ネタニヤフ首相在任13年で最長を記録 2019.7.23


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ベン・グリオン首相とネタニヤフ首相:写真 GPO

20日、ネタニヤフ首相は、在任13年(1996~1999、2009~現在)となり、故ベン・グリオン首相を超えて、イスラエル史上最長の現役首相となった。

Times of Israelは、6年前に、ネタニヤフ首相本人が、イスラエル人気のお笑い番組エレツ・ネエデレットに、ネタニヤフ首相のものまね芸人と並んで出演したときのことを記事にした。

その番組の中で、ネタニヤフ首相ものまね芸人が、本物ネタニヤフ首相に、「ベン・グリオン首相は、イスラエル建国で記憶され、ベギン首相は、エジプトとの歴史的な和平条約を実現と記憶されている。ネタニヤフ首相は、どのように人々に記憶されると思うか」と聞いた。

芸人が、すかさず、「平らなプリッツェルがイスラエルに出回ったこと!」とボケを入れたが、その後、ネタニヤフ首相本人は、「イスラエルの治安を守った。」と答えた。

確かに、ネタニヤフ首相の指導下、過去10年、毎年経済が成長して、失業率も低下し、イスラエルは止まることなく繁栄を続けた。イスラエル独自のイノベーションで世界に貢献し、それによって、湾岸諸国を含む世界諸国との関係改善にも成功している。

しかし、パレスチナ問題や、イラン問題など大きな防衛問題については、歴史に残るような大きな動きには出なかった。それがよかったかどうかは別として、この13年の戦死者数や、テロによる犠牲者数は、記録的に低下した。

これは筆者の感想だが、ネタニヤフ首相は、ビジネスあがりであるせいか、誇りやプライドではなく、実質、どこにイスラエルにとっての益があるのかにこだわっていたように思う。そのため、状況に応じて政策をころころ変える傾向にあった。いったん強気に発言しても、後に実行しないことが多い首相であった。

これを悪くとることもできるが、実際のところ、口で言うほど大きな政策や、戦闘に出なかったことは、逆に幸いであったといえるかもしれない。

www.timesofisrael.com/netanyahus-israel-divided-over-the-legacy-of-its-longest-serving-pm/

たとえば、昨今、ガザからの攻撃が続いてはいるが、それに対して、大きな武力を行使してこなかった。南部住民からの不満は噴出しているが、実際のところ、あえて大きな軍事衝突を避けたことで、国としての人的物的損害は最小限におさえられたといえる。

また、ネタニヤフ首相の13年で、もう一点をあげるとすれば、故アリエル・シャロン氏首相の時代に、最大右派政党リクードが、いったん弱小政党にまで落ち込んだが、それを元の右派政党代表の座に戻した点である。

たとえば、新党ブルーアンドホワイト(中道左派)では、ガンツ元参謀総長が党首であるからこそ、成り立っている。しかし、リクードは、いまや、”右派政党”としての地位を取り戻しており、だれが党首になったとしても、有権者は右派政党としての認識で、リクードに票を投じるようになったと言われている。

www.haaretz.com/israel-news/.premium-netanyahu-surpasses-ben-gurion-as-longest-serving-israeli-pm-but-what-s-his-legacy-1.7537760

とはいえ・・・様々な成果は、これまでの首相がとってきた政策の刈り取りをしているだけだという見方もあるし、13年も首相でいられたのは、副首相を立てず、リクード内部に出てくるライバルを抑えて、独裁的な政治運営をしてきたからだとの指摘もある。

また、ネタニヤフ首相自身が、今直面している汚職問題も深刻である。多くのイスラエル市民の話を聞くと、ネタニヤフ政権について、あまり好意的な評価は出てこないというのが現状である。9月の再総選挙で、ネタニヤフ首相の評価が再度問われるところである。

<石のひとりごと>

イスラエルの記事を追い始めて約20年、ネタニヤフ首相、バラク首相、シャロン首相、オルメルト首相、再びネタニヤフ首相を追いかけてきた。これらの中で、筆者が、第三者の目で見ても、特に「イスラエルを守る」という、すさまじい執念を感じたのは、シャロン首相と、ネタニヤフ首相であった。

シャロン首相は、軍人上がり。まさに有言実行。神出鬼没の政治手腕で、パレスチナ側からも恐れられていた。

シャロン首相は、2000年代初頭に第二インティファーダ、国内のテロで、市民1000人近くの犠牲者を経験し、今問題の、分離壁の建設を実行した。2005年にはガザからのイスラエル完全撤退も遂行した。

このガザからの撤退がよかったのか悪かったのかは、いまだに論議が続いているところではあるが、シャロン首相としては、イスラエルを守ることに命をかけているという気迫を証明したような出来事であった。

一方、ネタニヤフ首相はビジネスあがり。これまでの治世13年間に、シャロン首相の時のような大胆な政策はなかったが、したたかにイスラエルを守り抜くという点においては、シャロン首相とはまた違う執念を感じさせられた。

今年9月に再総選挙になるが、再びネタニヤフ首相になるのか、別の人物になるのか・・いずれにしても、イスラエルを守ることへの執念のある人物になるようにと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。