ガザ情勢:25時間後に停戦へ 2018.11.15

12日16:30に始まったガザとの戦闘は、約25時間後に停戦となった。この間、イスラエルへ発射されたロケット弾は約500発。このうち、アイアンドームが迎撃したのは約100発だった。

残り約400発のうち、多くは空き地に着弾したが、アシュケロン、ネティボット、スデロットでは、民間住宅に着弾して大きな被害が出た。これにより、1人が死亡。27人が負傷した。

これに対し、イスラエル軍は、ハマス関連軍事施設などへの激しい空爆を行った。予備役兵の徴集は行われていなかったが、ガザとの国境周辺には、増強された陸上・戦車部隊が待機。迎撃ミサイルの数も増やしていたことから、大規模な攻撃もありうると緊張が高まった。

こうした中、13日午後、アラブ系メディアが、エジプトと国連の仲介で、ハマスとイスラエルが”停戦”に合意したと伝えてきた。この時点ではイスラエルはこれを否定。

この日、7時間に及ぶ治安閣議を行っていたイスラエル政府は、イスラエル軍に対し、内容は明らかにしない形で「作戦継続」の指示を出した。しかし、夕方になり、南部住民には、通常に戻るようにとの指示。後にイスラエルも停戦に合意したことを認めた。

ネタニヤフ首相は、「ハマスは停戦を懇願してきた。」と語っている。イスラエルが本気になれば、ガザへの絨毯攻撃も不可能ではないことから、ハマスに、イスラエルの本気を見せ、戦わずして屈服させる手を使ったとも考えられる。ネタニヤフ首相は、以前にもこの手を使って大規模攻撃を直前でキャンセルしたことがある。

一方、ハマスは、ネタニヤフ首相のコメントとは違い、”シオニスト(イスラエル)”が平穏を守らないなら、ベエルシェバやもっと拡大した地域にまで攻撃範囲を広げると脅迫していた。停戦が成立した後は、いつもの「勝利宣言」を行っている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Escalation-enters-second-day-as-rocket-sirens-sound-across-southern-Israel-571789

<イスラエル国内の被害状況>

12日、戦闘がはじまってまもないころ、アシュケロンでは、大型バスにガザからの戦車砲が直撃し、バスは炎上して大破した。この時、イスラエル兵1人が重傷を負った。しかし、砲撃はイスラエル兵の一団が、このバスから降りた直後であったため、間一髪で大惨事をまぬかれた。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/254681

その後、アシュケロン、ネティボット、スデロットではアパートや家屋に、ロケット弾が着弾し、建物に大きな被害が出た。

現地報道によると、ロケット弾が屋根から飛び込み、小さな金属片が飛び散って、家の中が灰色で穴だらけとなった建物や、爆風で家の中がめちゃくちゃになった部屋。血まみれの床や、負傷しながらも逃げようとしたのか血まみれになったドアノブなどが報じられている。

www.timesofisrael.com/rockets-mortars-from-gaza-continue-despite-reports-of-330-p-m-ceasefire

アシュケロンでは13日、直撃を受けたアパートの中で、パレスチナ人男性1人が死亡。女性1人が重症。2人は、爆風でがれきとなった家屋から消防士が救出したのだが、男性の遺体を掘り出すのに1時間かかったという。攻撃を受けた他の町も含め負傷者は計27人。ショックや軽傷で病院に搬送された人々も多数いる。

<唯一の犠牲者はパレスチナ人>

今回、これほどのロケット弾攻撃を受けて、死者が1人だったというのは奇跡であったといえる。その1人は、皮肉なことにヘブロン出身のパレスチナ人だった。

犠牲となったのは、合法的な労働許可の下、アシュケロンで働いていたマフムード・アブ・アスバさん(48)。マフムードさんは、6人の子供(最年少は4歳)の父親で、ガザ情勢の悪化から、この朝、ヘブロンへ帰宅すると家族に伝えていたという。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5400646,00.html

<イスラエル軍:人は殺さず施設のみへの攻撃>

昨日からの攻撃を受け、イスラエル軍はガザ内部への空爆を実施した。攻撃対象は、地下トンネル、武器庫などの他、プロパガンダを流していたとみられるガザのテレビ局など。7階建ビルを完全に破壊するような激しい空爆を160箇所に対して行ったと伝えらえている。

しかし、今の所、ガザから犠牲者が出たという報道はないので、攻撃の前に周辺住民に避難を促してから攻撃するという、”人は殺さず、施設のみ破壊する”という方針を貫いたとみられる。

<ハマスは武力でたたくしかない!?:割れるイスラエル世論>

ハマスとこうした短期の武力衝突は、今にはじまったことではなく、何度も同じことが繰り返されている。今回も徹底的にハマスを打倒しない道を再び選んだことに、閣僚からも疑問の声があがっている。

特に今回は、ハマスにカタールの資金が入った直後の出来事であったことから、ハマスにはアメを与えても全く無駄だという意見も少なくない。相当な被害を受けた南部住民も数百人が、徹底的なハマスつぶしを今回も行わない政府に対して怒りを爆発させ、国境でタイヤを燃やすなどのデモを行った。

その一方で、テルアビブやハイファなどでは、逆にガザとの国境を閉じていることが争いの元だと訴え、国境を開くよう訴えるデモが予定されているという。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/254689

<石のひとりごと>

ハマスとの付き合いは本当に難しい。自分から攻撃をしておいて、堂々と停戦を申し出てくる。実際のところ、これは停戦ではなく、休憩にすぎない。次回の攻撃は、たんに時間の問題である。実際のところ、このような相手に、アメを用いることが有益とは考え難い。

とはいえ、イスラエルが、圧倒的な武力でもってガザへの総攻撃を行えば、自国民にも犠牲が出るし、戦闘の後、その後始末をさせられることもまったく部が悪い。ガザ市民を犠牲にすることで、さらなる憎しみをかう上、命を最も価値あるものとするユダヤ教の性質上、イスラエル自らも罪責に苦しまねばならない。

さらに、ガザの駐留を余儀なくされ、その復興に大金を使わされることも目にみえている。総攻撃をしても、ろくなことはまったくない。

しかしながら、ひっきりなしになり続けるサイレンの音は、まったくもって耐え難い。夜中に叩き起こされ、シェルターに走る。子供たちの多くはPTSDに苦しんでいる。いいかげんにハマスを一掃してほしいと訴える南部住民の政府への不満は十分理解できる。同時に政府が大規模にガザを一掃しない、できないことも理解できるのである。

「主よ。いつまでですか。」という聖書のことばが聞こえてきそうである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。