過激右派入植者がパレスチナ人(19)殺害・ユダヤ人2人・パレスチナ人5人逮捕 2023.7.8

カシー・ヤマル・ミタンさん

4日金曜夜、西岸地区のラマラに近い村、ブルカで、過激右派ユダヤ人入植者グループ(ヒルトップユース(丘の上の若者))と、パレスチナ人の衝突が発生。パレスチナ人のクァシ・ヤマル・マタンさん(19)が、首に銃撃を受けて死亡した。

イスラエル軍は、関係した過激ユダヤ人2人を逮捕。5人を拘束した。2人のうち、主犯1人は負傷して入院中。1人は、極右政党オズマ・ヤフディの議員事務所で働いていたことから、その政党を連立に含んでいるネタニヤフ政権への批判が、国内外から噴出している。

入植者(セトラー)ユダヤ人が襲撃したことが原因か

パレスチナ自治政府によると、過激右派ユダヤ人とみられる一団が、ブルカに向かってきたため、住民は村から出てきて罵倒し返し、両者は、互いに罵り合いながら投石する乱闘になった。先にユダヤ人たちが襲撃したことは、イスラエル軍も認めているところである。

乱闘の中で、パレスチナ人は花火(脅し目的?)も使っていた。この間に、この時、中心的な動きをしていたユダヤ人1人が投石により負傷し、イスラエルの病院に搬送された。

これに対してかどうかは不明だが、入植者がパレスチナ人たちに発砲し、マタンさんが死亡。4人が負傷し、パレスチナ人の車1台が炎上した。反撃が予想されたが、この直後から安息日入りであったため、イスラエル軍は一時周辺地域を封鎖し、部隊を配置して治安維持を図ることとなった。

国内外から連立政権非難轟々

今回、問題を起こしたセトラーは、オズ・ツィオンと呼ばれている前哨地(まだ入植地としても認められない地点)から出てきた過激右派ユダヤ人たちだった。

国家治安相のベングビル氏は、セトラーたちは、攻撃してくるパレスチナ人と戦ったであり、むしろ「名誉勲章」の可能性もあるとして、取り調べを続けると言っている。

これについては、元警察所長たちが、ベングビル氏が警察の権威を汚しているとして、正確な捜査を行うべきだとする訴えを現職シャブタイ警察所長に表明する動きも出ている。

確かに、衝突は、そのオズ・ツィオンから1キロ、パレスチナ人の村、ブルカから250メートルしか離れていない地点で発生していた。また、治安部隊への通報は、衝突発生から90分も経ってからであった。これらの事実から、パレスチナ人に襲われたことへの自衛だったと主張するユダヤ人側の弁護は通用しないとみられる。

また、このオズ・ツィオンは、2021年に設立されたが、ラマラにも近く、パレスチナ人の所有地でもあったことから当時のベネット政権は、前哨地の一部を破壊しただけで、住民には撤退を命じたのであった。しかし、数ヶ月後には、すでに舞い戻り、新政権になってからは建物の数を増やしていた違法であり、問題の地域。

野党代表ラピード氏は、「ヒルトップユースが、ユダヤ・サマリア地域を過激ユダヤ人と過激アラブ人の戦場にしてしまう。西岸地区にいる入植者のほとんどは、穏健派なのに、その人々や、彼らを守るイスラエル軍兵士たち、民主主義の価値を危機に陥れている。

これは、イスラエル史上、最も過激な連立政権が、背後で支援しているからだ。ネタニヤフ首相は、国の治安を脅かし、イスラエル軍と入植者に危険をもたらすこのような暴力を厳しく非難すべきだ。」と厳しい非難声明を出した。

パレスチナ自治政府からも、国際社会は、“オズマ・ヤフディ党”はテロ政党であり、その党首イタマル・ベン・グビル氏はテロリストに指定すべきだとの訴えが出ている。

www.timesofisrael.com/2-settlers-arrested-5-detained-over-killing-of-19-year-old-palestinian-in-west-bank/

なお、過激ユダヤ人入植者(セトラー)の暴力は、今に始まったことではないが、今の政権になってからだけで、その暴力の数は、600回と急増しており、セトラーたちが数百人でパレスチナ人の村を焼き払うといった事件も発生している。*両者の衝突については、オリーブ山通信パレスチナ・セクションクリック

ハアレツ(左派紙)は、その他の右派または、右派より紙が伝えない衝突やパレスチナ人の犠牲の様子を伝えているが、それらの犯行を政府はうやむやにしていると激怒するような記事を出している。

www.haaretz.com/israel-news/2023-08-06/ty-article/.premium/a-jewish-israeli-settler-charged-with-murdering-a-palestinian-dont-hold-your-breath/00000189-c6f2-d9f3-a1cd-f7fb492f0000

こうした中であったが、6日(日)、治安部隊は、この件に関わっていた、ブルカのパレスチナ人5人(父親と4人の息子)を逮捕したとのこと。

www.timesofisrael.com/five-palestinians-arrested-over-clash-during-which-settler-killed-palestinian/

強硬右派政権の影響か:増えるキリスト教徒への嫌がらせも

右派政権になってからの国内の変化としては、上記以外にも、ユダヤ教以外の宗教への排斥の空気も上げられる。先月になるが、次のような出来事があった。

エルサレム旧市街外、シオンの丘には、カトリックのベネディクト会(ドイツ系)が運営する聖母マリアが永眠したとされる教会がある。非常に有名な教会である。

その教会の責任者、ニコデマス・シュナベル神父が、聖職者としての正式な服装で、ドイツ国会議員をエスコートして、シオンの丘の教会に向かう途中、嘆きの壁広場を通過していた。

いわゆる広場とされる“公共”のエリアを通過しようとしていただけだったが、セキュリティの女性が、シュナベル神父に、場所に敬意を払って、首にかけている十字架を外すよう伝えた。

www.youtube.com/shorts/YYTv45XRWJA

これについて、神父が、彼の聖服は、正式なローマカトリックのものであり、嘆きの壁に敬意を払ってないとか、挑発が目的ではないとして、それを外せと言う方が、信仰の自由に反すると反論した。議員を連れていたこともあり、会話が撮影されて、ネットに流されることとなった。

最終的には、嘆きの壁財団が、正式に謝罪する形となった。これを受けて、シュナベル神父は、この事件は、ささいなことであったとし、エルサレムでは残念ながら、キリスト教徒への嫌がらせが急増していると語った。聖職者に唾をはきかけたり、罵倒したり、教会に落書きをするなどである。

無論、多くのイスラエル人たちは、こんなことはしないのだが、神父は、こうした変化に政府が放置したままでいることに危機感を感じると語っている。

www.ynetnews.com/article/rkja115l5n

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。