“占領地”商品にラベル付けへ:EU 2015.11.14

EUは11日水曜、1967年の六日戦争でイスラエル領内に入った地域、ゴラン高原、ヨルダン川西岸地区、東エルサレムにユダヤ人が住む事は国際法上、違法にあたるとして、それらの地域にあるユダヤ人入植地で生産された商品に限り、生産地を明記する方針を決めた。

www.nytimes.com/2015/11/12/world/middleeast/eu-labels-israeli-settlements.html?_r=0

EUは、「これはイスラエル製品のボイコットではない。イスラエルの入植地活動に賛同しない人が、そこからの商品をボイコットする選択肢を持つことができるようにするだけだ。」と言っている。

ボイコットではないとはいえ、他の国々や地域からの表示は義務づけられていないことから、明らかにイスラエル商品ボイコットへの一歩である。ネタニヤフ首相は、これを「EUの偽善であり、矛盾である。」と訴えている。

Yネットによると、西岸地区のユダヤ人入植地の工場などでの労働者は60%がパレスチナ人であり、現在約15000人のパレスチナ人が働いている。もし、このラベリング政策で、西岸地区の工場の収入が減る事になれば、最も被害を被るのは、パレスチナ人労働者なのである。

西岸地区入植地にあったユダヤ人企業、ソーダストリームは、”占領地”にあるとして、ヨーロッパからは散々たたかれた工場だった。今年、ソーダストリームは、西岸地区を出て、ネゲブへ移動した。

同社のCEOダニエル・バーンバウム氏は、それがボイコット運動に屈したのではなく、イスラエル政府の政策で、ネゲブの方が社にとって有利になるからであると言っているが、いずれにしても、この工場で働いていたパレスチナ人は職を失った。

ソーダストリームでは、ネゲブで貧しい暮らしをしているベドウイン1100人(200家族)を雇用する他、バーンバウム氏は、シリア難民を受け入れて雇用したいとして政府に許可を願いでているという。

www.jta.org/2015/09/21/news-opinion/israel-middle-east/sodastream-offers-to-take-in-syrian-refugees

この他、ラピート元財務大臣は、CNNのインタビューで、今回、EUが、ラベル付け対象地域に、今回、ゴラン高原を含めたことをナンセンスと厳しく訴えた。

現在、ゴラン高原にパレスチナ人は一人も住んでいない。従ってその地域からユダヤ人が出て行って土地を返還するとしたら、その先は、ISISか、シリア政府のいずれかということになる。これは、今のシリア情勢をみれば、いかにばかげたことかは明らかである。

ネタニヤフ首相もラピード元財務相も、「今イスラエルがテロの波と戦っている最中にこうした方針を固めたEUは、テロリストではなく、被害者にペナルティを課しているようなもので、本末転倒だ。」と訴えた。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/203348#.Vkc4MKUWnA8

EUがこの方針を発表した後、理由はあきらかにされていないが、リブリン大統領が、12月2日に予定されていたEU訪問をキャンセルすると発表した。また、ワイン業者の中には、この決定に抗議するとして、ヨーロッパ産のワインの販売を停止した店舗もある。

しかし、イスラエル人らしい反応もある。この決定がEUから出された翌日、ゴラン高原のワイン業者は、逆に、自らすべてのワインボトルのキャップに、エンブレム(つまり自慢)として、イスラエルの旗を印刷し始めたという。

www.i24news.tv/en/news/israel/92334-151113-winery-defies-new-eu-labelling-policy-by-printing-israeli-flags-on-bottles

<イスラエル商品の逆転なるか>

EUが入植地商品にラベル付けをするのはこれが初めてではない。以前、まだガザ地区にユダヤ人がいたころ、そこで生産される野菜にラベル付けを義務づけたことがあった。

この時、ヨーロッパの消費者は、逆にガザのマークのある野菜を、逆に選んで購入し、イスラエルの収入は逆に増えたという。当時、ガザ地区産の野菜には、虫がついていないなど高品質であったためである。

今回は、たとえばゴラン高原のワインがラベル付けされることになると思われるが、ゴラン高原のワインは、国際的な賞をとるほどに人気商品である。よいものは結局は売れるのである。

この他、ラピード元経済相は、ヨーロッパにいるユダヤ人たちがあえてラベルのついた商品を買うとも思われるので、実際の被害はそう大きくないとの考えを語っている。

実際のところ、イスラエル輸出の中で、今回ラベル付けされる地域のヨーロッパへの輸出は、イスラエルからヨーロッパへの年間輸出額130億ユーロのうちのわずか1-2%であり、イスラエル経済に与える影響は最小限とみられている。

しかし、問題は時期。たった今、2ヶ月も続くテロで苦しんでいるイスラエルに対し、今回のEUの政策発表は、イスラエルへのいじめ、とでもいえるタイミングであった。ラベル付けで、イスラエル商品の逆転増収を期待したい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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