パンデミック下で深刻化する中国と欧米の対立 2021.2.15

WHOでスピーチする習近平国家主席(2020年5月) スクリーンショットhttps://www.youtube.com/watch?v=_dqXL-WShT4

これまでからも中国は世界にその存在感をましつつあり、世界の中国への懸念が高まっていた。そこへワクチン外交が加わったということである。最近の中国の動きで、主なものをまとめた。

経済的進出とサイバー攻撃

中国では、1992年以降、鄧小平の時に、主義経済を立ち上げ、共産党に忠実であることを条件に経済活動に自由を与えた。2008年以降は、リーマンショック後のけん引役となり、2010年からは、AIを有効に使って、国民の情報を効果的に管理しつつ、経済を運営して、経済大国となった。いまや、アリババなどのネットショッピング、ファーウェイなど、強力な中国企業が世界の経済、技術に進出し、中国に依存する国々も出始めている。

コロナ・パンデミックにおいても、中国は、マスク外交、ワクチン外交を展開。さらにはAIを駆使したコロナテックと呼ばれるテクノロジーの輸出を通じて、経済力を伸ばしている。中国では、民主国家のように、経済を回すのは、完全に個人だけでなく、最終的には、国家(共産党)の中枢が管理するので、自由社会より強いと考えられる。また中国のシステムの下では、統一されたサイバー軍が暗躍し、サイバー攻撃も非常に多くおこなわれているようである。

こうした状況から、トランプ大統領は、中国の経済や、ファーウェイの進出にブレーキをかけようとした。バイデン大統領もおそらくは、同じ道をたどることになるとみられている。しかし、イギリスの有力シンクタンクCEBRは、予想より5年早い2028年には、中国の経済規模がアメリカを抜いて世界一になるとの見通しを発表した。

jp.reuters.com/article/health-coronavirus-china-economy-idJPKBN2910PV

*イスラエルとの関係(INSS まとめより抜粋)

www.inss.org.il/publication/chinese-investments/?offset=1&posts=undefined&outher=undefined&from_date=undefined&to_date=undefined

中国とイスラエルの貿易
紺色がイスラエルからの輸出
出展:INSS

イスラエルへの中国の投資は、急増しており、ハイファ港のインフラにも深く関わっている。中国のイスラエルへの投資で最大はIT(11億2000万ドル)、ライフサイエンス(13億5800万ドル)となっている。中国からイスラエルへの投資の53%(101.95億ドル)は、国営企業によるものであった。

アメリカは、技術や情報の漏洩を懸念し、イスラエルにも、中国との関係に警戒するよう圧力をかけている。このためか、過去2年の間に、イスラエルへの投資は若干減少傾向にある。

貿易については、2001年には10億7000万ドルであったが、2018年には、118億ドルにまで成長している(中央統計局)。2019年、2020年は特にコロナ関係で、減少したが、それでも中国はイスラエルにとってアメリカの次に大きな貿易相手国である。ただし、イスラエルが中国から輸入する方が輸出より大きいことが要注意と言われている。

*中国人クリスチャン実業家の献金でエチオピア系ユダヤ人162人移住

1月22日、到着したエチオピア系ユダヤ人たち
写真:Karen Kayasod Avi Hayun for Keren Hayesod)

一方で、これはよいことなので、ここで挙げるべきではないかもしれないが、今年1月、エチオピアから来たユダヤ人162人の移住のための費用を準備したのは、中国人クリスチャン実業家ピーター・ワン氏がであった。ワン氏がユダヤ機関の移住関連部門に献金したことで実現したという。ネタニヤフ首相は、エチオピアから2000人の移住を受け入れる計画にしており、この移住もその計画の中で行われた。

www.timesofisrael.com/with-funding-from-chinese-backer-162-ethiopian-immigrants-arrive-in-israel/

領土拡大・アジアへの進出:海警法開始

1)香港で民主化を弾圧:中国の一部にとりこむ

香港は、イギリスによる租借99年が終了した1997年、中国に回帰した。しかし、その直前までにイギリスが香港の民主化を進めたため、中国に回帰しても香港の人々は社会主義に反発を続けている。中国は、一国2制度におきながらも、少しづつ圧力を加えたため、2014年には雨傘運動が勃発した。

昨年、回帰70周年以来、中国よりの指導者を立てて、香港を中国に取り込む動きに出ると、香港住民による、民主化運動が活発になり、警察と衝突するようになった。2020年からは中国当局の介入、言論弾圧もみられるようになった。8月には民主化運動の象徴的存在であったアグネス・チョウ氏ら指導者たちが中国に逮捕され、香港にはもはや自治はないという状況になった。

2)台湾へ「一つの中国」せまる:アメリカとの戦争も言及

台湾は1949年に中国共産党が、中華人民共和国(現在の中国)を建国した際、国民党が台湾に逃れて、別の中華民国という独自の体制を設立した。以後、台湾は、社会主義共産党ではなく、民主的な政治で発展を遂げていった。その背後には、戦中、日本が支配していたこともその要因の一つと考えられている。

しかし、中国は、台湾はあくまでも中国の一部と考えている。1992年から、中国と台湾は、「一つの中国」という原則で、それぞれの歩みをしてきたが、その後、中国で与党が、国民党から民進党に変わると、台湾の独立を目指すようになる。台湾は実質、独立国のような動きをしているので、日本を始め、イスラエル政府も、非公式ながら、政府間の交流もある。東日本大震災のとき、台湾は、日本に250億円もの義援金を送ってくれている。

こうした状況に反発した中国が、「一つの中国」を守るよう、台湾の圧力をかけ始めた。香港の民主主義勢力が中国に鎮圧されると、次は台湾との見方が広がっている。

こうした中、トランプ政権は、台湾に武器を売却していた他、中国に遠慮しての台湾当局との接触自粛を解除すると発表し、今年13日には、米国連大使を台湾に派遣する予定だと発表。中国との緊張が高まった。これについては、バイデン政権に移行が決まったことで、国連大使の訪問は中止になった。

しかし、バイデン大統領が就任後の23日、核兵器運搬も可能な中国爆撃機8機と戦闘機4機、対潜哨戒機1機が、台湾の防空識別件に入り込んだ。翌24日にも、中国戦闘機15機が、台湾上空を飛ぶという事態になった。明確な新政権へのメッセージである。

バイデン新政権は、「これを憂慮する。」との声明を出した。すると中国は、「台湾独立は戦争を意味する。」と非常に強い言葉で返してきたのであった。

www.bbc.com/japanese/55851355

3)東シナ海、南シナ海への進出:海警法開始

 

赤いラインが根の日本のEEZの中に入り込んで、尖閣諸島も中国側に入れている。
出展:Wikipedia

東シナ海では、台湾との衝突に加え、日本との国境においても、尖閣諸島周辺で、領海侵入など、きわどい軍事行動を繰り返している。そうした中、今月1日、中国海警局の武器使用を認める「海警法」が施行された。中国が自ら決めた「管轄海域」に他国が何かしようものなら、武器を使ってこれを撃退して良いということである。

しかし、この管轄海域には、日本のEEZ(排他的経済水域)も含まれており、たとえば、沖縄県尖閣諸島は、日本の領土であるが、中国の「管轄海域」に入っている可能性が高い。これは、国際法に違反するが、日本からは、「懸念する」という程度である。

中国は今年共産党100周年を迎えており、この強圧的な法律を施行したとみられている。専門家たちからは、緊張感ある警鐘が鳴らされている。

緑の点線が9段線
出展:wikipedia

ベトナム、インドネシア、フェイリピン、マレーシア、シンガポール、ブルネイなどが面する南シナ海ではこれに先立ち、1953年から、中国が独自の海域として、「九段線」を主張。南沙諸島に7箇所、人口島を作り、戦闘機が発着できる滑走路や、レーダー、対艦ミサイルが配備され軍事拠点を建設している。

しかし、今年からは特に大胆な動きを始めており、昨年1月、中国海警局に守られた漁船60隻をインドネシアのEEZに入って漁業をさせた。この時、インドネシア海軍と一触触発となっている。その3ヶ月後には、西沙区、南沙区を新たな行政区にしたと主張。中国海警局の船とインドネシアの漁船が沈没する事件も発生したとのこと。

こうした事態に対し、ポンペオ米国務長官は、「中国の行動は国際法に違反する」とはっきりと表明。これまでの中立に立場を覆して、中国への対立姿勢を明らかにした。続いて、アメリカ軍はこのエリアで、軍事訓練を実施。中国海軍も実施する中、中国本土から、南シナ海に向けて、ミサイルまで発射している。

黄緑が第一列島線
出展:海上自衛隊幹部学校HPhttps://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-142.html

この9段線と、東シナ海を通る第一列島線が、中国が領域と認識する海域と考えられている。

こうした中で、中国は、東南アジア諸国に対して、マスク外交を行っているのである。南シナ海に直面する国々は、中国のワクチンを供給してもらっているのである。インドネシアにいたっては、中国にかわって、先にワクチン接種を受けて実験台にまでなっている。これらの国々は、中国の一帯一路でも、中国に借りを作っている。今後、南シナ海周辺の国々が、中国支配の圧力に屈していくことも、ありえない状況がみえてくるようである。

www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/435564.html」

こうした中、フランスは、南シナ海域内の航行の自由を訴え、2月8日、攻撃型原子力潜水艦と支援船を南シナ海で巡回させた。フランスは、アメリカ、オーストラリア、日本の戦略的パートナーであると中国に主張した形である。

4)新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧はジェノサイド

中国の中の新疆ウイグル自治区(首都ウルムチ)

中国はウイグル自治区には、中国人の他、様々な少数民族が住んでおり、差別的な対応を受けていた。独立の気運が高まってからは、少数民族を強制収容所に入れたり、虐殺も行われている。2009年には、デモ隊との衝突で、ウイグル人の主張では3000人(中国の主張では、184人)もの死者が出る事態になっている。

こうした中国のウイグル族弾圧について、今年1月19日、退任ぎりぎりの時点で、アメリカのポンペオ国務長官が、中国はウイグル自治区で、ジェノサイド(民族浄化)を行っていると指摘。中国との対立が明確となった。

また今月、イギリスのBBCでのウイグル自治区に関する報道は、真実性がなく、公平性にも違反すると訴えていたが、今月3日、中国国内でのBBC放送を禁止すると発表した。

共産党100周年を迎え、欧米社会との対立姿勢を鮮明にしているということである。習近平国家主席は、アメリカよりも中国が優位に立っていると、自信を持っているとの見方もある。

バイデン大統領:中国への危機感を表明

バイデン大統領は、10日、バイデン大統領から習近平国家主席に電話し、2時間にわたる会談を行った。その中で、新疆ウイグル自治区での弾圧、香港や台湾への圧力など人権問題に関わることには懸念を表明した。東、南シナ海での姿勢や経済については、協議の余地があるとした。また気候変動については協力が必要との方向で話あったという。

その後、バイデン大統領は、中国が、世界の中で、インフラや環境問題への莫大な投資をして影響力を拡大していることについて、「我々も行動しなければ、中国に”打ち負かされる”」と警戒感を表明した。

www.nikkei.com/article/DGXZQOGN115JU0R10C21A2000000/

石のひとりごと

いつかは中国について調べる必要があると思っていたが、とりあえずの最低レベルでまとめた感じである。今年は、共産党100周年ということもあるのか、中国が、これまでよりも今年、かなり強気に、強引に出ていることは確かである。

バイデン大統領は、いまだにネタニヤフ首相はじめ、中東問題には一つも手がだせていない。それについては、様々な憶測がある中、中東で唯一の同盟国イスラエルを軽くあしらっているわけではなく、コロナ対策などの火急の国内問題と、中国への対策に追われているだけだという見方もあるほどである。(それが正解かどうかは別として)

我が国とも無関係ではないので、今年、中国はどこへむかっていくのかについてについてもよく見据えて、とりなしをしていく必要がある。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。