S300地対空ミサイル、シリアへ到着か 2013.5.30

シリア情勢の流れを大きく変えると予想されるロシアのS300地対空ミサイル。アサド大統領本人によると、S300の第一便がすでにシリア入りしたもようである。まもなく残りも届くと言っている。

*S300は、システムであるため、複数のパーツがあってはじめて稼働可能となる。

イスラエルのヤアロン国防相は数日前に、「S300がシリアに入ったらどうするかわかっている。」と攻撃を示唆する発言をしていたため、イスラエルの反応が注目されている。

<強気を崩さないアサド大統領>

アサド大統領は、これまでの主張通り、2014年の任期切れまでは退陣の気はないこと、また2014年の選挙で、国民の支持があれば、続投すると語った。

アサド大統領の自信の背後には、ロシア、イランの他に、地上軍としてのヒズボラの貢献が大きい。先日、ヒズボラがアサド政権を最後まで支援すると宣言したが、BBCによると、すでに7000人の戦闘員がシリア入りして戦っているもようである。

アメリカのオバマ大統領は、ヒズボラに対し、シリアから退却するよう呼びかけている。

<手も足も出ない!?西側国際社会>

EUがシリアへの武器支援制限を緩和したとはいえ、それが実行力をもつのは8月1日以降である。さらに、どのEU諸国も今のところ、具体的な武器支援の計画はでていない。

国際社会は、外交で戦争を停止させることを目標に、アサド政権、反政府勢力双方を招いて戦闘停止と政権移行についての話し合いをするジュネーブでの国際会議を、6月に開催する方向で働きかけている。

アサド政権は会議に出席する意向を示しているが、反政府勢力は、アサド大統領の退陣を出席の条件にしている。アサド大統領に退陣の意志がないなら、会議の実現すら危ぶまれるとことろである。

いずれにしても誰を反政府勢力代表にするかが、すでに問題である。

<これからどうなるのか:INSS(国家防衛研究所(イスラエル)>

INSSシニア研究員で、元外交官のオデッド・エラン博士は、ゴール地点は、穏健派の反政府勢力がきちんと政権を引き継いでくれることだが、内戦が2年を経過し、もはやその可能性に期待できる時期をすぎたようだと語った。

また、軍事介入なしに解決しようとするジュネーブでの国際会議は、アイディアとしてはよいが、戦闘が真っ盛りの現時点では、まだ時期尚早だと分析する。

ではこれからどうなるのか。様々なシナリオが考えられるが、それ以外にも起こる可能性があり、予測不能だという。

*暗黙の了解が崩れる!? 現在の微妙な均衡状態

同じくINSSでイスラム勢力の専門のヨラム・シュバイツェル博士は、昨日の時点では、シリア内戦にかかわっているすべてのグループ、最も過激なグループさえもが、暗黙に超えてはならない一線-つまりは紛争をシリアの外へ広がらせないという点-を知っていて、それは守っているようだと分析していた。

S300がシリアに入り、イスラエルがどう動くかでも状況は大きくかわってくるかもしれない。しかし、実際には、大きなミサイルより、小さなロケット弾等で、予想もしなかったような破れが生じ、大きな戦争へと発展することが一番懸念されるという。

1.ヒズボラからの破れ

シュバイツェル教授が今、注目しているのはヒズボラのシリア支援が、どこまでもつかという点である。ヒズボラは現在、レバノン保護、イスラエルとの闘争という基本理念をおいて、イランとともにシリアで戦う道を選んでいる。いわば他国に介入した占領勢力の形である。

それが、過激なスンニ派反政府勢力の反シーア派思想(ヒズボラはシーア派)に火をそそいでいる。さらに、スンニ派を国内に抱えるレバノンや、湾岸アラブ諸国の反感も買っている。

もし、ヒズボラの側に多大な損害が出始めた場合、まずはレバノン国内で反乱が起きる。そうなると、イスラエルにロケット弾が飛んでくるなど飛び火してくる可能性がある。

なお、現時点では、ヒズボラはイスラエルと戦争をする余裕がないので、イスラエルとの関わりは避けている様子とのこと。

*ヒズボラがシリアを支援する理由

ヒズボラがなぜそこまで戦うのかといえば、シリアへの忠誠心ではない。シリアを失えば、ヒズボラはイランとのアクセスを失うことになる。またシリアを失えばイランは地中海へのアクセスを失う。イランがヒズボラを介入させているとの見方もある。

2.ヨルダンからの破れ

また問題はヨルダンがいつまで持つかという点。ヨルダンはパレスチナ難民、イラク難民、そして50万のシリア難民を受け入れたため、国内に100万人の難民を抱えることになった。そのため、もはやパレスチナ人が最大勢力ではなくなってきた。ヨルダン王室は今、非常に不安定な状態である。

3.サラフィストからの破れ

*サラフィストとは

最近よく聞くようになった「サラフィスト」という名称。これは、イスラム原理主義の、そのまた原理主義とも言えるグループで、武力によって”モハンマドの黄金の時代”に世界をもどそうとする思想をもつ。超が3つぐらいつくスンニ派のイスラム過激派である。

サラフィストたちは、グローバル・ジハーディスト(国際聖戦主義)を形成し、世界中でテロをおこそうとする。アルカイダの故オサマ・ビン・ラディンもサラフィストである。彼らはもともとムスリム同胞団から出たのだが、柔軟姿勢のムスリム同胞団は、世俗扱いするほどの過激イスラムである。

シュバイツァー博士によると、サラフィストらの行動はまったく予測不可能で、何をするかわからないという。これらが、シリアで台頭しており、アサド政権が倒れた瞬間、イスラエルに矛先を向けるだろうと予測されている。イスラエルだけでなく、アメリカ、ヨーロッパにも危機は広がっていくと予想されている。

ではアサド大統領が残留したほうがイスラエルには良いのかとの質問に対し、元外交官でINSSのオデッド・エラン博士は、「シリアの内戦がここまで混乱してしまった以上、アサド政権が残ってもサラフィストたちを押さえる力はもはやない。イスラエルにとってはだれが、シリアの政権をとったとしても、危険が緩和されることはない。」と答えた。

文字通り八方ふさがりである。ますます、破れ口に立つ祈りの戦士が必要になっている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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