イラン反政府デモ発生から1ヶ月で200人以上死亡:中東と世界に及ぼす影響は? 2022.10.14

BBC スクリーンショット

イランの反政府デモ拡大:“独裁者に死を”と叫ぶ群衆

先月9月13日に、イランの首都テヘランで、ヒジャブの付け方が正しくないとしてマフサ・アミニさん(22)が逮捕され、その後、死亡したことがきっかけで、まずは女性たちから始まり、男性も加わって、反政府デモが全国に拡大。1ヶ月が経過した今も沈静化する様子はなく、治安部隊との衝突で死亡した人は、子供23人を含む201人となった。(アメリカ系人権団体によると、デモは全国19都市で発生・子供32人を含む233人死亡)

これまでに、国営放送がハッキングされて、ハメネイ最高指導者を非難する映像が流れたり、15日には、政治犯が勾留されていた、エビン刑務所で反乱が発生。囚人4人が死亡。61人が負傷した。この時に大勢が「独裁者に死を」と叫ぶ声が聞こえていた。以下はエビン刑務所の様子

イランでは、これまでからも、時々反政府デモが発生していたが、すぐに政府に鎮圧されるという繰り返しだった。BBCによると、これまでのデモは、どちらかというと中流、高学層によるものであったという。

しかし、今回は、6月に新しく就任したライシ大統領が厳しいイスラムの戒律を社会に再導入した上、世界の経済制裁で、イラン経済が疲弊して、市民生活にも大きな影響が出ている中で発生したデモである。不満がたまっていた一般市民、特に若者たちの間で、デモが拡大しており、大学などが拠点になり始めている。

若者たちが死をも恐れずに展開するデモということである。状況はまだ悪化の一途をたどっており、これをイラン政府はどのようにおさめていくのか先はまだまったく見えていない。

news.yahoo.co.jp/articles/7967151e8ec78360299e8c6d5091929c9fccd6a8

こうした中、15日、バイデン大統領は、「アメリカは、目覚めたイランの女性や市民とともにある」と明確に、デモを支持する意向を表明した。

イランのハメネイ・イスラム最高指導者は、以前から、この混乱は、アメリカとイスラエルが関与していると非難していたが、バイデン大統領のコメントを受けて、「アメリカが混乱を煽動している」とし、かつてホメイニ師(1972年イスラム革命を導いた指導者)が、アメリカは大きなサタン(悪魔)だと言った通りだと述べた。

edition.cnn.com/2022/10/14/politics/joe-biden-iran-protests/index.html

ロシアと並ぶ核の脅威になる可能性

イラン国内での混乱はどのような影響を及ぼすだろうか。CNNによると、まずは、先進国との核合意の再建交渉はストップするとみられる。逆に国際社会は、イランがロシアにドローンや、最新情報では、弾道ミサイルまで提供しようとしている動きがあるため、イランへの制裁を検討する段階に入っている。

イラン国内外で窮地に陥るにつれ、ロシアと同様、こちらも核の濃縮を一気に90%まで上げることで、核兵器への脅威を上げてくる可能性が懸念されている。ヒズボラやハマスにイスラエルを攻撃させて、国内外の注意をそらすことをしてくるかもしれない。イスラエルは、その動向を注視していると思われる。

新たなアラブの春をもたらす可能性

また、イランで起こっていることは、女性のヒジャブ問題である。すでにアフガニスタンでも同様のデモが発生しているように、もし、この運動でイラン政府が転倒するようなことにでもなれば、周囲のシリアやイラク、アフガニスタンといった、イスラム教国の間で、再びアラブの春のようなことになる可能性も否定できない。湾岸諸国は、イランの動向に警戒をしていると思われる。

イランの核問題に最も敏感なのはイスラエルである。しかし、情報収集は完璧なのだろうか。これまでのところ、政府もメディアも、特に目立った反応は示していない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。