イスラエル存続の黒子たち 2013.2.15

<闇に葬られたモサド・エージェント>

ここ数日イスラエルでは、最も堅固で厳しいといわれるアヤロン刑務所(テルアビブ近郊)で2010年に自殺した”受刑者X”に関するニュースでもちきりである。

Xに関する情報は、国家の治安に関わる重大事項として、イスラエルの最高裁が、報道禁止令を出していたほどの超トップシークレットだった。

そのため、自殺はもとより、その存在まで全く暗闇に葬られた状態だったのだが、今週、Xの出身国であるオーストラリアのメディアが、独自であばいた形である。

情報が流れた12日、イスラエルの最高裁は、そういう受刑者がアヤロン刑務所にいて、2010年に自殺したというところまでは認めたが、それ以上の情報は公開していない。

イスラエルのXの扱いは、人権保護の視点で言えば、明らかに違反となるが、イスラエル政府は「国家の安全を守るためだった」と正当を主張している。なお、ベン・ジギエルにはイスラエル人の妻と幼い子供が2人が残されている。

<知りすぎた男?>

これまでの調べで、受刑者Xは、ベン・アロン(ジギエル)(享年34)。オーストラリア出身のユダヤ人で1994年にイスラエルへ移住。イスラエル軍に従軍後、イスラエル諜報機関モサドのエージェントになっていたということがわかった。

オーストラリアでは、毎年合法的に本名を変更できるため、いろいろな名前で複数のパスポートを作ることができる。また、オーストラリアはいわゆる地球の反対側で大きな犯罪もなく、クリーンなイメージの国。オーストラリア人になりすませば、ユダヤ人でもイランを含むアラブ諸国でもスパイ活動がしやすいということである。

ベン・ジギエルもイスラエルのパスポートと同時にオーストラリアの4つのパスポートを持ち、シリア、イラン、レバノンで諜報活動を行っていた可能性がある。

上記パスポート偽造など、モサドの活動を暴くような情報を漏らそうとしてからではないかと言われているが、本人が死亡しているため、それ以上を知ることはできない。

<イスラエル存続の黒子たち>

モサドなど諜報機関のエージェントたちは、家族をおいて戸籍も全部消して、活動する。そのため、死んでもだれにもわからないままとなる。実は今回のようなケースもめずらしくないという。参照:映画「ミュンヘン」(2005年スピルバーグ作品)

今現在も、内戦が激化をたどるシリアでは化学兵器を監視するイスラエルのスパイが、戦禍の中で活動している。イランでは核開発を錯乱・破壊工作など。また中核の科学者が死亡したが、イスラエルのしわざではないかと言われている。

レバノンでもヒズボラの動きを監視して、本国に情報を流す他、武器保管庫などが原因不明に爆発しているが、これもイスラエルではないかと言われている。

イスラエルがアラブ諸国のただ中で今も存続している影には多くのエージェントたちが、文字通りすべてをすてて、自らの手を汚しつつ仕事をしているという事を知る必要がある。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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