文字通りの過越:イスラエル・ロックダウンへ 2020.4.7

出展:Times of Israel/ イスラエル警察

過越の夜は外出禁止

4月7日日本時間朝9時で、新型コロナのパンデミックは、世界で134万3266人、死者は、7万4612人と、今も猛威をふるっている。今も最も厳しいのはアメリカで、感染者36万人4885人、死者1万人を超えた。医療崩壊しているニューヨークでは、死者の埋葬が追いつかない事態となっている。

イスラエルでは、感染のスピートは落ち着いてきているが、感染者9006人、死者60人、人工呼吸器依存者113人(保健省発表)とまだ増え続けている。

イスラエルでは、これまでから、食料調達、受診以外では、自宅からの外出は100mまでなどと非常に厳しい外出制限を行ってきたが、6日、ネタニヤフ首相は、過越が始まる7日午後4時から10日朝7時(午後7時かもしれない)までの間は、都市間の移動制限を実施すると発表した。

さらに、過越のセダー(特別な夕食)を祝う8日午後6時から翌朝7時までは、自宅から出ることを禁止される。(正確には国会の承認を待ってからだが、おそらく承認とのこと)

過越とは、イスラエル人が、奴隷となっていたエジプトから出発する際、子羊の血をかもいに塗っておいた家の中にこもって、エジプトを襲った10番目の災い(長男の死)が通り過ぎていくのを待ったというできごとを覚える日である。

今年、イスラエル人は、まさに災いの嵐がかけめぐる中、それぞれの家に入って、この夜をすごすことになる。

ペサハはプリムではない:ネタニヤフ首相

イスラエルでの死者は、今の所、ほとんどが、基礎疾患を持つ60代から70−90歳代の高齢者がほとんどであることと、先週、超正統派地域という感染拡大のホットスポットが明らかになり、対処を始めることもできた。

イスラエルの感染拡大は、ある程度コントロール下においており、イスラエルで使用可能な人工呼吸器は3000台なので(保健省)、まだ余裕があり、今の所、医療崩壊にはなっていない。

ハイファ郊外地域のいわゆる市民クリニック的な医療機関に努める医師である友人の話では、MDA(救急隊)が、コロナ患者に対応しているので、町のクリニックに患者が、ほぼ来ていないとのことであった。

しかし、課題は、検査キットがいよいよ不足してきたことである。国内での生産を急いでいるが、ネタニヤフ首相が1日に3万件の指示を出す中、1日1万件が精一杯になっているとのこと。マスクや防護服も不足し始めている。

ネタニヤフ首相は、希望は見え始めているとしながらも、「ペサハ(4月8日から始まる過越の例祭)はプリム(ユダヤ人の圧倒的勝利を記念する)と違う。」として、油断はまったくゆるされないと国民への警告を発した。

www.timesofisrael.com/netanyahu-announces-passover-closure-and-curfew-but-says-exit-may-be-in-sight/

中国から医療物資到着

イスラエルでは、6日、20トンものマスクや、防護服などの支援物資が、中国から到着した。イスラエルの大学で学んだことのある上海在住のベティ・シーさんが、イスラエルのために募金し、これらのものを購入、イスラエルへ寄贈したものである。

運搬に協力したイスラエル防衛相によると、外科用マスク90万枚、医療用防護服50万枚他支援物資は、まだ続いて到着する予定とのこと。

上海にあるイスラエル大使館のアドバイザー、ベン・シトリット氏によると、上海では、イスラエルのための献金に人々が殺到したという。近年、イスラエルを訪問した中国人旅行者が増えたことの影響かとも考えられている。

世界で、反ユダヤ主義が懸念される中、イスラエルにはありがたい動きであった。

www.timesofisrael.com/in-recovery-mode-chinese-donors-shell-out-for-israels-coronavirus-fight/

しかし、欧州に送られた中国製の医療資源は、劣悪で返品が相次いでいるとも聞いているので、イスラエルがそれをどうするのかも気になるところではある。

www3.nhk.or.jp/news/html/20200401/k10012361191000.html

ユダヤ教超正統派地域について

新型コロナ感染者を居住地別にみると、エルサレム1302人、先週金曜から封鎖が決まったブネイ・ブラック1214人、テルアビブ・ヤッフォ359人となっている。明らかにユダヤ教超正統派エリアが、ハイリスクであることが明らかとなっている。

このため、イスラエルは、ブネイ・ブラックに続いて、エルサレムの超正統派15地区と、全国地域8地区、ティベリア、エラッド、ミグダルハエメック、ベイタル・イリット、アシュケロン、オール・ヤフダ、モディーン・イリット、ベイト・シェメシュの一部での外出制限強化を開始した。

ブネイ・ブラックで活躍するイスラエル軍

イスラエルの場合、封鎖だけにとどまらず、特に過越ということもあり、イスラエル軍兵士が、各家庭に必要物資・食料を届けている。ブネイ・ブラックは特に超正統派住民が多いので、まずは、6日、1万5000食の食事(コシェル)が配布され、食料だけでなく、消毒材料や、日用品1000トンが配布される。

www.timesofisrael.com/idf-ramps-up-involvement-in-national-virus-response-scales-back-reserves/?jwsource=twi (Times of Israel)

ブネイ・ブラックへの食料配給を担当しているのは、イスラエル軍第98空挺部隊。空挺部隊は、食料配布に限らず、感染が明らかな人を搬送する働きもサポートする。

しかし、いうまでもなく、住民の40%近くが感染している町での任務は非常に危険である。現時点で、イスラエル軍兵士の感染者は100人。隔離しているのは約3200人いる。

任務準備はわずか3日であったが、軍は準備とともに兵士の感染に関する訓練も行った。

また、過越を前に、外出制限を監視する警察の補助として、あらたにイスラエル軍兵士700人が派遣された。合計1400人になる。警察補助ということで、この兵士たちは、武器を携行しないことになっている。

実際、コロナに感染しているにもかかわらず、バスにのって”脱走”しようとした人が複数、警察に身柄の確保をされている。

www.timesofisrael.com/covid-19-carrier-arrested-on-bus-suspected-of-deliberately-spreading-virus/

この他、すでに1万8000人派遣されている兵士たちは、救急隊の補助や、医療、社会活動補助を行っている。これらの兵士は、直接患者と関わるというよりは、そのスタッフのサポートに入っているということである。

www.timesofisrael.com/idf-ramps-up-involvement-in-national-virus-response-scales-back-reserves/

東京では、軽症患者をホテルに移動するとのことだが、その人々を管理するのはだれなのだろうか。

ビジネスホテルは狭いので、長期間、そこにこもりきることはかなり難しく、そのうち、脱走などの問題も出てくるだろう。部屋もかなり独立した感じなので、毎日部屋を見て回る人も必要だ。イスラエルでは、軍が、ホテル医療施設の運営、管理を行っている。

イスラエル軍は、職業軍人の集団ではなく、市民の従軍で成り立っている軍である。その働きは戦闘に限らず、国民の命を守るためならなんでもやる組織ということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。