ペンス副大統領:アメリカはイスラエルと共に立つ 2018.1.23

ペンス米副大統領が、エジプト、ヨルダンを訪問後、20日夜、イスラエルに到着した。

迎えはレビン観光相とフリードマン駐イスラエル米大使が担当し、空港での歓迎式典はなかった。翌朝の首相官邸でも盛大な歓迎のイベントは催されず、ペンス副大統領のコメントもないなど、控えめな歓迎となった。

国会では、ペンス副大統領が講壇に上がり、話し始めるや否や、アラブ系議員らが、「エルサレムはパレスチナの首都」と書いた大きなポスターを複数掲げて叫び、全員セキュリティに退室させられるという1幕もあった。

ペンス副大統領は、この後、すぐれた民主主義の前にへりくだる思いだとコメントし、スピーチをはじめた。

30分あまりのスピーチは、全体的に聖書を土台としたイスラエル理解に満ちており、クリスチャン・シオニストの考えを100%伝えた内容となった。

また昨日の公務に続いて23日の帰国前の訪問先も、ヤドバシェムと嘆きの壁となっており、”クリスチャンであるのに”聖墳墓教会を含めなかったとして、ペンス副大統領は、キリスト教の中でも福音派であることが改めて世界に報じられた形となった。

*聖墳墓教会は、ギリシャ正教などの正教会、カトリック、コプト教が運営するゴルゴダの丘とも目される場所にある教会。福音派は、中に多数のイコンがなどがあるため、偶像礼拝と位置付ける人も少なくない。トランプ大統領夫妻は、キリスト教の代表と位置づけ、聖墳墓教会にも訪問している。

ペンス大統領のスピーチの要点は以下の通り。

1)アメリカ大使館:2019年末までにエルサレムへ移動

ペンス副大統領は、まず、「イスラエルの首都であるエルサレム」の国会でスピーチする初めての副大統領になるのは光栄なことだと述べ、喝采をあびた。

ペンス副大統領は、エルサレムが首都であるということの根拠として、アブラハムからダビデが首都としてことをあげ、ユダヤ人はエルサレムに確かな深いつながりがあると述べた。

またエルサレムがイスラエルの首都であることは事実であるとし、事実に基づいてはじめて平和は実現すると述べ、トランプ大統領が直ちに大使館の移動準備を始めるよう指示したので、2019年末までには、アメリカ大使館はテルアビブからエルサレムへ移動すると宣言。国会全体が、スタンディングオベーションとなった。

しかし、同時に神殿の丘(ハラム・アッシャイフ)を含むエルサレム市の「現状維持」の原則は守ること、アメリカが最終的な合意(エルサレム市の境界線など)を決めるのではないという原則も強調。イスラエルとパレスチナ双方が合意するなら、アメリカは2国家を指示するとのトランプ大統領の立場も強調した。

2)悪の政権イランを核保有国にはさせない

ペンス大統領は、臆すことなく現イラン政権を悪と呼び、アメリカは、イランが核保有国にさせないと断言。スタンディングオベーションとなった。

ペンス副大統領は、現在のイラン政権が、市民を抑圧していると指摘。イランへの経済制裁を訴えるのではあるが、イラン市民に対しては、残酷な現政権が終わり、自由な国になった時には、アメリカはあなたがたの友人だと述べた。

3)アメリカはイスラエルと共に立つ

ペンス副大統領は、23日、ヤドバシェム(ホロコースト記念館)を訪問することになっているが、国会でのスピーチでも、ユダヤ人の苦しみについて述べ、それからわずか3年後にイスラエルが建国したことをあげ、神がそれを実現したのだが、ユダヤ人が希望を失わなかったからだとユダヤ人への敬意を述べた。

今年建国70年を迎えることに言及した際には、「天地創造の神に祝福あれ。神は私たちに命を与え、今日に至るまで生かしてくださった。」という伝統的なユダヤ教の祈りをヘブル語で述べ、再びスタンディングオベーションとなった。

また、今エルサレムでは、アブラハムを父祖とするユダヤ人、クリスチャン、イスラム教徒すべてが平和に生きているとし、ユダヤ人の信仰が、エルサレムを再び立て直し、強くしたと指摘。

イスラエルは、奇跡の証人であり、世界へのインスピレーションだと述べた。そのイスラエルと、その人々と共に友として立つことは、アメリカの誇りだと語った。

これまでのアメリカの大統領や高官と違い、イスラエルの「入植地」への非難はいっさい含まれていなかった。

4)エルサレムの平和のために祈る

ペンス大統領は、詩篇122編から引用したと思われるが、私たちはエルサレムの平和のために、その城壁のうちに平和があるように祈る。あなたがたを愛する人々に、その城壁の中には平和があるようにと述べ、以下のように締めくくった。

私たちは、この古くからの町を祖国と呼ぶ人々のために、神のいちじくの木の下に座る人々の平和のために働いていく。

私は心から申し上げる。神がユダヤ人を、イスラエル国家を祝福されるように。そして、アメリカ合衆国を祝福され続けるように。

ペンス副大統領スピーチ全録画(アメリカ大使館による):https://www.youtube.com/watch?v=eHqKpCvCMlI

<祈りきかれた!?>

ペンス副大統領が、中東歴訪のためにアメリカを発った日、アメリカ政府は、暫定予算案が失効したことにより、政府機関が一部閉鎖になる、いわば部分的シャットダウンに陥った。

イスラエルでの国会でのスピーチでの後、ペンス副大統領はトランプ大統領と電話で連絡を取ったが、つなぎ予算が可決されたために、政府の閉鎖は3日で終わる見込みになったと報告した。

www.bbc.com/news/world-us-canada-42785678

<懸念を表明する意見も>

ペンス副大統領のメッセージは、イスラエル人の心をおおむね温めるものではあるが、現ネタニヤフ政権と一致するもので、完全にシオニスト、言い換えれば右派の考え方である。

かつてパレスチナとの対話を担当したこともある中道左派よりと思われる議員ツィッピー・リブニ氏は、「ペンス副大統領の今回の中東歴訪が、中東和平への死亡証明書にならなければよいが。」といったコメントを出している。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5074688,00.html

確かに、アメリカの動きで、パレスチナ自治政府はアメリカを見限り、和平交渉への道のりは、これまで以上に遠のいている。また、今回のペンス副大統領のメッセージで、絶望、または怒ったパレスチナ人に、テロに走る大義を作ったとも考えられる。

実際、ペンス副大統領のスピーチを受けて、アルカイダは、ユダヤ人とアメリカ人を狙えとユダヤ人を先にあげ、攻撃の標的にするようにと指令を出している。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/241055

またイスラエルの国会でアメリカとイスラエルが一緒になって悪といわれたイランが、今後どう出てくるかも気になるところである。主の介入がどう出てくるのかが注目されるところでもあるが。。。

また、トランプ政権が、イスラエル支持であることから、全世界で、反ユダヤ主義が激増しているとの報告もある。これから祈りとりなしがさらに深刻になる時代を迎えることは十分予想されることである。

<石のひとりごと:エルサレムを背負う者>

昨日朝、首相官邸での地味なペンス副大統領歓迎式典に行ってきた。朝6時に家を出て、首相府についてから中に入るまでに2時間。それからさらに2時間、カメラの立ち位置で他のテレビカメラやカメラマンらと争いながら待ったあげく、ペンス副大統領とネタニヤフ首相の歓迎式典はわずか3分たらずであった。スピーチもなしであった。

必死に撮影している間に終わってしまったため、ペンス氏をよく見る時間もなかったが、ネタニヤフ首相と並んで歩いているペンス副大統領を見ながら、ユダヤ人とクリスチャンの関係がいよいよここまで回復したかと感動する思いだった。

明確に福音派クリスチャンであると告白しているペンス副大統領が、ユダヤ人の国、イスラエルの国会で公式のスピーチをし、ネタニヤフ首相と同じところに立って、硬い握手を交わす。これは、ユダヤ人とクリスチャンの関係の癒しが大きく前進した歴史的なできごとであるといえるだろう。

また、ペンス副大統領が、聖書理解に基づいて、エルサレムをイスラエルの首都と認めると宣言し、「神がユダヤ人とイスラエルを祝福されるように。」と、ゆっくり心をこめて語り、続いて祖国を覚え、アメリカに神の祝福があり続けるように。と述べて、自分のおかれている立場を正しく認識している姿にも感動した。

しかしキリスト教は一枚岩ではない。同じプロテスタントでも、パレスチナ系ルーテル派教会の司祭は、「イエスを政治的なイエスにしている。」と、ペンス副大統領に反対するコメントを出している。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5074816,00.html

また根強い反ユダヤ主義は、キリスト教会が育て、ホロコーストという惨状にまでなったたのであるが、その根が今、特にヨーロッパで、反ユダヤ、反イスラエル主義の暴力となって激増傾向にある。

自分の理解や感情、利益ではなく、聖書に立つのか。そのために、テロの標的になる覚悟はあるのかどうか。今回、ペンス副大統領が、明確にクリスチャンとして、イスラエルを祝福する立場を明確にしたことで、今後、この点においてもキリストの教会が、ふるいにかけられていくのかもしれない。

またペンス副大統領が、エジプトとヨルダンも訪問したことも覚えたい。これらの国々は、エルサレムはパレスチナの首都であるとの立場を、改めてペンス氏に伝えたのではあるが、実際にはどんな話になったのか、この訪問のインパクトは不明である。

キリスト教会と同様、イスラエルと国境を接するこれらの国々も今後、エルサレムについて、どうするのかを考えざるをえないだろう。前にも書いたが、聖書には次のように書かれている。エルサレムとそれを支持する者たちは攻撃されるが、最終的には主によって救い出されるということである。

見よ。わたしはエルサレムを、その回りのすべての国々の民をよろめかす杯とする。ユダについてもそうなる。エルサレムの包囲されるときに。その日、わたしはエルサレムを、すべての国々の民にとって重い石とする。すべてそれをかつぐ者はひどく傷を受ける。地のすべての国々はそれに向かって集まってこよう。

その日ー主の御告げーわたしは、すべての馬を打って驚かせ、その乗り手を打って狂わせる。しかし、わたしはユダの家の上の目を開き、国々のすべての馬を打って盲目にする。

ユダの首長たちは言おう。エルサレムの住民の力は彼らの神、万軍の主にある、と。(ゼカリヤ書12:2-8)

今はまだ世界最強を誇るアメリカだが、これから国際社会の風当たりはさらに強くなってくるだろう。福音派クリスチャンへの迫害もお懸念される。ペンス副大統領とトランプ政権、アメリカを覚えて祈る必要とともにキリストの教会のためにもさらに祈る必要を覚えた。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。