流れは変わるか!?最高裁が合理性法否決:分裂の原因を作ったと悔い改める元閣僚も 2024.1.2

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最高裁が合理性法を却下:民主主義の原理は維持すべきとハユート最高裁判長

2023年1月から政権を担っているネタニヤフ政権。司法制度改革の方針を打ち出して以来、イスラエルは賛成派と反対派で2分する事態になっていた。

こうした中で、昨年7月には、政府の権限が司法を超える可能性も懸念されていた「合理性法」を国会で可決させ、基本法に加えるという動きになっていた。

これに対し、最高裁がどういう判断を出すのか注目されていたが、昨年中1回は延期となり、昨日1日、合理性法案を却下するかどうかの採択が行われた。

この日は、2024年に入る1日0時(イスラエル時間)に、イスラエル中央地帯広域にサイレンが鳴ったその日という異常事態の中であった。

Supreme Court President Esther Hayut
(photo credit: MARC ISRAEL SELLEM)

結果、15人の判事(保守派(右派系)の判事7人とリベラル派(左派系)の判事8人)は、合理性法却下に賛成する判事は13、反対は2となり、合理性法は、基本法から却下する発表した。

すでに基本法に加えられている法律が却下されるのは、イスラエル史上初めてである。

これについて、ハイユート最高裁裁判長は、民主主義の原則は維持すべきであるとの考えを語っている。

www.timesofisrael.com/high-court-ruling-rebuffs-govt-claim-that-the-will-of-the-majority-is-all-powerful/

*イスラエルを分裂に追い込んだ「合理性法」とは

建国以来の基本法(憲法に準ずる法律)によれば、政府が決定した法律が、国家にとって合理的ではないと判断される場合に、最高裁がこれを却下する権限がある。

最高裁は、左派に傾く傾向にあるため、強硬右派政権である今のネタニヤフ政権は、国会で可決した法案を多数、却下されるという煮え湯をのまされてきた。

このため、これでは、司法が行政の上を行くことになり、民主主義に反するとして、この権限を認めないとするのが、「合理性法」である。

最高裁の裁判官は、民主的に選ばれるものではないので、それが、国民の選挙で選ばれた政府の動きを妨害するのはおかしいということである。これを支持したのは、右派、宗教政党であった。

確かに一理あるようではあるが、国内にいる左派・世俗派たちからすると、合理性法を受け入れると、政府の暴走を許してしまう、(ネタニヤフ首相の)独裁になると批判と、デモが炎上することとなった。

どちらの陣営も、それぞれが危機感を持って主張しているので、国はほぼ半々に分かれて争う状態に陥った。

しかし、結局、与党が過半数を占める国会なので、「合理性法案」は、7月に、国会で可決され、基本法に加えられた。

とはいえ、国民のほぼ半分はこれに賛成していないのである。これもまた、民主主義といえるのかどうか、問題になっていたということである。

www.timesofisrael.com/in-historic-ruling-high-court-strikes-down-key-judicial-overhaul-legislation/

www.timesofisrael.com/high-court-ruling-rebuffs-govt-claim-that-the-will-of-the-majority-is-all-powerful/

ハマスとの戦争で覚醒・悔い改める元閣僚も

Likud MK Galit Distel-Atbaryan speaks to Channel 13 news in an interview aired on December 31, 2023.

今回の最高裁が出した結果については、10月7日に始まったハマスの大虐殺とまだ奪還できていない人質の存在、170人もの戦死者を出している戦争の影響が大きいと言われている。

タイミングがタイミングだけに、国内の分裂が国を危機に追い込んだと感じるイスラエル人は少なくない。

今、イスラエル人たちは、国を失ったら生きていけない、内輪揉めしている場合ではないということを、改めて再認識させられている。

また、この戦争の背景には、政府の判断ミスが多々あることも指摘されている。政府、特にネタニヤフ首相に、すべての決断を任せることになる、この法律に疑問を持つ人もいる。

合理性法を強力に推進してきた元リクード党員のガリット・ディスティル・アトバリヤン氏は、公共外交大臣として、国内で合理性法を推進する担当に任じられていた。戦争前までは、合理性法を推進し、かなり強く、反対派を批判する側に立っていた。

ところが、アトバリヤン氏は、ハマスとの戦争が始まって数日後に、自らこのポジションを辞任した。

12月31日、テレビでのインタビューで、「10月7日のハマスの攻撃を知り、一瞬で自分がしてきたことが間違いであったと察した。私自身が国に亀裂と分裂を生み出し、それが、国を弱体化させて、結果的にハマスの虐殺を招く結果になった。」と明確に、自分の罪だったと認め、公的に謝罪する声明を出した。

アトバリヤン氏は、今ではネタニヤフ首相を批判する立場に立っている。しかし、同時に、ネタニヤフ首相の政治家としての力量は他に類をみないこと、汚職疑惑についても、ネタニヤフ首相がはめられた部分もあると感じているとして、複雑な思いも語っている。

またリクード内部に混乱を持ち込みたくないとして、総選挙の案が出た時には、反対票を投じると言っている。

www.timesofisrael.com/ex-likud-minister-says-she-sinned-in-tearing-country-apart-ahead-of-oct-7-attack/

これを悔い改めといえるかどうかはわからない。しかし、最高裁の判断と、これからの政府の流れに変化は出てくるのか、それに対して状況が変化してくるのかどうか、注目したい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。