イランのトップ核・科学者暗殺:イランはイスラエルを非難 2020.11.28

暗殺現場 Sky news スクリーンショット
モフセン・ファクリザーダ博士
出展:ウィキペディア

27日午後、テヘラン近郊で、イランの核兵器開発のトップ科学者モフセン・ファクリザーダ博士が暗殺された。トランプ政権終焉を目前に、アメリカ、イスラエルの計画であったとみられている。詳細と、今後の予想される影響については以下の通り。

緊張していた最近の対イラン情勢

トランプ大統領の任期が2ヶ月を切ろうとしている。その前にできるだけの既成事実を作ろうとするかのごとくに、ポンペオ米国務長官とネタニヤフ首相が、水面下でいろいろなことを急ピッチですすめていることはお伝えしている通りである。

しかし、様々な懸念事項の中で、トランプ政権とイスラエルにとって、最も懸念されることは、バイデン氏が、国際協調路線を強調して、トランプ大統領が離脱したイランとの合意に戻る可能性を示唆している点である。

アメリカが、2015年のイランとの核合意から離脱して以来、イランの方でも、すでに合意からはかなり逸脱した核開発をすすめてしまっている。実際にはもはや後戻りできないほどに、危険な状況にあるということは、IAEA(国際原子力機構)も警告しているところであった。

この状況下で、アメリカの次期バイデン政権が合意に戻るとか、掲載制裁を緩めるという事態になれば、イランの核開発は、いよいよ進んでしまう可能性がある。こうなると、もはや恐れるべきものが何もないトランプ大統領に残された可能性は、武力行使である。

先週、トランプ大統領が、イランの核関連施設を軍事攻撃するとの情報が流れ、イスラエルでもそれに備えるとのニュースも出始めていた。

www.haaretz.com/us-news/.premium.HIGHLIGHT-will-netanyahu-strike-iran-unlikely-but-trump-might-1.9306794

一方、イスラエルも、シリア領内のイラン関係地点への、短時間に攻撃して去る、ヒットアンドラン攻撃を、今週だけで3回実施している。これらの攻撃で親イランの兵力19人が死亡したと伝えられている。こちらでもイランの敵意を買っているところであった。

モフセン・ファクリザーダ博士暗殺とその経過

こうした中、27日午後、テヘラン郊外で、イランの防衛にかかわる研究、開発のトップで、核開発にも関係するとみられるモフセン・ファクリザーダ博士(59)が、銃撃により暗殺された。

イランのメディアによると、木を搭載した古いトラックが爆発し、近くを通っていたファクリザーダ博士の乗った車が止まったところで、銃撃者5人が、銃撃を浴びせたとのこと。車は銃撃で穴だらけになり、流れ出た血の写真がメディアに流されている。

この攻撃で、護衛とみられる3人は、その場で死亡。ファクリザーダ博士は、重傷を負って病院に搬送されたが、まもなく死亡した。

ファクリザーダ博士は、2000年代初頭より、核兵器開発に関わるトップ科学者で、かつイラン革命軍の高官であり、「イラン爆弾の父」とも呼ばれて、注視されてきた人物だった。

イスラエルのカン・ニュースが、無名のイスラエル高官のコメントとして伝えたところによると、「ファクリザーダなしでは、イランが核兵器開発を進めることは難しい。」との見方を語っている。

www.timesofisrael.com/israel-behind-hit-on-architect-of-iranian-nuclear-weapons-program-ny-times/

アメリカとイランの関係に決定打か

この暗殺にどの程度アメリカが関わっていたかは不明。しかし、ポンペオ国務長官は、イランの核開発の3大要素は、①それを受け入れるキャパシティ(体制・施設) ②頭のいい人(科学者)、③お金だと言っていた。

③については、すでに経済制裁をすでにぎりぎりまで発動している。今回、トランプ大統領は軍事行為をあきらめ、①を破壊する代わりに、②にあたる今回の暗殺に切り替えたのではないかとも言われている。

2010年以降、イスラエルとアメリカが関係したとみられるイランの科学者暗殺は、8回に上っているという。しかし、今回のファクリザーダ博士の暗殺は、これまでで最も重要な人物の暗殺になったとみられている。

加えて今年、1月、アメリカはイラン革命軍のスレイマニ総司令官を暗殺。8月には、イスラエルが、テヘランで、アルカイダNO2を暗殺したとみられている(イランは否定)。

いまや、イランとアメリカの対立は決定的になったとも考えられ、バイデン氏がこれを覆して、イランとの核合意に戻るといっても、イランの方で、お断りというかもしれない。ホワイトハウスを出て行く前に、トランプ大統領が、アメリカの対イラン政策を、強力に方向付けたとも言われている。

*イスラエルが注目していたファクリザーダ博士

イスラエルは、ファクリザーダ博士を、2000年代から、イランの核科学者として長年追跡していたとみられている。イランは2015年の核合意に至った時、「アマッド」、「ホープ」という核プログラムを進めていたという。

IAEAは、イランが「アマッド」を2000年大初頭に停止したと言っていた。2015年にイランと世界諸国との核合意が成立したが、2018年、ネタニヤフ首相は。ファクリザーダ博士がまだ開発を続けていると摘発していたのであった。

ファフリザータ博士に関する報告をするネタニヤフ首相(2018)スクリーンショット

しかし、イスラエルは、ファクリザーダ博士を暗殺せず、その動きを追う方策をとってきたのであった。したがって、今回の暗殺は、イスラエルの単独行動ではなく、アメリカとの合意で行われたものとみるほうが自然であろう。

www.timesofisrael.com/bombs-bullets-killers-on-motorbikes-irans-string-of-slain-nuclear-scientists/

イランの反応

一方、イラン革命軍のホセイン・サラミ長官は、ツイッターで、「核科学者の暗殺は、近代科学への道を閉ざそうとする、暴力的な敵対行為だ」と述べた。

イランのイスラム・最高指導者ハメネイ師の軍事顧問ホセイン・デーガム将軍は、この暗殺をイスラエルによるものと断定。必ず復習すると言っている。このほか、ザリフ外相はじめ、複数のイラン高官らもこれをイスラエルによるものとみている。

きわめて緊張した状態だが、イスラエルからのコメントはなし。チャンネル12が伝えたところによると、北部国境に軍を増強する様子もないとのこと。

www.nytimes.com/2020/11/27/world/middleeast/iran-nuclear-scientist-killed.html?action=click&module=Top%20Stories&pgtype=Homepage

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。