自治政府にもイスラエルにも怒るパレスチナ人たち:西岸地区ナブルスとバラータ難民キャンプ現地取材 2022.11.26

バラータ難民キャンプの少年たち

イスラエルでは、今年に入ってからだけで、国内、西岸地区でのテロや戦闘で、ユダヤ人市民・兵士27人が死亡。イスラエル軍との衝突で死亡したパレスチナ人は130人以上、逮捕者は2000人に上っている。この状況はエスカレートする一方にあり、解決の見通しはない。今、パレスチナ地域で何が起こっているのか。

エルサレムから西岸地区ナブルス(シェケム)まで

今月9日、エルサレムでの爆弾テロ事件の前、西岸地区ナブルスでパレスチナ自治政府高官と、隣接するバラータ難民キャンプのの指導者、最後に前イスラエル軍報道官の話を聞いた。この日はちょうど、前日にイスラエル軍との衝突で死亡したパレスチナ人少年マフディ・ハシャシさん(17)の葬儀が行われる日であった。

ナブルスは、聖書では、ゲリジム山とエバル山の間に位置するシェケムと呼ばれている町である。エルサレムを出て北上し、車で1時間ぐらい(49キロ)。途中、シロを通過して、やがて検問所を通過してパレスチナ自治政府管轄のA地区に入る。

A地区に入るまでは、車窓から、広い農場とこぎれいなユダヤ人入植地、それとは全く違うなんとも荒れた感じのパレスチナ人地域が、次々と、交互に現れる。現地を見ないかぎり、ここまで混在しているとは想像できないだろう。

A地区では、ナブルスと、さらに北に位置するジェニンの2都市が最もテロ活動がさかんな町である。最近では、イスラエル軍が毎日のように、踏み込み捜査を行い、パレスチナ人たちと衝突し、双方に死者が出ている。いわば、危険地域ということである。

しかし、通常は普通のパレスチナの都市である。人口は15―16万人で、旧市街と普通に店が並び、女性たちが、普通にショッピングし、家族連れや若者もいる。しかし、町にはイスラエルと戦って死亡した若者たちの写真が、ヒーローとして張り出されている。

ナブルスに隣接しているのが、バラータ難民キャンプ。住民は3万人以上で西岸地区最大の難民キャンプである。ナブルスとは全く違う様相で、貧しさが目に付く。人口の半分は20歳未満だという。ゲリジム山といえば、サマリア人だが、ナブルスやバラータにいるナブルシ家はじめ、多くはサマリア人からイスラムに改修した人々だとのことである。

ナブルスとバラータ難民キャンプの近くには、エロン・モレ、イタマルというユダヤ人入植地がある。いずれも、パレスチナ人のテロで亡くなった人を経験している。

ジャマル・ティラウィ氏(自治政府議員・ファタハ指導者):弱体化する自治政府・政治的解決がなければ衝突は避けられない

ナブルスで、パレスチナ自治政府議会の議員で、ファタハ指導者の一人、ジャマル・ティラウィ氏のオフィスを訪問した。ティラウィ氏は、自身もイスラエルの刑務所で1年をすごした強者だ。

そのティラウィ氏によると、今のパレスチナ人たちは、自分達の国がないまま、その可能性も全く見えてこないということに、特に若者たちが、希望を失っているという。

パレスチナ国家設立にむけたオスロ合意から30年近くが経過して、そのことを知らない若者たちが増えているのである。

若者たちが政治的な解決の不在にこだわり始めたことの背景には、ベネット政権、ラピード政権の間、政治的な問題は難しすぎるので、まずは、パレスチナ人の経済や生活の向上を図ろうとしたことが、反面に出た可能性がある。政治的解決を後回しにすることが、彼らの尊厳を傷つけたということである。

これについては、アメリカのバイデン大統領も同様であった。バイデン大統領は、今に至るまで、パレスチナ問題への解決案はいっさい提示していない。ティラウィ氏は、今、トランプ大統領は経済だけでなく、政治的な妥協案も提示していたという。それもすべて断ってきたのは失敗だったと考えているという。提示があれば、少なくともいったんは受け取って考えるべきだったが、すべて断ってきたので、今はもう解決案はなく、まったく壁にぶちあたった状況だと語った。

さらに悪いことに、近年では、パレスチナ自治警察は、治安を維持するため、イスラエルと協力する動きにある。西岸地区でユダヤ人を保護したり、武器密輸情報をイスラエルに伝えて暴挙を事前に防ぐなどである。これでは、いったいどちらの味方なのだというのが若者たちの心にあるという。

このため、今イスラエル軍が毎日のようにふみこんできて、パレスチナ人らが死亡したり、逮捕されることが、すべて、自治政府の権威を落とす結果になっているという。(ヒーローとして張り出される死者たち)

結局のところ、パレスチナ人に必要なのは、彼らを代弁する指導者だという。自治政府のアッバス議長はすでに87歳と高齢であることから、若者だけでなく、パレスチナ市民が望んでいるのは、きちんとした選挙で、信頼できる指導者が立つことなのだとティラウィ氏は語る。しかし、いかんせん、そういう指導者が不在というのが大問題で、それもまた若者に希望を失わせる結果になっている。

こうした状況の中、イスラエルで、極右も含む右派政権になりそうであることについて、もし新政権が、これまでにないような強硬な政策を打ち出した場合、自治政府は、イスラエルとの交渉を完全に遮断せざるをえなくなり、両者の激しい正面衝突は避けられないだろうと語る。

パレスチナ問題での最大の問題は、自治政府の存続がどこまで持つのかということである。イスラエルも国際社会も、とりあえずは、アッバス議長にふみとどまってもらいたいと考えているので、アッバス議長へのサポートが続いているのだが、それがまた、市民や若者には、うらぎりものとして見えてしまい、さらに自治政府の権威を落とすことになっている。

このため、西岸地区内部でのとりしまりを十分に行えなくなっているというのが現状である。そのため、今は西岸地区に密輸される武器はこれまで以上にやりやすくなり、その量も、武器のレベルも上がっているという。

結局、「すべてはイスラエルのせいだ。」「とにかくイスラエルが悪の根源」と強調し、若者たちの怒りが自治政府に向くことを抑えているということであった。いいかえれば、自治政府も必死でなんとか若者を抑えていると言うのが現状であり、もはや外からの介入がないと、我々だけでは解決できないのだとティラウィ氏は語った。

こうなると、イスラエル軍が自ら動かないといけないので、毎日のようにナブルスやジェニンなどに踏み込み操作を行うようになっているということである。しかし、西岸地区全部をカバーすることは当然不可能なので、総合的にみると、武器もテロ活動もどんどん増えているというのが現状である。解決の糸口がみえないまま、状況悪化はどんどんエスカレートしているということである。

モハンマド氏(元アルアクサ殉教団・ファタハ政治活動家)

ナブルスに隣接しているバラータ難民キャンプ。西岸地区で最大の難民キャンプである。キリスト正教会が保護するヤコブの井戸がある。その近くには、ヨセフの墓とされる遺跡もある。パレスチナ難民キャンプの中に、ユダヤ教徒にとって非常に重要な遺跡なので、宗教的なユダヤ人、いわば右派系が、この場所を頻繁におとづれて、衝突が起きやすい、非常に難しい地域である。

私たちが訪問した時は、イスラエル軍との衝突で死亡したマフディ・ハシャシさん(17)の葬儀の日だった。モハンマドさんによると、ユダヤ人たちは、ここで礼拝するために、ほぼ毎晩やってくるという。それでそれを守るイスラエル軍との衝突が発生する。それはもはや珍しいことではなくなっているという。

この日は、キャンプ全体がストで、学校も休みだという。しかし、こういうことは日常茶飯事なので、子供たちの勉強は明らかに二の次ということである。大人についてもバラータキャンプでは失業率は80%だという。

取材陣は、モハンマド氏(40代)の話を聞きながら、葬儀の参列を待った。場所はモスクのすぐ前で、小学生ぐらいから中高生、20代前半ぐらいの若者たちが多数うろついており、インタビューが始まると、にやにやしながら、少年たちがわらわらと集まってくる。かわいらしい、小学生低学年ぐらいの子も多い。ただし、女性や女児はまったくいない。

その時、コーランの響きの中、黒服で大きなライフルをかかえた男性たちの群れが通過していった。

モハンマド氏は、かつてアルアクサ殉教団の戦士で、同様に銃を持って戦っていたという。しかし、それだけではなんの結果も出ないので、今は政治的な活動家になった。バラータ・セルのリーダーとして活動している。パレスチナ自治政府に捕まったことがあるし、イスラエル軍に捕まったことがあるとのこと。今でも、イスラエルの指名手配になっているという。

モハンマド氏は、「アラファト議長はリーダーだった。彼亡き後、私たちには、だれも代弁してくれる指導者はいない。」と語る。イスラエルについては、「イスラエルは我々が平和に生活することを望んでいない。だから毎晩来る。人々を逮捕しに来る。しかし、ここは自治政府のエリアなのだから、自治政府の役割であるはずだ。」と語った。

ヨセフの墓について、ユダヤ人入植者たちは毎晩やってくるが、そこに葬られているのは、預言者ヨセフではなく、ヨセフ・ドゥビカットというパレスチナ人だ。(いろいろな不条理があるが)、それらが、私たちに指導者がいないということを表している。

イスラエルに右派政権が立ち上がることについて、「ネタニヤフ氏は、入植者を増やそうとしている。状況が悪化することは避けられない。」と語る。

この時、逆方向から銃声が響いた。内蔵全部が揺すぶられるような気がした。死者のために空中に銃を放っているのだが、その響きはまるで地震のように全身が揺すぶられる思いだった。若い男性と男児たちの一団が、銃声とともに、「アラー・アクバル」と叫びながら遺体をかついでやってくる。そのうち、何かを皆で叫んでいたが、何を言っていたかはわからない。

群衆は、イスラエル軍に殺されたマフディさんの遺体をその母にもとに搬送し、その後、モスクに戻ってくるという。さすがに銃声の大きな響きで、歩きながら、耳を塞ぐ子供たちもいた。子供たちは、ファタハの旗を持っていた。

モハンマド氏は、銃弾が響く中、「この異常事態は、イスラエルが望むことなのだ。私たちが望んでいることではない。イスラエルが私たちに銃を持たせているのだ。この人々は彼ら自身の権利を防衛しているということだ。ただ私たちには指導者がいないので、この混乱が続くしかないのだ。」と語った。

そうこう話している間にも通りは、葬列に参加しようとする若い男性や子供たちがどんどん集まってきた。その多くはタバコをふかしている。モスクからはずっと祈りの声が響いていた。集まってくる群衆でマスクをつけている人は皆無だ。私服の人と黒服でライフルを抱えた人、大勢の子供たちが混在していた。

その中で、また銃声と叫び声とともに、葬列がやってきて、目の前のモスクに遺体を担ぎあげていった。ニュースでしか見たことのない光景がすぐ目の前にあった。そのうち、銃声の音にもすぐに慣れてしまった。しかし、これが小学生たちの日常というのは、やはり異常事態としかいいようがない。

元イスラエル軍報道官ジョナサン・コーリカス氏:ゲリジム山(海抜900メートル)から

ゲリジム山の真下に、ナブルスとバラータ難民キャンプが広がっている。その向こうの山が、エバル山である。そこで元イスラエル軍報道官、コーリカス氏の話を聞いた。

コーリカス氏によると、今年に入ってからだけで、イスラエルでは、国内西岸両地域で26人がパレスチナ人のテロで死亡。365人が負傷した。これに対抗する作戦、“波を破る”が始まってから6ヶ月をすぎたという。

これまでに少なくとも2500人を逮捕し、300以上の武器を押収しているとのこと。イスラエルは今後もテロが続く限り、作戦を継続する。(コーリカス氏は含めなかったが、これらの衝突で130人以上のパレスチナ人が死亡したことは、各メディア共通の情報となっている)

特徴としては、パレスチナ自治政府の能力やテロを防ごうとするコミットが急落している点。このためか、ハマスなど既存のものの他、特にナブルスでは、市民の間からの草の根的な組織が噴き出している。ライオンズデンはその一つの例で、独自で頭角してきたグループ。イスラム聖戦から武器などの供与を受けているが、基本的には独立した立場にある。

こうしたグループの活動や戦士集めはソーシャルメディア(特にTIKTOK)でおこなっている。ライオンズデンについては、一応沈静化したと考えられているが、こうした動きが終わったわけではない。ジェニンでは、ライオンズデンに影響を受けた新たな組織が生まれている。

自治政府は、ライオンズデンのような動きを抑えようとはしていない。しているのは、これらの新組織をファタハ(自治政府の党)に引き入れて、自治政府から給与を払う形にすることで、大きな暴動にならないようにしようとしている。特にナブルスとジェニンで、この動きがみられている。

そのナブルスとジェニンでは、ハマスとイスラム聖戦の活動も、非常に活発になっている。特に注目されているのは、IED(即席の武器製造)能力で、そのレベルは高まりをみせている。爆弾や手榴弾など軍用の武器もみられる。それらは主にヨルダン方面からの密輸だが、この1年、1年半ほどの間に急増している。資金はハマスやイスラム聖戦が、網の目を通って送金できているとのこと。それらの組織は、西岸地区が不安定であることを望んでいるのだ。

ホットスポットであるヨセフの墓について、ユダヤ人の訪問は、イスラエル軍を通じて、自治政府と調整が取れた時にのみ可能となる。しかし、過去5回の訪問時、毎回、火炎瓶など小さい武器で攻撃された。その時に暴動も起きたので衝突が発生している。(死者も出た)

コーリカス氏によると、イスラエル軍は、現時点では大規模な対処には出ず、夜ごとの捜索でテロ活動を事前に抑止する作戦を行っている。しかし、もしこのままパレスチナ自治政府がなんの介入もせず、テロ活動がエスカレートした場合、イスラエル軍が大規模にナブルスやジェニンに投入される結果になる可能性も否定できないと言う。

こうした軍の大規模な投入は20年前の第二次インティファーダの時に行われたが、今、バラータキャンプで、反発を表明している若者たちは、イスラエル軍が本気で大規模に投入された、あの時代のことを知らないので、危険だと思うとのことであった。

コーリカス氏は、パレスチナ自治政府が、テロ活動を野放しにしていることが危険だと繰り返した。エスカレートが続く場合、残念ながら、イスラエルが大規模に踏み込まなければならなくなるだろうと語った。

石のひとりごと

イスラエルにとって、パレスチナ問題は、本当にささったままとれない大きな棘である。すぐ隣に、これほど希望なく荒んでイスラエル人を殺すことしか考えていない人々が、日々荒れた生活をいとなんでいることに、あらためて目が開かれる思いがした。

イスラエルを知るにあたり、パレスチナ人のことを知らないままでいるのは、イスラエルの半分しか知らないということではないかと実感させられた。

今回、自治政府役人、新しい若者のムーブメントの指導者、子供たち、そしてイスラエル軍のそれぞれの言い分を聞いたが、やはりどの人にもそれぞれの正義があり、それぞれに問題点があり、その落とし所はどこにも見えないというのが実感である。主はなぜイスラエルにこのような棘を置かれているのだろうか。

パウロに与えられていたとげを思い出す。パウロはそれが取り去られるよう3度祈ったと書かれている。しかし、そのとげが取り去れることはなく、主は次のように言われた。「私の恵みは、あなたに十分である。というのは、わたしの力は、弱さのうちに完全に現れるからである。」(第二コリント12:9)

これを受けてパウロは、このことにすら主の計画を見出している。それは、私が弱い時にこそ、主の力が現れるので、私は強いということである。しかし、口でいうことはたやすい。双方に死者が出る中、イスラエル政府、軍の指導者は、およそ解決不可能なこの問題を直視して、対処していかなければならないのである。

また同時に、イスラエルだけでなく、あのパレスチナの若者たちや子供たちのためにも心を割かなければと思わされた。ナブルスというと危険きわまりないイメージだが、町には、極普通の家族連れや、明るく笑い合う買い物姿の女性、子供2人をつれた家族、中高生とみえる若い少年たちと、普通の都市の光景があった。この都市が、ここから消え去ることはない。イスラエルは、この町を追い出してしまうことはできないだろう。

その中にあるバラータ難民キャンプのあの子供たちは、あの異常事態の中で、日々あの銃声を聞きながら成長している。イスラエルへの憎しみだけを植え付けられ、やがて自爆するものになってしまうかもしれない。その子供たちが、イスラエルのすぐ隣にいるのである。

しかし、妙な話だが、パレスチナの子供たちを導いているモハンマドさんは、いきいきしていたように思った。決して賞賛するものではないが、彼なりに自分の使命というものを明確にもっており、それにむかって日々を歩んでいるのである。そのモハンマドさんを子供たちは慕って周りに集まってくる。ともに戦う日々。。それは厳しいながらも、お一人さまで目標もなく生きている日本や世界の若者たちよりどこか幸せな点もあるのではないか。。。

ほんとうにどう祈る。。?双方に死者がでること、特にまだ救われていない、双方の若者たちが早すぎる死に追い込まれないように。このもはや人間の知恵ではどうしようもない問題に、どうか主があわれみをもってのぞんでくださり、エスカレートではなく、沈静化を与えてくださるように。。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。