を目指して、各党の党首や、選挙リストにある議員たちと交渉を繰り広げている。しかし様々なシナリオが考えられ、どんな政権になるのか、誰が首相になるのかはまだほとんどわからない状態である。

今後のスケジュールは、4月5日、各党の党首がリブリン大統領と面談し、誰の政権につく用意があるかを告げる。その結果から、大統領は、7日、最も過半数を獲得すると予想される人物に、連立樹立の最終段階を委任する。連立樹立の任命を受けた人物は、28日以内、5月5日までに、最終交渉を終えて、国会過半数になる政府を樹立しなければならない。期限に間に合わない場合は、2週間延長可が可能とされ、最も遅い場合で、5月19日が最終の締め切りである。

もし、この人物が、締め切りまでに、国会過半数を超える政権を政権を樹立できなかった場合、リブリン大統領は、別の人物にこの役割を委任する。その後は同じように最初の締め切りが28日後、延長が2週間である。もしくは、2人目も明らかに樹立できないと大統領が判断した場合、大統領は、国会自身に首相を選ばせることになる。

実際のところ、最初に任命された人が、連立を樹立できない場合、その次からの選択肢で落ち着くことは難しい。この場合、できたばかりの国会は再び解散、5回目総選挙ということになる。それまで政治を担当するのは、今のネタニヤフ政権で暫定政権として続行する。これでは、文字通り、デッドロック(行き詰まり)状態と言える。

さらに、ここで非常に難しい問題が、4月5日、ネタニヤフ首相の汚職疑惑に関して、証拠告発の裁判が行われるという点。ネタニヤフ首相は、他ならない、犯罪者として、刑事訴訟の被告に立つのではあるが、次期首相有力候補である。神の律法に基づく正義を重んじるはずのイスラエルにとって、前代未聞。非常に皮肉で難しい状況である。

どんな政府になるのか全く不透明

今のところ、リブリン大統領が連立樹立交渉を任命するのは、以下の3人のうちの誰かになると考えられている。誰がその指名を受けるか、その後、どんな組み合わせになるのかは、今もまだパズルであり、推測ということになる。

1)ネタニヤフ首相中心:右派とユダヤ教政党による政府目指して交渉

選挙結果からすると、単純に考えれば、ネタニヤフ首相は、たとえヤミナを連立に取り込んだとしても、まだ61議席には足りていない。では、イスラム政党のラアム党を取り込むかだが、右派政権が、イスラム主義政党と組むことはあり得ないだろう。とはいえ、背に腹は変えられない・・・と話が進んでいるといった報道もある。ネタニヤフ首相ほどのベテランであれば、ラアムを政権に加えても、うまく無視することも可能だろう。しかし、ラアムと組むことは右派の支持者を失う可能性がある。

また、今のところ、ネタニヤフ陣営につくことで合意している宗教シオニスト(極右含む)は、ラアムが入るなら、陣営を離れると宣言。一方、ラアムにとっても、イスラエルはユダヤ人だけの国だと主張する宗教シオニスト党とは共存することは不可能である。ラアムもこの選択肢はないと言い切った。

このため、ネタニヤフ首相は、ヤミナのベネット氏を交渉するとともに、この選挙の前に、リクードから離れていった、ニューホープ党(ギドン・サル氏・6議席)にネタニヤフ陣営に戻るよう交渉している。しかし、ベネット氏の答えはまだ定まらず、サル氏にもその気がないため、今はその個々のメンバーにリクードに戻るよう(つまりは現時点での所属政党を裏切ることを意味する)、水面下で交渉を進めている。

www.timesofisrael.com/netanyahu-to-bennett-saar-come-home-to-right-wing-coalition-led-by-likud/

2)ベネット氏中心:とにかくネタニヤフ首相をおろして1年間の“回復”政権を目指す交渉

右派ヤミナのベネット氏は、ネタニヤフ陣営に入ってもいいのだが、その前に、サル氏や、宗教シオニスト党など右派政党たちと一致するよう呼びかけ、その上で、左派ラピード氏との交渉にも臨んだ。ともかくもネタニヤフ首相を下すためである。この場合、首相は、ベネット氏とラピード氏が、交代することになるが、先になるのはベネット氏という点にラピード氏が同意しなかった。またこちらの場合も、宗教シオニストとラアムの両方を加えないと過半数には届かないので、結局、上記ネタニヤフ陣営と同じで、過半数には届かないわけである。

3)ラピード氏中心:左派とアラブ政党を結集も右派の支持も必要

中道左派、世俗派を代表するラピード氏には、労働党、メレツ党などの左派政党と、右派だがネタニヤフ首相降板を目指すイスラエル我が家党(リーバーマン氏)が加わることを表明していることから、安定した支持議席数は37である。ラピード氏は、ともに青白党を立ち上げた挙句に裏切られて分裂したガンツ氏(8議席)との対話を行い、ガンツ氏はラピード氏側に着くと表明している。これで、もしラアム党が加われば、61議席と過半数になる。しかし、この方法で仮に政府ができても、国のための一致には程遠い政府であり、実際のところ、現実的でないように思う。

石のひとりごと:民主主義の限界

今世界では、民主主義の限界という言葉が出回っている。多数決を基盤とする民主主義が必ずしも民意を反映しなくなってきているのである。このイスラエルの政治が呈している様子も民主主義の限界そのものである。

こうした中で、今、アメリカとの対立が明白となっている中国は、民主主義の限界を声を大にして指摘する。コロナ禍にあって、民主主義とその親分であるアメリカで、50万人という世界最大となるコロナ犠牲者を出したからである。民主主義では国を守れていないと指摘する。バイデン大統領は、今、世界は民主主義と共産・先制主義の対立になりつつあると危機感を語っていた。

民主主義が無能になってきた場合、専制主義が台頭してくることになる。例えば、コロナ感染予防という良いと見える目的のために、政府が国民に指示を出し、反発できない社会になってくる状態である。

実際、ワクチン接種を受けた人に発行されるグリーンパスについての論議があげられる。ワクチン接種は個人の自由と歌っているが、グリーンパスがないと入れないところが多く、その代替として、週に2回PCR検査を受け陰性証明を所持することになるのだが、この検査代は実費負担なのである。実質的には、ワクチンを接種せざるを得ないという形である。

民主国家でもあるイスラエルがこの危機をどう乗り切っていくのか。民主主義がどうなっていくのか。いよいよネタニヤフ首相が、これからも君臨する専制のような形が続くのか。それともあらゆる違った考えの党が、一つの政府を運営できるのか。これからの世界を予測になるかもしれない。

しかし、そこはイスラエル。常に国難は単なる国難ではなく、必ずバネにしていくことだろう。この政府が決まらないという国難からも何が出てくるのかに大いに期待したい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。