パレスチナ自治政府存続めざすエジプト・ヨルダン・イスラエル:アッバス議長歩み寄り姿勢か 2021.9.10

エジプト・ヨルダン・アッバス議長会談:2017年以来4年ぶり

パレスチナ自治政府が再び財政難で崩壊寸前に陥っている。もし今、自治政府が崩壊したら、その後にガザのハマスやイスラム聖戦などの過激派が西岸地区を支配する可能性が出てくる。

これは、イスラエルにとっては大きな問題だが、近隣諸国にとっても好ましい状況でない。このため、エジプトが牽引役となり、ヨルダンとおそらくはイスラエルも同意の上で、パレスチナ自治政府を公に支持して、ガザのハマスとの格差を強調し、過激派の進出を抑えようとする動きになっている。

2日、カイロで、エジプトのシーシ大統領とヨルダンのアブドラ国王が、自治政府のアッバス議長と会談。3者は、2国家2民族案(東エルサレムを首都とするパレスチナ国家設立)を目指すことを確認した。2017年以来となるこの3者会談は、まもなく開催される国連総会の前の打ち合わせのようなものとみられている。

www.timesofisrael.com/pas-abbas-meets-egypts-sissi-jordans-abdullah-in-rare-trilateral-summit/

水面下で動くイスラエル

イスラエルの新政権はこれまでのような右派一点張りではないことから、この会談に、イスラエルからベネット首相も加わるのではとの憶測が出たが、さすがに、ベネット首相はこれを否定した。アッバス議長が、イスラエルを国際刑事裁判所に訴えていることをあげ、通常そういう相手とは仲良くしないものだと言っている。ベネット首相は、極右とまで言われた人物なので、少なくとも右派としての立場は守らなければならないだろう。

www.timesofisrael.com/bennett-says-he-wont-meet-with-abbas-after-pa-chief-brought-israel-before-icc/

しかし、この3者会談の前に、エジプトのシーシ大統領は、ベネット首相をカイロに招いたと報じられており、ここ数週間の間にベネット首相が、単独で、エジプトを訪問する予定である。

またベネット首相がアッバス議長と顔を合わせることがなくても、新政権独特の多様性を使って、先にガンツ防衛相がアッバス議長と、直接会談を行なっている。これは中道左派のガンツ防衛相の支持層にとっては、むしろ支持率をあげる動きにもなりうる。

元労働党首(左派)のヘルツォグ大統領も、アッバス議長と電話会談した他、極秘にヨルダンに行って、アブドラ国王と会談していたことがわかった。会談の後、ヘルツォグ大統領は、イスラエルの治安維持のためにも、アッバス議長を支えなければならないと語っている。

総じて、エジプト、ヨルダン、イスラエルも、2国家案に同意するのかどうかは別として、パレスチナ自治政府の存続という点においては、目標を一致している。ベネット首相が言う「意見に違いあれども、一致する点をみつけながら、互いの祝福を祈る」という流れである。

反発するガザの過激派ハマスとイスラム聖戦

こうした動きに耐えられないのが、イスラム過激派である。過激派からみると、いくら存続のためとはいえ、穏健派イスラムだけでなく、イスラエルにまで接近しようとしているのは、あってはならない妥協ということになる。

特にアフガニスタンでイスラム主義者タリバンがアメリカを追放したことから、世界中のイスラム過激派たちがおおいに励まされたと考えられる。この動きの中で、イスラム聖戦メンバーが、最強と言われたイスラエルの刑務所からの脱獄を成功させたということである。

この流れの中で、同じパレスチナ人イスラム教徒として、アッバス議長はどう出てくるのか。エジプトやヨルダンも、同じイスラム教徒として、どう対処していくのか、今後、注目されるところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。