新型コロナ危機:エルサレムの課題 2020.4.14

エルサレム旧市街 出展:KRM

エルサレムは、人口93万人。ユダヤ人64%(このうち22%は世俗派)、アラブ人(イスラム)34%と、クリスチャン2%と、非常に多様な宗教を抱える国際都市である。コロナ危機でも独特の問題に直面している。

超正統派地域封鎖:警察との衝突

エルサレムは、国全体の感染者が最も多く発生している。しかし、ユダヤ系住民のうち世俗派を中心とする一般の住民たちはおおむね政府の方針にそっているので、感染者数もおさえられ、大きな問題にはなっていない。

問題はユダヤ教超正統派地域で、エルサレムの感染者1800人のうち75%は、超正統派の人々である。当然、病院で治療を受けているのもこの人々の割合が高い。このため、12日午後から、この地域への封鎖がはじまっている。

封鎖地域周辺には、100箇所の検問所が設けられ、治安部隊が、人の出入りを監視している。エルサレムを分割するような動きは、1967年の六日戦争以降だという。

封鎖地域にいる大部分の住民は、当局の指示に従っているようだが、懸念されていたとおり、やはり、封鎖に反発するデモが発生した。数十人の超正統派たちが警官らに反発し、警察がスタンガンを使う場面もあったようである。

巡回して回る警察官らに、通りに面するアパートの上から、「ナチス!」などと非難する者もいた。

www.timesofisrael.com/police-disperse-violent-protesters-in-jerusalem-ultra-orthodox-neighborhood/

*ユダヤ教過激右派ヒルトップ・ユース:荒野で隔離

この他にも、死海に続くユダの山(西岸地区)ミツォケ・ドラゴットでは、13日、西岸地区入植地に拠点を置く、ユダヤ教過激右派のヒルトップ・ユース20人ほどが、パレスチナ人の車2台に投石し、パレスチナ人3人が脱出した後、車に火炎瓶を投げつけて、炎上させたとの通報があった。パレスチナ人たちは無事とのこと。

この20人ほどのユダヤ人過激派、ヒルトップ・ユースは、仲間の1人が新型コロナ陽性となり、いったん全員が、エルサレムのホテルに移送されたが、個室に入ることを拒否した。このため、全員、死海に近いユダの荒野、ミツォケ・ドラゴッドのキャンプ場に移送されていた。

ヒルトップユースたちは、このキャンプ場に来るバスの中で、「シンベト(国内諜報機関)に連れて行かれる」と叫び出し、車内で大暴れして、窓を全部破壊するなどの行為に出たという。通常でも過激な行動にでるこの若い青年たちも、前代未聞の危機で、おかしくなっているようである。

www.timesofisrael.com/police-probe-firebombing-of-palestinian-cars-near-quarantine-outpost/

医療崩壊寸前の東エルサレム

東エルサレムのパレスチナ人(約15万人)の多くは、イスラエルの国籍がなく、「エルサレム住民」というステータスしかもっていない。パレスチナ自治区の住民でもなく、中途半端な状態である。こうなると医療保険がないために、西エルサレムの病院で医療を受けることができない。

東エルサレムの住民は、かつて19世紀後半にイギリス人宣教師たちが始めた、オリーブ山にある総合病院オーガスタ・ビクトリア(支払いはパレスチナ自治政府)を受診する。西岸地区やガザ地区の患者が、イスラエルの特別な許可を受けて、この病院で治療を受けることもある。

アルジャジーラが報告したところによると、東エルサレムで、新型コロナ用に使える病床は、オーガスタ・ビクトリアと、周辺の小さな2病院も含めて72床しかない。人工呼吸器は20台。この地域で爆発感染が発生したら、人工呼吸器は、300−400台が必要になり、容易に医療崩壊に陥ると警告されている。

また、コロナの検査が十分に行われていないことも指摘されている。これは東エルサレムに限らず、イスラエル国内でもアラブ系住民は、あまり検査をうけていないことが指摘されている。

アラブ系住民の文化背景から、万が一陽性になるのを避けるなどの理由も指摘されているが、これまでの感染者57人というのは、どう考えても低すぎる。

東エルサレムにいたっては17人だという。こうした事態を受けて、東エルサレムの81のNGOが協力して、”エルサレム同盟”を結成。自ら、コロナ対策に乗り出している。

この同盟のボランティアたちは2件のホテルと確保し、自宅隔離を余儀なくされた患者を収容するようにした。アラブ人の家では、大勢が一緒に住んでいるので、容易に家族に感染が写ってしまう。

イスラム教徒は、来週から、最大の例祭ラマダンを迎える。家族が集まる時期でもあるので、どこまで隔離が守れるか。大きな懸念となっている。

www.aljazeera.com/news/2020/04/east-jerusalem-worries-healthcare-collapse-coronavirus-200405125941446.html

イスラエルの保健省は、東エルサレムのパレスチナ人15万人全員のコロナ検査を行うことを決めた。14日、パレスチナ人地域のシュアハット、カフル・アカブ、シロアムの3箇所に検査場を設立された。まもなく検査が始まる。

www.jpost.com/israel-news/health-ministry-to-test-150000-palestinians-in-east-jerusalem-624565

暗い将来の見通し

エルサレムは、全国で最も貧しい町だが、同時に観光に依存する町でもある。コロナ危機が観光業に及ぼす影響は致命的だが、これは、今だけでなく、将来にわたって続くとみられる。世界中の経済が破綻しているので、人々はもはや、旅行どころではなくなるからである。

エルサレムは今後、非常に難しい時代を迎えると懸念されている。

石のひとりごと:静寂のエルサレム

今、エルサレムは、どう感じているのだろうか。以下のクリップは、KRMニュースがまとめた今のエルサレムの様子である。なんともいえない静寂。。。いつもは賑やかな通りや旧市街の道ががらがらで、見ているだけで涙が出る。

しかし、同時になんとも聖なる静けさも感じるような気もしている。「ダイ・マスピック(もう十分)。やめよ。」との主の声が聞こえるような気がする。喧嘩ばかりしているエルサレムの住民たちに、主が、リセットされたようでもある。

そのリセットは、私たち自身にも向けられているのかもしれない。

・・・あなたは、よく忍耐して、わたしの名のために耐え忍び、疲れたことがなかった。しかし、あなたには非難すべきことがある。あなたが初めの愛から離れてしまった。それであなたは、どこから落ちたかを思い出し、悔い改めて、初めの行いをしなさい。

もしそうでなく、悔い改めることをしないならば、わたしは、あなたのところに行って、あなたの燭台をその置かれた所からとりはずしてしまおう。しかし、あなたにはこのことがある。あなたはニコライ派の人々の行いを憎んでいる。わたしもそれを憎んでいる。

耳のある者は御霊が諸教会に言われることを聞きなさい。勝利を得る者に、わたしは神のパラダイスにあるいのちの木の実を食べさせよう。(黙示録1:3−7)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。