21日午前2時(日本時間午前8時)イスラエルとハマスが停戦開始 2021.5.21

イスラエル側から見たガザとの国境

11日間の戦いの停戦

戦闘が始まってから10日目の20日(木)夜、エジプトとアメリカの仲介を経て、ハマスがエジプトの停戦案に応じる様子を見せ、イスラエルの治安閣議も停戦で満場一致となり、停戦することで合意することとなった。

停戦は、戦闘が始まってから11日目の21日(金)午前2時(日本時間朝8時)に開始となった。以後、双方ともに武力の行使はみられていない。これを受けて、イスラエルでは夕方までには、シェルターで過ごすなどの住民への有事の際の指示は解除される見通しとなった。

11日間の戦闘の結果、ガザでの死者は、子供60人を含む230人(ガザ側データ)が死亡。しかし、市民の死者のうち20人は、イスラエルに到達せずガザ内部に着弾したロケット弾で死亡したとイスラエル軍はみている。

しかし、ガザで家を失った人は数千人にのぼるとみられる。停戦後、イスラエルは、ガザへの人道支援物資の搬送を再開したとのこと。

イスラエルでは、外国人3人と、子供2人(5歳、16歳)を含むイスラエル人9人(うちアラブ人2人、ユダヤ人7人)が死亡した。負傷者は335人。被害を受けた家屋については、政府がすべて保証することになっている。

なお、日本では、“イスラエルが無条件の停戦に応じた”と報じられているが、正確には“Mutual(双方)の無条件で”となっている。

これが意味することは、双方ともに、物理的には、とりあえずは、戦闘が始まる前と同じ状況に戻るということである。

*停戦直前の奇跡と犠牲

停戦に合意する直前の20日朝、ハマスは、イスラエル南部にロケット弾を発射。イスラエル領内に、誘導対戦車砲を撃ち込み、イスラエルの軍用バスを直撃して、運転手1人が負傷した。突然の攻撃で、サイレンはなかったとのこと。

この攻撃を受けたバスは、任務を終えて基地に戻る空挺部隊の超エリート兵士たち10人が乗っていたバスであった。攻撃は、兵士たちを基地内でおろして、基地を出たところを攻撃されていた。運転手が軽症を負ったが、10人の空挺部隊隊員は全員無事であった。もし、この兵士たちに負傷者や死者が出ていれば、今頃、停戦はなかったであろう。

www.timesofisrael.com/hamas-anti-tank-missile-hits-idf-bus-moments-after-10-soldiers-alight/

また、停戦合意が至った後、南部へのロケット弾攻撃があり、イスラエル人1人が負傷した。これを受けて、イスラエルもガザへの攻撃を実施。ガザでは2人が死亡したと伝えられている。静けさはこの後におとづれたということである。

エジプトがテルアビブとガザに停戦監視団を派遣へ

エジプトのシーシ大統領
Wikipedia

エジプトは、停戦後、テルアビブとガザに停戦監視団を派遣することになっている。しかし、実際にはエジプトの諜報部は、停戦になる前から、双方に派遣されており、停戦を模索していたとのこと。

エジプトは、ガザ地区に隣接しており、その反対側のイスラエルとの紛争の際には、仲介者を勤めてきた。また、ハマスがガザの主権をとった2007年以降、イスラエルが国境を厳しく閉鎖すると、ガザの人々にとってのの主な玄関口は、エジプト側のラファ検問所であった。とはいえ、エジプトがハマスを暖かく支援していたわけではない。

ガザのハマスは、エジプトのムスリム兄弟団関連で、現シーシ政権の敵にあたる。また、ガザのその他の過激派はじめ、シナイ半島(エジプト領)でそれらを支援しているイスラム国との戦いにエジプト軍を出している立場にある。背後に見え隠れするイランもエジプトにとっては、シーア派であり、敵対する関係にある。

このため、今のエジプトのシーシ大統領は、国民の間でイスラエルは敵国と認識される中、水面下では、イスラエルと連絡を取り合い、地域の治安維持につとめてきたのであった。また、エジプトは、ガザ地区に5億ドルの支援を行うと発表している。

今回、エジプトが、積極的にハマスとイスラエルの仲介に立っていることについて、多くの海外メディアは、エジプトが中東社会に大きな足掛かりを掴もうとしているとの分析している。エジプトは、UAEとバーレーンがイスラエルと友好関係を進める中、取り残された状態にあったからである。

しかし、ハマスの主な支援者は、カタールとその背後にいるイランであった。イスラエルとしては、カタールが出てくるよりもエジプトが出てくる方が好ましいかもしれない。しかし、今後カタールやイランがどう出てくるのにも注目しなければならないだろう。

www.timesofisrael.com/egypt-seeking-to-use-gaza-ceasefire-mediation-to-bolster-regional-role/

ハマスは勝利宣言:イスラエルは失望の意見も

停戦に応じたハマスもイスラエルも、どちらもが、今、この戦闘には意味があったのであり、勝利したのはこちら側だと主張している。

1)エルサレム問題でイスラエルが譲歩したとしてハマスが勝利宣言

停戦が成立すると、ガザでは興奮したハマスが、「アラー・アクバル」といいながら勝利の宣言をした。以下は、電気がない中で、祝いの行進をしているガザの人々

エルサレムの神殿の丘でもパレスチナ人たちが、群衆となって推しよせ、イスラエルの治安部隊に向かって叫ぶなどしながら、勝利を喜ぶ様子が伝えられている。

ハマスが祝っているのは、イスラエルが暗殺を2回以上試みた、ハマス軍事部カッサム部隊総司令のモハンマド・デイフが健在であるということ。

エルサレム問題で、イスラエルに勝ったと言っている。ただし、これについてイスラエルは、新たな合意はないと言っている。

また、圧倒的に強い軍をもつイスラエルと堂々と戦い、無条件の停戦に至るまで持ちこたえたという点。さらには、イスラエルの迎撃ミサイルが完璧でなく、イスラエル人に被害を及ぼすこともできた。さらには、パレスチナ人を支持する人々は、イスラエル国内のアラブ人、西岸地区、中東各国から世界諸国にまで広がった。

ガザ内部の住民は家族を失い、家を失い、途方もない被害を受けてはいるが、おそらくは、世界からはこれまで以上の支援があるのかもしれない。ハマスが祝いたいことは多数ありそうである。

www.nytimes.com/2021/05/20/world/middleeast/hamas-supporters-declare-victory-in-a-gaza-city-celebration.html

2)ガザで破壊するべきものはすべて破壊したとイスラエル:右派は不満

一方、イスラエルが停戦に、治安閣議が満場一致で応じたのは、ガザで破壊するべきものはすべて破壊したとの判断からである。イスラエル軍によると、今回、ガザ内部にはりめぐらされていた地下トンネル、別名メトロ(地下鉄)100キロ以上を破壊。

ハマスとイスラム聖戦幹部25人を含むメンバー120人を暗殺したという。ロケット弾の発射地も数百箇所を破壊し、ハマスとイスラム聖戦の武力に、非常に深刻なダメージを与えたと判断している。

破壊した高層ビルは9棟。アルジャジーラとAPなど海外メディアが含まれていたビルも含んでいたが、これにより、ハマスの政治事務所10箇所、内務省11箇所が機能不全となった。さらには、銀行5行を破壊したので、資金の流入も難しくなる。

ガザから発射されたロケット弾は4300発で、かなり使い尽くしたとみてもよいだろう。このうち450発(7発に1発程度)は、ガザ内部へ着弾していたとのこと。

ハマスやイランはイスラエルの防空に弱点があると指摘したが、アイアンドームは、対象となる危険なものの90%は撃墜していたとのこと。しかし、イスラエルのことなので、この点には新たな改善が施されると思う。

ただし、イスラエル側では、無条件の停戦について、右派政治家を中心に不満が噴出している。ハマスに武力再建をさせないとの約束をさせていない上、ガザに人質となっているイスラエル人と2人のイスラエル兵の遺体返還の約束もとれていないからである。

結局のところ、10日になる戦闘で、国民は疲弊しているし、ハマスを完全に排除してしまうと、後片付けに入るのはイスラエルになる。とりあえず、ハマスが武力を回復するためにはしばらく時間もかかるのであり、次の戦闘まで5年もあれば、よしとしようとの声もある。

また、アメリカの圧力が大きかったとのかもしれない。

これまでの動きからすると、ネタニヤフ首相は、ともかくも、国民の安全と被害を最小限にするということを最優先にしているように見受ける。この戦闘でイスラエルが受けた経済的な被害はかなり大きいとみ言われている。

これらのことから、ネタニヤフ首相が、たとえ、短期間であったとしても、とりあえず停戦と考えたのかもしれない。

www.timesofisrael.com/israel-and-hamas-agree-on-gaza-ceasefire-to-end-11-days-of-fighting/

石のひとりごと

リック・ライディングさんが、NOT NOWの祈りを呼びかけていたが、今回も大きな中東戦争にならず、停戦となった。終末の中東大戦争になるまでまだ何度か、こういう緊張と霊的な戦いを通るのだろうか。黙示録が言うように、「もはや時が延ばされるときはない。(黙示録10:6)」という時がくるまで、とりなしは続けなければならないだろう。

とはいえ、現地ではこれからが問題である。だれが、ガザをどう支援していくのか。カタールやイランの動きも懸念されるとことろである。ガザですべてを失った人たちがどうなるかも含めて注目していきたい。

また、これまでのところ、総じて、最も大きい勝利はハマスのような感じである。これが、国内で始まったアラブ人とユダヤ人の暴動で明らかになった、互いの不信感にどう反映していくのか。

また、海外では、反ユダヤ主義が急速に悪化していることに、この停戦がどう反応していくのかも気になるところである。海外にいるユダヤ人たちの安全とともに、イスラエルへの移住が進むようにとも思わされている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。