緊張:コロナ危機からの脱出を探るイスラエル 2020.4.16

イスラエル在住アラブ人地域を訪問するイスラエル軍担当者 出展:イスラエル軍

新型コロナ、世界の感染者は200万人を超え、死者は、13万人を超えた。感染者100万人を超えるまでは83日であったが、そこから200万人を突破するまでは、わずか14日である。また、これまで欧米で、拡大していたパンデミックが、徐々にアフリカなど後進国でも拡大している。脅威は日々、深刻になっている。

しかし、欧米で徐々に感染拡大が落ち着き始めてきたことを受けて、アメリカのトランプ大統領は、経済活動の再開に向けた計画を発表するとのことだが、ここで間違ったら元の黙阿弥なので、国内からは慎重論が出ている。

イスラエル経済活動再開なるか:過去24時間で感染確認455人/計1万2501人・死者8人/計131人/呼吸器依存133人

イスラエルの感染者は、24時間で、感染者455人増えて計1万2501人、死者は8人増えて131人。呼吸器依存者は133人となった。まだ増加はしているものの、そのスピードは緩和しつつある。封鎖されていたブネイ・ブラックの規制もかなり緩和された。

www.n12.co.il

*イスラエルの成功例:ソーシャルディスタンスの徹底と、検査による早期発見と感染状況の分析、経済支援策

イスラエルは、早くから空港での超厳しい水際対策を開始するとともに、国内でも治安部隊を伴っての行動制限を実施してきた。早くからドライブスルー検査を実施して、感染の早期発見と動向調査を開始した。

MDA(救急隊)がコールセンターを設置して、隊員が家にでむいて検査を行ったり、自宅待機の人で監視が必要な人には、デジタルで病院とつなぐキットが家庭に届けた。防衛省が、軽症者を収容するホテルを全国3カ所に設置。患者の振り分けも担当したので、地元の医療機関に患者が殺到することはなかった。

イスラエルでも、感染が始まった当初は、帰国者の管理の悪さや、医療従事者の感染など、様々な混乱が噴出した。対テロ対策を取り入れた時には、プライバシーへの深刻な侵害が懸念され、民主主義の危機とまで言われたが、この危機にあっては、その声は今やもはや聞こえなくなっている。

これまでに、不用に出歩いて、警察から罰金チケットをもらった市民は、3万人いたとのことだが、市民たちは、家にとどまっているようである。あのアウトドアなイスラエル人が、よく頑張っていると思う。その真剣さは、大都会であるテルアビブの町中に、ジャッカルが闊歩し、ハイファでは、ウリ坊を連れたいのしし親子が道路を平気で渡っていく様子からもうかがえる。

www.timesofisrael.com/jackals-roam-deserted-tel-aviv-park-as-virus-forces-public-indoors/

経済については、失業者は、100万人を超え、26%となったが、政府は、企業に       の支援を発表。移動制限と並行して、食料の供給も各地で行われているので、今の所は、経済面で、市民がパニックになる様子はない。

感染経路分析とリスクファクター分析

保健省によると、これまでのところ、イスラエル人の感染の原因は、人からの感染が49%、海外で感染してきた人が19%、公共の場で感染した人は15%となっている。67カ国から帰国した人が感染を持ち込んでいたが、その大半である83%は、北米とヨーロッパ諸国であることがわかった。

www.jpost.com/Israel-News/How-did-Israelis-catch-coronavirus-624735

また、これまでに死亡した132人のうち、35人(35%)は、高齢者である。このうち14人は、ベエルシェバの高齢者施設ミシャンの住民であった。家族たちは、この施設に問題があったとして、法に訴えている。

このように、感染経路や、リスクが高く要注意地域が解明し、対処できつつあることから、来週から、経済活動をどう回復させていくのか、イスラエルもまた、その検討に入っている。

www.timesofisrael.com/82-year-old-woman-dies-of-virus-the-14th-resident-of-beersheba-nursing-home/

今後の課題:アラブ系住民とアフリカ系難民

今、問題になってきている大きな課題は、アラブ系住民の住む地域と、東エルサレムのパレスチナ人たちの管理である。検査体制が遅れたことや、過越の期間中の外出制限が、アラブ人地区には適応されないなどで、感染が急速に進み始めている。来週からは、ラマダンが始まるが、その対処についてもすすんでいない。

イスラエル北部のアラブ人居住区デイール・アル・アサドでは、検査数がかなり少ないにもかかわらず、感染者23人が確認された。イスラエルは、数日前からようやく、この地域での検査を進めるとともに、食料の供給も始めた。

世界に共通することだが、ホームレスで家のない人やテルアビブ南部に住むアフリカ難民たちが、コロナ対策からもれて、無防備になっていることも大きな課題である。イスラエルの抱える人種差別、ユダヤ人社会以外の住民とのコミュニケーションの弱さが浮き彫りにされた形である。

今後の課題2:超難問の東エルサレム

大きな課題が東エルサレムである。この地域には、ユダヤ教超正統派と同様に、宗教的なイスラム教徒や、イスラエルに反抗的な者や、テロリストまでが住んでいる。この地域を封鎖するとなると、過激なパレスチナ人たちが、暴力に出てくる可能性がある。

たとえば、東エルサレムの外出制限をイスラエル軍が、実施した場合、別の占領のイメージになることは、容易に想像できる。とはいえ、あまりにも危険なので、民間のユダヤ人が、この役を担当することはありえない。ユダヤ人居住区で行っているような食料の供給も難しい。

しかし、手をこまねいていると、パレスチナ人たちの家族は、大勢がともに住んでいるので、いったん感染が始まったら、急速に感染は拡大していくことになる。イスラエルは、地域への入り口で、ドライブスルー検査を行っているが、様々な規制から、不十分であるとの指摘もある。

来週からはラマダンもはじまる。あちこちから集まってくるイスラム教巡礼者をどうするのか。。。Yネットは、東エルサレムを”時限爆弾”と表現している。

www.ynetnews.com/article/S1iyl5VuL

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。