イスラエル・リビア極秘外相会談発覚でリビア国内は暴動 2023.8.29

People burn a shirt showing Israeli Foreign Minister Eli Cohen and his Libyan counterpart Najla Mangoush in Tripoli, Libya, August 27, 2023. (AP Photo/Yousef Murad)
A composite image of Israeli Foreign Minister Eli Cohen (left), and Libyan Foreign Minister Najla Mangoush (right), (Iakovos Hatzistavrou / AFP, Adem ALTAN / AFP)

先週ローマで、イスラエルと、リビアの外相が極秘で会談していたことが発覚。リビア国内では、これに対する反発と抗議行動から、暴動にまで発展する結果となった。

同時に、イスラエルとリビアが国交を回復し、アブラハム合意に加わると言う歴史的な転換も、期待されていたが、今は遠のく結果となった。

情報をリークしたとして、イスラエルのコーヘン外相や、イスラエル外務省が、国内外から非難を受けている。

イスラエルとリビアの国交正常化に向けた歩み

現在、リビアとイスラエルの間に国交はない。イスラムの国であるリビアにとって、一般的には、イスラエルはアラブの敵として、国交回復はタブーと考えられている国の一つである。

しかし、リビアでは2011年に、アラブの春で、カダフィ大佐(大統領)が没落、死亡する。すると、リビア西部、トリポリに政府が立ち上がる。ドベイベ首相の元、国際社会にも認められる存在になっている。今回のマンゴーシュ外相は、この政府の外相である。

一方東側はベンガジを有し、ハタフル将軍の元、トリポリ政府に合意しない勢力が存続している。東西は今は一応の停戦状態にあるが、西側の政府が、安定した政府であるというわけではない。

リビアといえば、2012年に、アメリカ大使館が襲撃され、駐リビア米大使ら4人が殺されたことが記憶に残っている人もいるだろう。この時もアメリカの映画が、イスラムへの侮蔑だとの怒りが原因であった。

しかし、イスラエルにとっても、リビアにとっても国交を回復することは有益である。このため、長年、イスラエルは、水面下で、モサドなどが、双方とコンタクトを続けていたという。

2017年からは、水面下での極秘の会談が時折行われていたのであった。

こうした中、アブラハム合意の動きが始まり、この動きが加速。先週、イスラエルのエリ・コーヘン外相と、リビアのナジラ・マンゴーシュ女性外相が、極秘の中、ローマのイタリア外務省で、約2時間の会談を行った。

この会談が実現したのは、かつてリビアに住んでいたユダヤ人コミュニティのメンバーたちの長年の努力もあったという。

このユダヤ人たちは、1967年の六日戦争でイスラエルが、アラブ諸国に勝利してエルサレムを支配するようになった時に、怒り狂ったリビア人たちに襲撃された。多くは殺されたが、なんとか国外に逃げて助かった人々である。

彼らは遺産をすべてリビアに残したままで逃げたので、今もユダヤ人の遺産が、リビアに残されたままになっている。この人々は、リビアとイスラエルが友好関係となり、再びリビアに戻ることを願い、水面下の準備を続けていたのであった。

こうして、今年1月に、アメリカCIAのバーンズ長官とドベイベ首相との会談にこぎつけ、計画が具体化されたのであった。

コーヘン外相と、マンゴーシュ外相は、両国の和解が成立した際には、リビアに残されているユダヤ人の重要な歴史的遺産の他、可能になる協力体制や、リビアの農業、水道などの人道支援などについても話し合ったという。

コーヘン外相がリビア外相との会談を発表で?遠のいた国交正常化

しかし、今回は、コーヘン外相が、名指しはしなかったが、イスラムの国との国交に向かう可能性を匂わせたあと、政府外務省として、リビアとの国交にむけた動きにこのマンゴーシュ外相との会談に関する情報を発表してしまった。コーヘン外相は、今回の会談は歴史的であり、関係回復の一歩になったと語った。

すると、リビア国内で、これに反発する暴動が、トリポリや西側各地で発生。タイヤを燃やしたり、イスラエルの旗、マンゴーシュ外相の写真に大きな✖️マークをつけるなどして、暴動の様相になった。リビア人にとっては、まだ決して交わってはならない、イスラエルは敵の中の敵なのである。

これを受けて、おそらくはマンゴーシュ外相とコーヘン外相のコンタクトは知っていたと思われる西側政府だが、ただちにマンゴーシュ外相を解任すると発表。この会談は、イタリア外相との会談中の非公式なものだったと弁解の発表を行った。

これを受けて、マンゴーシュ外相は、身の危険から、リビアから脱出し、トルコへ逃避した。

問題が、情報漏洩であったことから、リビアは将来、イスラエルとのコンタクトにさらに慎重にならざるを得ず、イスラエルとの国交開始、アブラハム合意参入という夢は当分、実現しなくなったとの見方が有力である。

バイデン大統領は、コーヘン外相が、情報をリークしたことで、リビアとの外交に今回も失敗したと激怒したとのこと。イスラエル国内でも、野党が、情報開示にずさんで、イスラエルの外交に多大なダメージを与えたと、激しい非難の声をあげている。

www.timesofisrael.com/libya-fires-foreign-minister-amid-backlash-over-meeting-with-israeli-counterpart/

石のひとりごと

アラブ諸国は、日本に負けない、いやそれ以上に、実質よりも、表向きの大義を大事にしている。パレスチナ人への“占領”を続けるイスラエルとの和解は、たとえ国益になる可能性があるとしても、決して超えてはならない一線なのだろう。現実主義一色のイスラエルと、全く違う点である。

今回、チャンスを逃したことは残念だった。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。