警察不十分訴えアラブ系市民デモ5000人:経済的な人種差別政策も 2023.8.8

Activists march with symbolic coffins denouncing the violent crimes against Arab communities on August 6, 2023 in the Israeli coastal city of Tel Aviv. (JACK GUEZ / AFP)

テルアビブでアラブ系市民5000人のデモ

6日、テルアビブの中心、ハビマ広場で、イスラエル国籍を持つアラブ系市民約5000人が、アラブ地域での犯罪を警察が無視していると訴えるデモを行った。

イスラエル国内では、アラブ系市民の間での殺人事件が急増しており、今年に入ってからだけで、すでに140人が死亡している。昨年の同期間の死者は66人なので、倍以上になっていることになる。

殺人の多くは、アラブ人同士の問題で、家族間の名誉殺人、部族間抗争、マフィア、ドメスティックバイオレンスなどが原因となっている。このため、ユダヤ人の間では、アラブ人の問題という意識が根強く、どうしても警備や逮捕など、介入が、弱いというのが昔からの問題として指摘されていた。

この点もあり、ラアム党(マンソール・アッバス氏)がアラブ人たちの支持を受けて、前政権において、国会入りを果たしたのであった。しかし、比較的リベラルなベネット・ラピード政権の間にも、アラブ系市民の権利を十分に改善することがないまま、今の強硬右派政権になってしまったということである。

6日、アラブ人たちは、白い服を来て、140の白い棺桶をかついで、市内を歩いた。デモ隊の後ろには、ラアム党議員、ハダシュ・タル党議員、左派政党の労働党、メレツ党議員なども共に歩いたとのこと。

www.timesofisrael.com/bearing-140-coffins-protesters-accuse-cops-of-not-tackling-murders-in-arab-towns/

しかし、今の政権で警察を管轄するのは、あの極右のベン・グビル氏である。このようなデモがあっても、アラブ人対策に警察力を割くような人物ではない。

アラブ人への経済支援削減:スモトリッチ経済相

今の政権には、もう一人強硬右派の政治家がいる。宗教シオニスト政党のスモトリッチ氏で、経済相という立場に立っている。こちらも明らかなアラブ人への締め付けを行っている。

1)東エルサレムのアラブ市民支援プログラム停止を発表

スモトリッチ経済相

イスラエル総人口の21%はアラブ人である。前政権では、アラブ人たち、パレスチナ人たちの経済力を改善することが、テロを抑止するとの観点から、さまざまな経済支援や、ナザレや東エルサレムのアラブ系スタートアップのエンジニアを育てるプロジェクトも進められていた。

これについて7日、スモトリッチ経済省は、2018年から行われていた5年計画の東エルサレム開発(アラブ人学生のヘブライ大学奨学金含む)への25億シェケル(950億円)を凍結すると発表した。

その理由としては、「パレスチナ人より、イスラエルのアラブ人学生を支援することは良いとは思う。しかし、まずは、イスラエルの大学から、過激なアラブ人を排斥する必要がある。この治安緊張の時に、学問の自由の元で、敵と明言する者たちが、ユダヤ人学生とともに学ぶことは受け入れられない。」とフェイスブック上で、返答している。

このほか、アラブ人学生は、ユダヤ人学生が兵役に行っている1年ほどの間、ユダヤ人より先に学びを進めることも問題だと主張した。

www.timesofisrael.com/smotrich-freezes-funding-for-integrating-arab-students-in-israeli-universities/

2)イシバ(ユダヤ教神学校)学生支援は増額

これに先立ち、スモトリッチ経済相は、イシバ(ユダヤ教神学校)学生への追加支援金として、1億6400万シェケル(約62億円)の追加を発表。国会は7月30日、これを承認している。その財源は、すべての省庁への予算からとも報じられている。

www.jpost.com/israel-news/politics-and-diplomacy/article-753017

3)パレスチナ自治政府への税債務支払い遅延方針

さらに、スモトリッチ財務相は、パレスチナ自治政府との間の資金についても問題を呈している。

現在、政府は、サウジアラビアとの国交を成立させる条件としてアメリカが出している条項を飲むかどうかに直面している。その一つが、パレスチナ自治政府の経済の回復であり、具体的には、約5億ドルの税責務の支払いを遅らせるというものである。

政府はこれに合意したとのことだが、スモトリッチ氏はこれを拒否しているという。今現在、パレスチナ人とユダヤ人入植者たちとの対立が激化している中で、パレスチナ人たちへの経済支援的なことは間違っているというのが理由である。

しかし、お金の問題は深刻だ。シンベトなど、国内治安維持関係者からは、ヘブライ大学の奨学金を削除することで、アラブ系住民の怒りからさらにイスラエルへの敵対心を煽るだけだとの警告が出ている。

www.timesofisrael.com/smotrich-freezes-funding-for-integrating-arab-students-in-israeli-universities/

石のひとりごと

今の強硬右派政権になってから、ユダヤ人同士だけでなく、アラブ人との関係も、かなり悪化に向かう様相になっている。

ネタニヤフ首相は本当にちゃんとしたリーダーシップを維持できているのか。ネタニヤフ首相が、以前のようなリーダーシップを発揮できておらず、レビン法相、ベングビル氏、スモトリッチ氏らに振り回されているといった懸念が、各界の著名人からも出ている。

しかし、テルアビブでのアラブ人のデモ含め、こうした記事は、右寄りとみられるメディアには、不思議なほどにとりあげられていないようにも思う。実際のところ、政府はどれぐらいの権力を駆使しているのだろうかとも思う。

イスラエルはこれからどうなっていくのだろうか。今は見守るしかないという感じである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。