5回目第25国会総選挙日:エルサレムの町の様子 2022.11.1

投票するヘルツォグ大統領夫妻 GPO

11月1日投票日

イスラエルではここ4年ほどの間に5回目となる総選挙が行われている。有権者は、前回から約21万720人増えて、678万8804人。全国に設置された投票所は、1万1707箇所。

投票は朝7時に始まり、午後10時まで。投票率は、締め切り30分前で66.3%と1999年以来の伸びだった。

A woman votes during Israeli elections in Tel Aviv, Israel, Tuesday, Nov 1, 2022. (AP Photo/Oded Balilty)

投票所では、小さい子供や犬をつれて投票所に入る人もいた。歩行器の高齢者を選挙に連れてきて、その後、タクシーに乗せる人もいる。刑務所でも投票は行われた。

選挙日の今日は、国民の休日扱いなので、学校も多くの会社も休み。電車やバスは走っているが、朝のラッシュアワーでも、道もバス中もガラガラだった。

午後になると人出は、徐々に戻ってきていたが、まだ閉まっている店もあり、人ではいつもよりも少ないように思った。人々は投票後、ビーチに行くなどして、”休日”を満喫していたようである。

夜のテレビでは、選挙報道かと思いきや、以外にも人気お笑い番組「エレツ・ネエデレット(特別な国)」をやっている。投票締め切りの夜10時前になると、ラピード首相とネタニヤフ氏のそっくりさんが、寝ている市民の家に押しかけて選挙に行くよう起こすコントをやっていた。

*投票締め切り後の出口調査結果

しかし、午後10時になると一変。出口調査が発表された。チャンネル12によると、ネタニヤフ氏のリクードが30議席で、宗教シオニスト党が議席を伸ばしたこともあり、連立合計61と過半数超える予想。

ラピード首相の未来がある党が24議席で、連立合計55議席、ラピード首相側に着くかどうか不明のアラブ政党ハダッシュ・タール党4議席。ハダッシュがラピード陣営についたとしても、最大でも59議席と過半数には届かない。

このように、ネタニヤフ陣営が優勢で、すでに勝利宣言もしたが、ほぼ確定は3日夜?ぐらいで、正式なカウントが終わるのはこの金曜と予測されている。

もしアラブ政党バラード党が議席を獲得した場合、ネタニヤフ陣営が過半数を割り込む可能性はまだ残されている。

www.timesofisrael.com/netanyahu-heralds-cusp-of-victory-lapid-urges-patience-as-votes-counted/

オンラインに変わる?選挙運動

3日前に現地入りして、様子を見ているが、かつての選挙の時の様子はない。路上で行われていたデモやアピールが、ほとんどみられないのである。町に貼られるポスターなども最小限。

ポスターで最もめだつのはネタニヤフ氏で、ラピード首相のポスターはほとんどみられなかった。

イスラエルのプレスオフィスによると、海外から来る記者もかなり減ったとのこと。

これは、もう5回目ですぐに結果が出るわけではないという点も考えられるが、選挙運動がSNSやオンラインで行われるようになったことも一因と考えられる。町で取材しなくてもオンラインで、かなり間に合うのである。

そういうわけで、選挙に伴うテルアビブにある各党での取材には人数制限もあり、記者証があってもすでに締め切られていた。特にネタニヤフ陣営はすでに締切で、ラピード陣営も締め切りだったが、こちらは親切に、最新ニュースリストに挙げてくれた。

結局、実際に取材に行けたのは、無難にヘルツォグ大統領夫妻の投票ぐらいだった。

選挙後の予想

イスラエルでは、総選挙の結果がそのまま首相、新政権発足とはならない。一党だけで、過半数になることがないからである。

総選挙の後、まず、ヘルツェル大統領が、連立交渉立ち上げの可能性が最も高い党首に交渉を委ねる。通常は、獲得議席最多数の党首が指名されるが、連立に加わる党の議席数が少なく、過半数になる可能性が低いと見られた場合、議席数は多くても、別の党首が指名される可能性もある。

指名された党首は、その後4週間(2週間延長可能)で連立交渉を行う。それで過半数になれば、ようやく政権発足となる。

総選挙の結果は、その後どんな連立が可能かというパズルが決定するということである。その組み合わせにより、首相と政権が決まる。したがって、新政権発足は最も早くて12月。最悪の場合は、来年5月に6回目総選挙である。

1)ラピード政権終わるか?

GPO

13年近く続いたネタニヤフ政権(暫定政権も含む)は、2020年の6月に、ラピード現首相(中東左派)とベネット前首相(右派)、打倒ネタニヤフ派議員ら、さらにはアラブ政党も加わることで、かろうじて過半数をとったことで、終焉となり、ネタニヤフ氏のリクードは筆頭野党となった。

しかし、実質的には、過半数には至らなかったとはいえ、ネタニヤフ氏のリクードの議席が最も多かったのであり、国民の半分は、ネタニヤフ氏を支持するという、ねじれた状態にあった。

このため、2020年6月に、まずはベネット氏が首相になることで発足した雑多な政権だったが、右派左派一緒の政権に耐えられなかった右派議員らが離脱。過半数割れとなったため、2021年6月に解散となった。

その後の暫定政権を引き継いだのが、ラピード首相だった。ラピード首相は、それまでの1年間の外相としての経験を活かし、アブラハム合意で国交が始まっていたUAEなどとの正式な国交を成立させたほか、ネゲブサミットでエジプトや、ヨルダンとも対話を進めた。

また最近では、レバノンと天然ガス油田を分割する海洋境界線策定で歴史的な合意を成立させた。こうした足跡によるものか、ラピード首相の未来がある党の議席は20から24議席と増加が予想されている。

しかし、一方で、パレスチナ人との衝突が深刻化しており、ベネット前首相、ラピード首相のパレスチナ自治政府との対話路線が、野党、右派勢を勢いづけた可能性がある。

ラピード首相陣営では、次の2点で、過半数は不可能とみられている。

①ラピード陣営とみられるアラブ政党は、ラアム党以外のアラブ政党が分離したこと。

特にイスラム色の強いバラード党は、最低得票率に至らず、議席を取れないと予想。議席がとれてもネタニヤフ陣営は無論、ラピード陣営にも加わらない。

②今政権にいるガンツ防衛相が、ギドン・サル氏と組んで新たな党を立ち上げている点。

ネタニヤフ陣営、ラピード陣営どちらも過半数に満たない場合、ヘルツェル大統領がガンツ氏を連立指名する可能性もある。ガンツ氏はその方向で、首相をめざすと言っている。

2)ネタニヤフ氏が首相に返り咲く可能性

Likud chairman Benjamin Netanyahu (R) and his wife Sara (Photo by RONALDO SCHEMIDT / AFP)

選挙結果で、連立に加わるとみられる党の議席数を足して過半数になる可能性を持つのは、ネタニヤフ氏のみである。

①ネタニヤフ陣営(リクード、ユダヤ教政党、宗教シオニスト党(極右イタマル・ベン・グヴール氏のオズマ・ヤフディ党含む))が過半数61議席以上になる場合

交渉で、過半数になる連立政権になれば、それでネタニヤフ氏が首相となる。

しかし、ネタニヤフ氏は、レバノンとの海洋境界線を見直すと表明していることや、約束上、極右のグヴール氏が、閣僚に入ること、また、政権成立の場合、ネタニヤフ氏の汚職疑惑を不問にする法律を成立させるとみられるなど、問題は少なくない。

②ネタニヤフ陣営が過半数の連立交渉にならない場合

ヘルツォグ大統領が次に議席が多いとみられるラピード首相を指名するか、どうみても過半数にならないとみれば、ガンツ防衛相に、もしくは国会で決めるよう指示するかの何かになるが、どの場合も過半数にならない可能性が高く、来年5月に6回目総選挙ということになる。それまではラピード首相が暫定首相を続行する。

3)選挙の行方を左右するのはアラブのバラード党の得票ということについて

これからどうなるかだが、今まだカウント中の中で、国会入りするための最低得票率ぎりぎりのところにいるアラブ政党バラード(イスラエルはユダヤ人の国を否定)が注目されている。

もしバラードが最低投票率をクリアした場合、4議席を獲得することとなり、ネタニヤフ陣営は、過半数を割り込むことになる。それによって、ネタニヤフ、ラピード両陣営が過半数を達成しないことになり、また総選挙という流れになると考えられる。

石のひとりごと

まったくの石のひとりごとではあるが、今回、エルサレムの様子は、以前と様子がなんとなく違うように感じている。歩いている人が、西側では、ほとんどイスラエル人、東側ではパレスチナ人なのである。そのためか、なんともいえない現地緊張感のようなものがあるのである。

観光客は旧市街で多く見かけたが、個人旅行者ではなく、グループのツアーが多かった。

ちなみに、現時点でのガイド料の相場は、なんと1日350ドル+チップ(5万円以上)らしい。この2年仕事がほとんどなかったガイドたちに、ようやく笑顔がもどりはじめた感じだ。

ただし、日本からのツアーは、イスラエルのインフレと円安のダブルパンチで、まだまだ少ない。しかし、これまでと違って、多少は資金もある日経企業が、イスラエルとの交易目的で来るケースが増えているとのこと。

西エルサレムの目貫通りベンヤフダ通りで、土産物屋をしているダニーさんも、感謝なことに旅行客がだいぶ戻ってきていると言っていた。

しかし、それでも、見た目に歩いている人は、まだまだ西側ではイスラエル人、東側ではパレスチナ人がほとんどであるように感じた。

ところで、これは個人的な感覚でしかないのさが、なんとなく、前よりがさつな感じで、独特の緊張も感じる。たとえばバスの運転が前より乱暴な感じ・・・東エルサレムでは、パレスチナ人の様子が前よりすさんだ感じもする。

筆者は、日本では空気を読めないタイプだが、ここでは別の意味で、アンテナをフル回転しているような気がする。

日本にいる時の10倍歩き、10倍頭を回転させている感じ。危機感とともに、どこに可能性があるかわからない、といったおもしろさがあるのだ。こんな感じなので、摂取カロリーを気にする余裕がない。脂も甘いものを食べても罪悪感がない。イスラエル人の食事量が日本人よりかなり多いのも理解できるというものだ。

実際、町でたまたま思わぬ人に会ったという経験をもう4-5回は経験した。とにかく、失敗も含め、主が全てを支配しておられるということを感じざるをえない。

エルサレムはやはり、天に近いのか・・!?こうなると、もはや恐れはないとは言わないが、さっぱりわからなくても、何事もが、なにやら楽しみになるわけである。

となれば、今行われているイスラエルの政府とその首相を決める総選挙。その結果は、どうころんでも、200%、主のみこころだけがなるのだろうと思う。

 

 

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。