自閉症パレスチナ人を警察が射殺:緊張高まるパレスチナ問題 2020.6.1

Kan news よりスクリーンショットhttps://www.youtube.com/watch?v=9E9Oe5YMfBs

30日(土曜)朝、エルサレム旧市街のライオン門から100メートル付近で、東エルサレム在住のパレスチナ人、イヤド・ハラックさん(32)が、イスラエルの警察官に射殺された。これを受けて、「警察による殺人だ。」としてパレスチナ人の間での反発が、各地で広がりはじめている。

ライオン門付近での事件

調べによると、イヤドさんは、この日、ライオン門近くの特殊学校に一人で向かっているところ、怪しいものを持っているとして、イスラエルの警察官に立ち止まるよう指示された。

しかし、イヤドさんは、指示を理解できなかったのか、そのまま立ち去ろうとしたため、警察官が発砲。イヤドさんはゴミ置場に一旦逃れたが、警察官は続けて7発も発砲を続けた。イヤドさんは死亡した。

ライオン門付近は、テロが頻発する場所でもあるため、警察は、イヤドさんがテロリストである可能性も考えたのか、自宅の捜索まで行っていた。

しかし、その後、イヤドさんは、自閉症で、この朝は、ヘルパーの女性と特別学校へ向かう途上であったことが判明。武器は持っておらず、怪しいものとみえたのは、おそらく携帯電話であったとこともわかってきた。ヘルパーの女性は、イヤドさんが障害者であると警察に叫んだが、警察は耳を貸さなかったと言っている。

旧市街では、この事件の翌日にあたる31日(日)が、神殿の丘(ハラム・アッシャリフ)への入場が解除されたことから、暴動が懸念されたが、8人が逮捕された他は、今の所、大きな暴動にはなっていない。

これを意識してかどうかは不明だが、日曜早朝、ガンツ防衛相は、「イヤド・ハラクさんが、射殺されたことを”We are Sorry”として遺憾を表明。家族の悲しみに寄り添うとするコメントを発表していた。イヤドさんの母親は、「この子は宝物だった。警察に殺された。」と言っていた。

*神殿の丘への入場再開

31日、イスラム教徒のハラム・アッシャリフへの入場が再開された。黄金のドームと、アルアクサモスクはまだ閉鎖されており、イスラム教徒は、互いの距離をおいての礼拝を行った。

イスラエル政府・警察の対応

事件発生後、アラブ統一政党は、ただちに警察を非難する声明を発表。また、筆頭野党の未来がある党、ヤイル・ラピード党首は、自身も自閉症の娘を持つことから「障害者がなくなったことに心痛む。これはイスラエルのやり方ではない。」とのコメントを出した。

警察は、取り調べを行っているが、東エルサレム、特に旧市街、ライオン門周辺は特にテロが多い地域で、ここでの任務は非常に複雑であるとして、政治家らが安易に警察を非難したことに抗議の声を上げている。

www.timesofisrael.com/police-shoot-dead-unarmed-east-jerusalem-man-they-say-carried-suspicious-object/

警察を傘下におくアミール・オハナ国内治安相は、ハレクさんの死に遺憾を表明しながらも、現場は非常に危険で難しい場所でもあることから、現時点ではまだ結論は出せないとし、徹底的な捜査を行うと表明した。

www.timesofisrael.com/hundreds-call-for-revenge-at-funeral-of-east-jerusalem-man-killed-by-police-2/

東エルサレムでのイヤドさん葬儀

31日(日)夜、東エルサレムの旧市街では、イヤドさんの葬儀が行われた。

数百人が葬儀に参加して、ぎゅうぎゅうずめで、「ハイバル、ハイバル。ユダヤ人よ。モハンマドの軍隊が戻りはじめた。」と一斉に叫びながら、イヤドさんの棺桶を運んでいく様子が伝られている。写真を見る限り、この群衆の中にマスクをしている人はいない。

ハイバルと叫ぶこの掛け声は、628年、アラビア半島のハイバルで、モハンマドの軍とユダヤ人が戦い、モハンマドの軍が勝って以来、イスラム教徒が使う掛け声である。

葬儀に先立ち、東エルサレムとテルアビブでは、パレスチナ人が、イスラエル警察によるパレスチナ人への圧迫に反発すると訴えるデモが行われた。プラカードの中には、「パレスチナ人と黒人の命は大切だ。」と、今、アメリカで発生している暴動(黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された事件)と関連づけるものもあった。

www.timesofisrael.com/hundreds-call-for-revenge-at-funeral-of-east-jerusalem-man-killed-by-police-2/

続くパレスチナ人とイスラエル軍の衝突:西岸・入植地合併問題

今回の事件は、イスラエルが、西岸地区入植地の合併を7月1日に実施すると発表して以来、パレスチナ人との衝突が続いている中で発生した。合併が実現するかどうかは別として、今後、衝突やテロの波になっていくのではないかと懸念されている。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、イスラエルとの治安維持の協力を停止すると発表。コロナ危機で経済的な危機に陥っているパレスチナ自治政府へのアラブ首長国連邦からの支援物資も、イスラエルを経由しているとして拒否。イスラエルからの借款となる資金も拒否するとみられている。

www.aljazeera.com/news/2020/05/palestinian-authority-rejects-uae-aid-israeli-airport-200521104350610.html

最も側近では、29日には、西岸地区北部の入植地ハラミシュ付近で、イスラエル兵たちにパレスチナ人の車がつっこんできたため、イスラエル軍兵士は、運転手を射殺した。イスラエル兵たちは無事だった。

www.timesofisrael.com/idf-suspect-tries-to-ram-troops-in-west-bank-is-shot-and-neutralized/

その約2週間前の5月14日のナクバの日には、ヘブロン付近で、イスラエル兵たちにパレスチナ人の車両が突っ込み、イスラエル兵1人(21)が、足を切断する大怪我を負った。パレスチナ人の運転手は、この時も射殺されている。

その前には、西岸地区でイスラエル軍兵士が、ビルの上から落とされた石にあたって死亡するという事件も発生していた。

www.timesofisrael.com/soldier-hurt-in-suspected-car-ramming-in-southern-west-bank-driver-shot/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。