シリア情勢アップデート:ロシアとアメリカの心変わり!? 2019.2.2

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ダマスカス上空 写真出展アルーツ7 January 21st, 2019. (photo credit: STR / AFP)

<イスラエルのイラン攻撃エスカレート>

アメリカがシリアから撤退を表明して以来、イスラエルはシリアのイラン軍拠点への攻撃を強化している。

前イスラエル軍参謀総長のガビ・エイセンコット氏によると、イスラエル軍がシリアのイラン拠点に対して打ち込んだミサイルの数は、2018年だけで、2000発にのぼるという。

今年1月22日未明、イスラエル軍はダマスカス空港のイラン軍関係施設(諜報機関と軍事訓練関係)を攻撃。これにより、21人が死亡した。21人のうち、6人はアサド政権関係者で、15人は外国人。このうち12人がイラン人でっあったと報告されている。

この攻撃で注目されたのは、イスラエルの攻撃が夜でなく日中であり、自ら攻撃したことを認めたことであった。「イスラエルは、シリアにイランの存在を決して受け入れない。」というメッセージが込められているようである。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Report-12-Iranians-killed-in-Israeli-strike-on-Syria-total-rises-to-21-578258

この攻撃に対し、シリアからゴラン高原のイスラエル側へミサイルが打ち込まれたが、迎撃ミサイルが撃墜し、イスラエル側に被害はなかった。イランは、ベングリオン空港への攻撃も示唆したが、今の所、攻撃は実施されていない。

こうした大胆なイスラエルの攻撃が、先の北部ヒズボラのトンネル摘発も含めて、総選挙と無関係ではないと見る声も少なくない。ネタニヤフ首相が、国民に対し、「ネタニヤフ首相にしか国は守れない。」というイメージを国民に提示する結果になっているからである。

しかし、イランへの攻撃があからさまになってきたことで、いつかはイランが反撃の出て、大きな地域戦争に発展するのではないかとの懸念が、リブリン大統領、またアメリカの諜報機関長官からも出始めている。

www.jpost.com/Israel-News/Israeli-strikes-on-Iran-in-Syria-may-lead-to-war-US-intelligence-chief-579184

こうした中、ロシアとアメリカが方針転換ともとれる発言をした。Ynetは、これを”好転”になりうるとの味方も提示する。無論、中東のことであるので、その”好転”かも状態も、あっとううまにひっくり返される可能性は十分あるわけだが・・・。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5453518,00.html

1)ロシアはイランの同盟ではない:ロシア副外相

イスラエルのダマスカス空港への攻撃を受け、ロシアのスポークスマンは、「このようなイスラエルの独断的な攻撃は停止すべきだ」と述べたが、そのわずか2日後、ロシアのリャバコブ副外相が、CNNのインタビューに答えて、「ロシアとイランは、同盟国といった種類の関係ではない。イスラエルの治安維持はロシアの最優先事項の一つだ。」と語った。

シリアでイラン人12人もの死者を出したイスラエルの攻撃の直後に、ロシア副外相がこのような発言をしたことに、Ynetの中東エキスパート、ロン・ベン・イシャイ氏は、注目する。

ロシアにとって、今はイスラエルとの関係の方がイランより重要になっているとイシャイ氏は見ている。

ロシアは今はシリアで大きな戦争になってほしくないと考えている。またシリアにおいて、イランに必要以上に勢力を伸ばしてもらいたくないと考えている。ロシアのねらいは、シリアを実質支配し、地中海への安全なアクセスを自らの支配に確保したいのである。

一方、今回の大胆な攻撃で、イスラエルは、だれになにを言われようが、自衛のために、シリア領内のイランへの攻撃はやめないということは明らかになった。ならば、イスラエルの行動を黙認し、イスラエルによって、イランを抑える方がロシアにとっては有益ということになる。

逆にイランにとっては、ロシアは失いえない存在。イランが、まだイスラエルに反撃に出て来ないのは、ロシアを気遣っている可能性もある。

こうしてみると、イスラエルが、今回、大胆に日中、イラン施設を攻撃したことで、この新しいロシア、イランの抑制システムが作り上げられたとも考えられる。

こうした計算以外にも、イスラエルは今、IT産業の最先端を行く国として注目されている。今年1月27日から3日間、テルアビブで行われたサイバーテック・カンファレンスには、世界70カ国から数千人が参加した。農業・水技術についても、イスラエルは注目される存在である。

この点からも、ロシアがイランより、イスラエルを重要視したとしても不思議はないだろう。

www.israeldefense.co.il/en/node/37314

しかし、1月末の攻撃があまりにも大胆であったことから、イスラエルのリブリン大統領や、アメリカ諜報部長官も、「今はイランもイスラエルとの衝突避けているが、イラン人に犠牲者が続けば、イランが反撃に転じて、中東での大きな戦争に発展する可能性はある。」と懸念を表明している。

www.jpost.com/Israel-News/Israeli-strikes-on-Iran-in-Syria-may-lead-to-war-US-intelligence-chief-579184

2)アメリカが、シリア南部に駐留を継続か

シリア北部、クルド人勢力地域に駐留していたアメリカ軍は、すでに撤退を開始している。しかし、1月25日の報道によると、シリア南部、シリアとヨルダン、イラク3国の国境付近、アル・タンフに駐留するアメリカ軍については撤退を最小限に留める可能性があるという。

この地域は、イランから地中海に続く経路にあり、米軍が駐留することで、イランが地中海へのアクセスをシーア派で固めることを妨害する可能性を残すことになる。もしこれが事実ならだが、いうまでもなく、イスラエルにとっては朗報である。

foreignpolicy.com/2019/01/25/us-considering-plan-to-stay-in-remote-syrian-base-to-counter-iran-tanf-pentagon-military-trump/

アメリカ軍が撤退を開始したことから、アメリカの呼びかけで、IS打倒の友軍に参加してきた国々は、2月6日、今後どうするかの話し合いをするという。

フランスは元シリア支配国(20世紀)であったことからも、今後も残留するとみられるが、イギリスは、ブレキシット(EU撤退)で忙しいこともあり、シリアから撤退するとみられている。

www.jpost.com/Middle-East/US-Syria-policy-Get-others-to-pick-up-the-slack-as-it-leaves-579337

<40回目のイラン革命記念日>

こうした中、2月1日、イランの首都テヘランでは、1979年のイラン革命から今年40年目を迎え、10日間の記念行事が始まった。2月1日は、前のパーレビ国王(アメリカ傀儡)が、国外へ逃亡した後、代わりにパリに亡命していたホメイニ師が、イランに帰国到着した日である。

ホメイニ師は、2月11日に政権を掌握。イランは、イラン・イスラム共和国となり、シーア派イスラム教指導者が支配する国となった。これをイラン革命という。

今年2月1日は、この日から40年目ということで、ホメイニ師の廟には数千人が集まり、いつものスローガン、「アメリカとイスラエルに死を!」と叫んだ。

www.i24news.tv/en/news/international/middle-east/194413-190201-chanting-death-to-america-and-israel-iran-celebrates-40-years-of-revolution

しかし、今、イランは、多くの国と敵対し孤立するとともに、物価も上昇、水不足で飢饉が続き、土地に穴があく現象が出るなどの事態になり、国の状態は、革命前より悪くなっている。この40年で、市民の革命に対する態度は、変わってきたとアルジャジーラは伝えている。

www.aljazeera.com/news/2019/01/40-years-khomeini-return-exile-iran-revolution-190130090622584.html

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。