戦争になるか?イスラエルもウクライナ東部のユダヤ人退避に備え 2022.1.24

ロシア軍配置の様子 BBC

ウクライナ情勢:かなり緊迫の様相

終末時計を進める勢いになっているのが、ウクライナを挟んでロシアと欧米が戦争になるのではないかとの緊張が高まっている。23日、アメリカが、ウクライナの首都キエフにいる大使館職員とその家族に避難指示を出し、アメリカ市民にも避難勧告を出した。

イスラエルは、先週、ウクライナ東部にいるユダヤ人を、イスラエルへ避難させることも検討に入っていると伝えられている。

*ロシアがウクライナに侵攻する可能性に関する背景

ウクライナは、18世紀ぐらいからロシア帝国の支配下に入り、第一次世界大戦後は、旧ソ連下に入った状態に置かれた。独立したのは、旧ソ連が崩壊した1991年である。その後、ポーランドなど東ヨーロッパの国々が次々にNATOに加わり、ロシアにとっては脅威となっていく。

ロシアが支配下においたクリミア半島とドンハス地方 BBCより

プーチン大統領が大統領に就任したのは、2000年である。プーチン大統領は、かつてのソ連の栄光を回復させようとしているとみられているが、2014年2月、親ロシア派住民が多いクリミア半島と、ウクライナ東部のドンハス地方(ドネツク州とルハンスク州)に侵攻し、後にロシアへの併合を宣言し、実効支配するに至っている。

その後この地域では、ウクライナ政府と親ロシア派住民との紛争が続き、BBCによると、1万4000人が死亡したあと、2019年に就任したゼレンスキー大統領の元、2020年にようやく停戦に入ったが、その後も不安定な状況が続いている。

そうした中、ロシア軍がすぐそばまでくれば、親ロシア派が活気付き、ウクライナ政府軍には、難しい状況となる。

このように、ウクライナ政府は、国内に親ロシア派と親西側派と両方を抱える中で、国の安定のため、NATOへの加盟を申請している。ウクライナからすれば、もしNATOに加盟できなかった場合、結局じわじわとロシアが東から、国を制覇してしまうことが懸念されるのである。

一方、ウクライナは、ロシアの首都モスクワに最も近い大国(人口4000万人)なので、ロシアにとっては、この国がNATOに加盟した場合、目と鼻の先に、敵を抱えることにもなる。こちらもゆずれないところである。

オレンジ:1997年以降にNATOに加盟した国
BBCより

プーチン大統領は、NATOは、東西ドイツが統一された時(1990年)に、東方へは拡張しないと言っていたのに、その約束は守られなかったと主張。今、最低でもウクライナはNATOに入れることは受け入れられないと言っている。

これについて、NATOは、ウクライナという独立国家が、加盟を要請しているのだから、それを拒否することはできないと返答している。

このような交渉の流れを経て、ロシアが今、ウクライナ国境に大軍を置いているのでは、いわば脅迫といえる。ウクライナをNATOに加盟させるなら、武力でこれを支配して、ロシアの治安を守るしかないと言っているのである。

緊迫する現在の両陣営の様子は以下の通り。

ロシア側:ウクライナ国境3方向からロシア軍が包囲

昨年以来、ロシア軍がウクライナ国境に10万人規模の大軍を派遣し、ウクライナへの侵攻しそうな勢いとなり、今年1月中には17万人になるとも言われていた。しかし、今のところはまだ10万人規模のようである。

NYTよると、現時点で、ロシア軍は、首都キエフをにらむ北部ベラルーシとの国境付近、2014年に戦場となった東部国境のドネツク、ルハンスク周辺、クリミア半島を中心に、ウクライナとの国境に幅広く、戦車隊や、武器を装備した軍を駐留させている。

最も駐留が深刻なのが東部国境、ドネツク、ルハンスク周辺で、兵の数は3万人ともみられている。この地域は、2014年の戦争で、ロシア側についた地域である。

今後、予備役兵を招集したり、野戦病院などを設立するなどの様子が見え始めたら、いよいよ攻撃と見るべきだと考えられている。

www.nytimes.com/interactive/2022/01/07/world/europe/ukraine-maps.html

NATO側:東ヨーロッパとバルト3国にアメリカ軍派遣を検討

ロシア軍の大軍がウクライナ国境に迫っていることを受けて、NATO諸国が、ウクライナに武器の供与を始めている。

イギリスは、最新式の対戦車ミサイル2000基と、その操作のための陸軍部隊30人を派遣。バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)も対戦車ミサイルや、地対空ミサイルをウクライナに供与するとのこと。

アメリカからは、ウクライナの首都キエフに2億ドル分ほどの兵器や爆薬が届けられたとBBCは伝えている。

www.yomiuri.co.jp/world/20220123-OYT1T50110/

さらに、NYTによると、バイデン大統領が、バルト3国や、ウクライナ東部にアメリカ軍(1000人から5000人規模)の派遣を検討しているとのこと。その中には、空母も含まれている。今週中にも決断するとみられている。

www.nytimes.com/2022/01/23/us/politics/biden-troops-nato-ukraine.html

今後どうなるのか:米露交渉の動き

ロイター通信によると、21日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが東部の親ロシア派の都市、ハリコフ(人口140万人のウクライナ第二の都市)をロシアが占領する可能性があり、それがきっかけで戦争になる可能性があると表明した。

jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-kharkiv-idJPKBN2JV1WF

ブリンケン国務長官とラブロフ外相 BBCより

こうした中、外交的に戦争を回避する努力は今も続けられている。21日、アメリカのブリンケン国務長官と、ロシアのラブロフ外相が、スイスのジュネーブで会談を行った。

ロシアは、ウクライナ侵攻は意図していないとし、ウクライナのNATO入りを停止してくれたらよいだけだと言い続けている。一方、ブリンケン国務長官は、いかなる侵攻もアメリカは認めないと主張し、もし侵攻したら、新たな経済制裁を課すと強気姿勢を崩さなかった。

両者は今週にも再度、対話を続ける。イギリスは、ウクライナに親ロシア派の小さな政党があり、ロシアはこの党を支援して、今の政府と置き換える作戦に出てくるのではないかと言ったが、ロシアはこの可能性を否定した。

www.timesofisrael.com/israeli-said-preparing-for-potential-mass-immigration-from-ukraine-in-case-of-war/

こうした中、アメリカ政府は、万が一に備え、キエフの大使館職員とその家族に対し退避の指示を出し、ウクライナにいるアメリカ人にも退避を勧告したということである。

www.bbc.com/japanese/60079062

イスラエル:東ウクライナからのユダヤ人一斉移住を検討

イスラエルメディアによると、イスラエル政府は、もしロシアがウクライナへ侵攻した場合、数千人のウクライナ在住ユダヤ人が、一斉にイスラエルへ移住してくる可能性があるとして、その準備を開始したとのこと。

ウクライナには、今もイスラエルに移住する権利を持つとされるユダヤ人が7万5000人いる。

こうした事態に備え、イスラエル政府は以前から、ウクライナに限らず、不安定な国々にいるユダヤ人の救出をすでに、計画しているとのこと。

www.timesofisrael.com/israeli-said-preparing-for-potential-mass-immigration-from-ukraine-in-case-of-war/

石のひとりごと:ゲームチェンジの可能性?

ウクライナで戦争になれば、それを機に、台湾情勢、イラン情勢、また今、イランが支援するイエメンのフーシ派が不気味な動きをはじめているなど、世界各地での紛争に、飛び火していく可能性もありうる。

世界の警察の役割を果たしていたアメリカの存在感が、さらに薄れることになるからである。戦争の噂を聞くことになる、まさにその時代にいるということである。

これまでと同様、主の時でないのに、戦争になり、まだ救われていない人々が、救われる前に大勢死んでいくことがないようにと、とりなしが必要である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。