イスラエルがパレスチナ人4000人にID発行:その後東エルサレムで暴動22人逮捕 2021.10.20

IDを求めてデモをするパレスチナ人たちPalestinians and their spouses protest to demand West Bank residency cards in front of the PA's Civil Affairs Commission in Ramallah (courtesy: Alaa Mutair)

ガンツ防衛相がパレスチナ人4000人に西岸地区住民ID発行

ガンツ防衛相とアッバス議長

新しいラビン首相をめざすとも言われるガンツ国防相が、先月、ラマラでパレスチナ自治政府のアッバス議長に直接あったのに続いて、19日、ガンツ防衛相が、西岸地区のパレスチナ人で、正式な登録先がない4000人にIDカードを発行すると発表した。

IDカードを発行するということは、正式に西岸地区の住民として、イスラエルに登録するということであり、イスラエルへも入れるようになり、イスラエル国内で、仕事を得る可能性も出てくるということを意味する。

なぜIDのないパレスチナ人がいるのか。パレスチナ自治政府は、イスラエルの承認なしに独自の住民票、言い換えればIDを発行することができない。しかし、この10年、和平交渉が頓挫していたことから、イスラエルがこの手続きを停止していたために、IDのないパレスチナ人が多数できてしまっていたということである。

IDのないパレスチナ人は、イスラエル国内やガザへ移動ができないので、家族が、分断したままの人もいる。

また特に悲惨だったのは、パレスチナ人と結婚していた外国人であった。IDがない上に外国人であったため、銀行口座を開けることもできなかったという。

4000人のうち、1200人は西岸地区にいるが正式なIDを持っていなかったパレスチナ人で、2800人はガザ出身だが、ハマスがガザを占拠した2007年以前に西岸地区へ移住していた人々である。

IDをもらう人の中に多くのガザ出身者たいるのは、この人々は、今にいたるまでガザ住民のIDしかなかったために、イスラエル国内の仕事を得ることはできないことは当然ながら、時にイスラエル兵に捕まってガザへ送還されることにもなるケースもあった。

この人々に、西岸地区住民のIDを発行するということは、人道的な視点からだとイスラエル政府は強調する。

このように、今回、4000人分のIDが出されることになったのだが、実際には、まだまだもっと多くのパレスチナ人が申請していたもようである。特に1200人分しか出なかった西岸地区在住のパレスチナ人たちは、全然足りないと不満を訴えている。

実際、10年前以前の2007年、イスラエルは、3万人以上にこの許可を出していた。今回のID発行の目的は、パレスチナ自治政府の立場を強化することだとイスラエルは主張しているが、不満を残してしまいそうである。

www.timesofisrael.com/israel-authorizes-some-4000-undocumented-palestinians-after-10-year-freeze/

右派からは激しい反発

左派的な上記のような政策に対し、右派勢力からは激しい反発が出ている。さらにパレスチナ人やガザ出身者が、イスラエル国内に入ってくる可能性があるからである。右派政党のベツアレル・スモルトビッチ氏は、「この政府は、無責任で、イスラエルの将来に危機を呼び込んでいる。」と述べた。

東エルサレムダマスカス門付近で衝突:22人逮捕

ID発行と直接関係があるかどうかは不明だが、この件が発表された後の19日、東エルサレム旧市街のダマスカス門周辺で、パレスチナ人とイスラエル治安部隊との激しい衝突が発生した。

パレスチナ人たちは、そばを通るバスに投石するなどして、今年5月以来の大規模な衝突に発展した。治安部隊は催涙弾を使って対処している。覆面警官も出動したともようである。この衝突でパレスチナ人22人が逮捕され、17人が負傷した。

石のひとりごと

「敵を愛しなさい」とは、聖書も教えるところである。これがアメになるのだが、それが必ずしも功をそうしないというのが、中東である。聖書ではないイデオロギーの世界だからである。

とはいえ、人道に反するような政策を取り続けることは聖書を基盤とする国イスラエルには、できないことでもあり、イスラエル政府は、常に葛藤を強いられるとの解説もある。

まったくちがうイデオロギーの相手に対し、相手の価値観が、よく理解できない中で、アメとムチを上手に使い分けていくことは、ほぼ単一民族の私たちには理解できないほどの難しさではないかと思う。

このように、イスラエルには、世界一難しい問題が、常につきつけられており、常に主からの知恵が必要という立場に置かれているということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。