新世界秩序めざす中国が中東和平に意欲:パレスチナ自治政府と「戦略的パートナーシップ」発表 2023.6.17

China's President Xi Jinping (C) and Palestinian President Mahmud Abbas attend a welcoming ceremony at the Great Hall of the People in Beijing on June 14, 2023. (Photo by Jade GAO / POOL / AFP)

中東和平に進出する中国:アメリカを抜いて新世界秩序目指す

6月6-8日、アメリカのブリンケン国務長官が、サウジアラビアを訪問し、「戦略的パートナーシップ」の国際会議に出席していたが、その直後の6月13日から4日間、パレスチナ自治政府のアッバス議長が、中国の習近平を訪問。中国との「戦略的パードナーシップ」を表明した。

それが何を意味するのかだが、中国は今、中東での影響力拡大を進めており、今年3月、7年前から国交を断絶して以来、あれほどの宿敵イラン(シーア派)とサウジアラビア(スンニ派)の国交再開を取り持ったばかりである。

イランとサウジアラビアに国交再会については、イラクやオマーンも試みたがうまくいかなかったのであり、今回、中国がそれに成功したということは国際社会にとっては大きなサプライズだった。それだけ、今、中東における中国の影響力は大きいということである。

www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/482622.html

中国としては、今、西洋主導からロシア・中国主導の世界秩序への変化をすすめており、中東のエネルギー市場への影響力拡大は、その大きな一歩になる。その中東において、避けて通れないのが、イスラエルとパレスチナの中東和平問題である。

これまでなんども挑戦してきたアメリカにかわって、万が一にも中国が、イスラエルとパレスチナの和平を達成するようなことにでもなれば、これはまさに世界秩序の劇的変化を象徴するようなことにもなるだろう。

今、パレスチナ問題が、これまでにないほどに悪化しているだけに、もしも中国の仲介が成功したとしたら、その変化はどれほどに劇的なものになるだろうか。

そうして、その指導のもと、イスラエルとパレスチナが神殿の丘を分割して、平和に分け合う、第三神殿が建つというような流れも、ぼつぼつ見え始めるという感じもしないではない。(現段階では想像にしか過ぎないが・・)

中東和平に意欲の中国:資金援助を期待するパレスチナ自治政府を歓迎

一方、中国を訪問したアッバス議長の主な目的は、資金援助とみられる。アメリカ始め、欧米諸国は、共和党トランプ大統領の時以来、パレスチナへの援助を大きく削減している。パレスチナのテロ組織に資金が流れたり、パレスチナ自治政府の汚職問題から、資金援助がしにくくなっている。

アッバス議長は、昨年7月に、アメリカのバイデン大統領を訪問。3億ドルあまりの支援の約束を得たが、パレスチナ問題への明確な示唆は得られなかった。

パレスチナ自治政府としては、民主党バイデン大統領になったら、政治的な支援も回復すると期待もあったかもしれないが、アメリカは、イスラエルより姿勢を続けている。また、石油を中東から調達しなくてもよくなり、中東への介入意欲が、なくなっているのである。

続いて10月には、ロシアのプーチン大統領とカザフスタンでの国際会議で会談。プーチン大統領はウクライナ問題で、今は中東和平への直接的な介入はあり得ない立場である。

こうした中で、アッバス議長が中国を訪問した。イランやサウジの関係を取り持つ様子からも、アッバス議長は、これからは中国の時代と察したのだろう。

中国に近づくためか、アッバス議長は、中国で国際問題になっている新疆ウイグル族イスラム教徒への迫害を、「テロリストの取り締まり」であると述べ、これを受け入れる意向を発表した。同じイスラム教徒であるのに、この意思表示からも、アッバス議長の中国への期待の大きさがうかがえるというものである。

習近平国家主席にすれば、タイミング良く(計画的?)にやってきたアッバス議長に、パレスチナ問題への介入に意欲を表明し、両首脳は、会談後の14日、「戦略的パートナーシップ」を確立したと発表したのであった。アメリカへの大きな挑戦状のようでもある。

www.timesofisrael.com/china-signs-strategic-partnership-with-palestinian-authority-during-abbas-visit/

中国のパレスチナへの進出:パレスチナ人の小学校で中国語教育開始

読売新聞が伝えたところによると、2021年5月にラマラで、中国の資金で、最新式コンピューターや、太陽光発電施設も備えた小学校が建てられていた。欧米、また日本からの支援が滞る中でのことである。建物には、大きく「中国援助」と表示されている。

今回のアッバス議長との「戦略的パートナーシップ」により、パレスチナ時地区内で中国語教育が始まることが決まった。無論、「中国支援」と書かれた小学校では、中国語授業が始まるとみられる。

www.yomiuri.co.jp/world/20230617-OYT1T50043/

*日本のパレスチナ難民支援70周年記念

余談になるが、日本は、まだ国連に加盟する前の1953年から、パレスチナ難民への支援をUNRWAを通じて行っている。6月7日、それから70年を迎えるとして、ガザ地区でその記念式典が行われた。

ガザでは、特に特徴的なのが、母子手帳の導入により、母子の健康が向上したという点があげられている。UNRWAへの支援金は、昨年3015万ドル(43億円)で、世界第5位である。

西岸地区でもあちこちに、日本の支援でパレスチナ人の生活が改善したという認識が、パレスチナ人たちの間には広がっている。日本の支援でというサインは、あちこちにあるが、中国ほどに大きな「中国援助」というどかーんとした看板はない。

石のひとりごと

中国の中東問題入り。いよいよ、時は前に進んでいるのかもしれないと思わされるような、なんとも不気味な動きの一つである。

とはいえ、現場においては、イスラエルがパレスチナと手を結ぶことはほぼありえないというのが現状だ。中国に近づくパレスチナ自治政府について、イスラエルからはコメントすらない。また中国としても、イスラエルとの技術上力は、国家的にも必要もあり、そう大きく何かができるというものではないだろう。

逆に、中国の一帯一路プロジェクトで、多くのアジア諸国が、中国の借金地獄の支配下に置かれたように、パレスチナ自治政府もそのケースになる可能性も高く、アッバス議長はまたもや、愚かな決断をしたのでは・・とも思う。

いずれにしても、イスラエルのすぐ隣での動きなので、注意は必要だ。

日本は、中国が進出しつつあるパレスチナに対して、これからどう動いていくのだろうか。今後の動向に注意していきたい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。