一方的撤退の背景(国家治安研究所/INSS解説) 2014.8.4

イスラエルは当初、エジプトを通じてパレスチナ側と交渉する道を模索した。しかし、ハマスはこれを拒否した。また休戦という方策も模索したが、ハマスはこれにも応じなかった。

今回、イスラエルは、パレスチナ側との合意なしに撤退をすることで新しい状況をつくったことになる。つまり、戦争を止めるも続けるもイスラエルの自由であるという状態を作り出したということである。

撤退はするが、それはイスラエルの自由意志において実施したのであり、攻撃されれば攻撃するし、トンネルが発見されればそれも破壊する。

イスラエルは今、新しいガザの現状を実現するため、ガザ地区住民の生活レベルを上げるリハビリテーションを考えている。それもイスラエルの思うように進めるということである。まとめると、自ら撤退することによって、戦略的に優位な立場に立ったということである。

一方で、今撤退するという事は、ハマスを根絶しないまま、撤退するということを意味する。これについて、イスラエル国家治安研究所所長のアモス・ヤディン氏は、「ハマスを根絶するためには、イスラエル自身がガザを再占領するしかない。イスラエルはそれを望まない。」と言った。

またハマスを根絶するまで追いつめた場合、死亡する民間人は1万人を超える。イスラエルは国際社会から戦犯と非難される。これこそハマスの狙うところである。

ハマスを十分弱体化した状態のまま存続させ、再び武装を強化しないように監視しながら、ガザ地区のリハビリテーションを行う。できるだけ長く平穏を続けるというのが現実的な解決というわけである。

<ハマスはどのぐらい弱体化したか>

ではどのぐらい、ハマスは弱ったのかということだが、ヤディン氏は、今回の戦闘で、ハマスは物質的な面ではほぼすべてを失ったが、組織を決定的に弱体化することはできていないと語る。

ミサイル戦略については、アイアンドーム(迎撃ミサイル)の存在により、イスラエル破壊への有効な手段になりえないことが実証された。

また、今回、イスラエルに向けて発射された長距離ミサイルは、イランからの物資の供給ではあったが、すべてガザ市内で製造されたものだった。つまり、イランから直接ミサイルを搬入することはまだできていないということである。

もし、エジプトが、イスラエルと同様にハマスの弱体化を願って国境を厳しく監視するならば、今後も長距離ミサイルが、ガザ地区に入る事はない。

トンネルについては、かなりの部分をイスラエル軍によって破壊された。またイスラエルは、今ではガザのトンネルに関するシステムや、戦略をかなり掌握した。もはやハマスにとっては有効な戦略にはならないはずだとヤディン氏。

しかし、問題は、人的な問題。ハマスの指導者層はほぼ、そのまま存続している。今回殺害された戦闘員は500人とも言われるが、ハマスの戦闘員は2万人近くいる。

この状況を念頭に、今後の目標としては、①ガザ地区の非武装状態を実現、継続する。長期的には、②穏健なパレスチナ人がガザを支配するようになる。ということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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