ヨーロッパ:反ユダヤ・反イスラエル主義再燃の懸念 2017.12.14

トランプ大統領のエルサレム宣言以降、現地エルサレムや西岸地区では、特に異常なほどの暴力には今の所なっていないようであるが、むしろ、アラブ諸国や、ヨーロッパで、反アメリカ、反イスラエル主義が急速に悪化しているようである。

<クリスタルナハトを思わせる恐怖>

土曜夜、スウェーデン第二の都市ゴテンベルグで、シナゴーグに火炎ビンが投げ入れられた。中にはユダヤ人たちがいたが、火はそのまま消えたため、負傷者なかった。タイム紙によると、これまでに、この事件に関わったとみられる3人が逮捕されている。

スェーデンでは、トランプ大統領のエルサレム宣言の後、第三の都市マルモでも大規模な反ユダヤ主義デモが行われたことから両都市のシナゴーグ周辺で、警備が強化されているという。

time.com/5057805/sweden-synagogue-attack-arrests/

これに先立つ7日、トランプ大統領の宣言の翌日、オランダの首都アムステルダムでは、ユダヤ人のコシェルのレストランに、パレスチナの旗を掲げるアラブ人の男がパレスチナの旗を持って単身、店のガラスを破壊して店に入り、中もむちゃくちゃにした。

警官が2人、外にいたが、見ていただけで、何もしていないのだが、これについては、警官らは、男が爆発物を持っている可能性があるとして、手をだせなかったと説明している。

しかし、警察官が、ユダヤ人の店の破壊に手をこまねいている様子は、やはりユダヤ人には、クリスタルナハトに通じるものを彷彿とさせる。ちなみに、アムステルダムは、アンネ・フランクが隠れていた家がある。

*クリスタルナハト

1938年11月9日夜、ヒトラー率いるナチ政権下のドイツで、住民たちが暴徒化し、ユダヤ人ビジネスのガラスを粉々に破壊し、シナゴーグには火を放って焼き討ちにした。これをクリスタルナハトと呼ぶ。この時、警察はただ暴徒を見ているだけで、ユダヤ人を助けなかった。シナゴーグの火災もだれも鎮火するものはなかった。

この時のポグロムでユダヤ人300が死亡。シナゴーグ1400件が破壊され、ユダヤ人3万人が強制収用所へ送られた。

ホロコーストの時代、オランダでは、ユダヤ系住民の75%が虐殺された。これはヨーロッパでは最大のユダヤ人死亡率である。

<EUの立場:エルサレムはイスラエルとパレスチナ双方の首都>

EUのモゲリニ外交担当は、7日、「唯一の解決は、国が2つになり、エルサレムは、イスラエル、パレスチナ双方の首都であるべきだ。」と語った。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5053694,00.html

続いて8日、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、スェーデンが、「エルサレムは、イスラエルとパレスチナ双方の首都であるべきである。それが実現するまでは、エルサレムにだれの主権も認めない。」とする共同声援を出した。

この後、チェコ共和国が、ロシアと同様、西エルサレムをイスラエルの首都に認めると発表したが、大使館の移動については、世界の動向に合わせるとの意向を示した。注目はされたが、認めるのが西エルサレムだけであるので、イスラエルにとっては、それほど有益ではないとの見方が優勢である。

www.timesofisrael.com/czech-republic-recognizes-pre-1967-jerusalem-as-capital-of-israel/

<ネタニヤフ首相ヨーロッパ訪問>

ネタニヤフ首相は、上記のようなヨーロッパの動向を少しでも和らげる目的で、11日から2日間、ヨーロッパを訪問した。

まずはフランスのパリで、マクロン大統領と会談。エルサレムがイスラエルの首都であるということは、過去、現在においても否定できない事実であると訴えた。

ブリュッセルでは、EU外交担当モゲリニ氏と会談。「エルサレムに来たことがある人ならだれでも。そこがイスラエルの首都であることは明らかだ。建国以来、国会も最高裁判所もエルサレムにある。」と説明した。

また、パレスチナ人が、エルサレムがイスラエルの首都であるという”事実”を早く受け入れるほど、早く平和へ進める。パレスチナ人がエルサレムは彼らの首都だと思うのは幻想だ。と主張した。

外相も兼任するネタニヤフ首相は、ハンガリーなど東欧諸国、アフリカ諸国、アジア諸国、南アメリカを幅広く巡回し、イスラエルのスタートアップ企業により、イスラエルがいかに貢献できるかをアピールしてきた。

実際、アフリカ諸国など多くの国々にとって、パレスチナ問題はほとんど問題になっておらず、イスラエルの技術力を喜んで受け入れているため、イスラエルがそれらの国々の発展に貢献できている。

同様にパレスチナがイスラエルを認めるなら、パレスチナ人の生活の向上にも貢献できると主張しているのである。

しかし、モゲリニ外交担当は、あくまでもエルサレムは、イスラエルとパレスチナ双方の首都であるべきだと強調した。

www.timesofisrael.com/in-netanyahus-eurotrip-fantasies-clash-with-reality/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。