北の盾作戦:レバノン国境で何が起こっているか 2018.12.08

4日(火)から始まった北の盾作戦ーレバノン南部クファル・キラ周辺からイスラエル領内に続く地下トンネルの、イスラエル領内での摘発、破壊ーは、悪天候の今もまだ続いている。実際に活動中であったトンネルは、今の所1本だが、他にも複数あるとみられ、作業は数週間からそれ以上に及ぶとみられる。

メトゥラの住民たちは、以前から、トンネル掘削の音を聞いていたので、イスラエル軍がトンネルの摘発を「やっとはじめてくれた」と緊張の中にも安堵の様子である。女性たちは、ハヌカのスフガニヨットを、作業にあたっている兵士たちに差し入れしたりしている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Watch-The-Mood-in-Metulla-as-IDFs-anti-tunnel-operation-is-well-underway-573773

<ネタニヤフ首相:イスラエルの最大の敵は、ハマス・ヒズボラの背後にいるイラン>

ネタニヤフ首相は、作戦が始まった火曜の記者会見で、数週間前に、ガザから500発近いミサイルと受けながら、大きな反撃に出なかったのは、北部でのこの作戦の直前であったからだと語った。

ネタニヤフ首相は、ハマスの背後にも、ヒズボラの背後にもイランがいるといい、イスラエルにとっての最大の敵はやはりイランであると語った。そのイランが今、シリアに進出してきているので、イスラエルは、防衛のために、まず北部で行動を起こしたと語る。言い換えれば、南部より北部を優先したということである。

イスラエル軍の発表によると、シリアとレバノンの国境にロシアが部隊を配備しており、ヒズボラは、予定ではもっと誘導ミサイルを増やせていたはずだが、誘導できるミサイルはまだ一部にとどまっているとの見解も明らかにした。つまり・・状況が手に負えなくなる前に介入できたと言っているわけである。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5421061,00.html

<国際社会に理解を求めるイスラエル>

ネタニヤフ首相は、4日の記者会見で、トンネルは、イスラエル人に害を与えようとするテロ目的で作られたヒズボラ(イラン支援)のトンネルであると断言。イスラエルの主権を著しく犯すものだとして、ヒズボラにこれを許したレバノンに責任があると訴えた。

www.timesofisrael.com/netanyahu-hezbollah-tunnels-part-of-plan-to-capture-parts-of-galilee/

この他、イスラエル軍と、イスラエル外務省は、積極的にトンネルに関する情報とともに、ヒズボラが、2006年のレバノン戦争後に採択された国連安保理決議1701に違反していることなど、映像を通して世界に発信し、国際社会にヒズボラへの制裁を呼びかけている。

●北の盾作戦で摘発したトンネルの情報(2日記者会見):https://www.youtube.com/watch?v=FGMtBLcgMNE

●トンネル(イスラエル領内)に仕掛けたカメラに近づいてくるヒズボラとみられる2人: https://www.youtube.com/watch?v=q6vrSCvjxRo

●トンネル出発地:クファル・カラの現状: https://www.youtube.com/watch?v=iCni8HjUnyo

*クファル・カラにはかつて、キリスト教徒の南レバノン軍(SLA)が住んでいたが、2005年にイスラエル軍が南レバノンから撤退した際、SLAもイスラエルに避難した。その後にヒズボラが入り、民家下をトンネルでつないで、軍事拠点にした。

●ヒズボラが、いかに安保理決議1701を無視して、南レバノンに武力を蓄積したのか: https://www.youtube.com/watch?v=_Ix-0_qn1w8

6日、ネタニヤフ首相は、イスラエルに駐在する25カ国の大使を、現場に近いレバノン南部をみはらすキブツ・ミスガブ・アムに招き、自ら状況説明を行った。

この地域の危険性を説明し、ヒズボラの反応によっては、イスラエルが、レバノン内部に入って、トンネルを破壊しなければならなくなる可能性は十分あると語った。(おそらくそうはならないが。。というニュアンス)

また、同じく6日、イスラエル軍は、UNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)司令官を、摘発したトンネルへ案内するとともに、2つ目に発見したトンネルについても報告し、これについては、レバノン軍とUNIFILが協力して、処分してもらいたいと訴えた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5421209,00.html

<国際社会の反応>

アメリカは、イスラエルのトンネル摘発、破壊について、全面的に支持すると表明。ドイツとイギリスは、作戦開始の翌日、イスラエル領内にまでトンネルを掘ったヒズボラを非難した。これに続いて、イスラエル駐在するEU大使も、イスラエルは自国を防衛する権利があるとの立場を示した。

<レバノンの反応:トンネルを作らせた覚えはない>

トンネルを作ったのは、明らかにヒズボラである。しかし、ヒズボラは、外国人によるテロ組織でありながら、社会的な貢献もしていることかとからレバノンでは正規の政党である。今のハリリ首相率いる連立政権にも加わっている。したがって、トンネルはヒズボラの責任であったとしても、まずは、レバノン政府に問われることになる。

北の盾作戦が始まった4日、イスラエルは、UNIFILとレバノン政府との3者会談を、国境ローシュ・ハニクラで行った。

イスラエルは、レバノンに対し、トンネルの状況証拠を提示したところ、レバノンのハリリ首相は、イスラエルの領空侵犯で反論したものの、トンネルについては触れなかった。翌日、ハリリ首相は、「レバノンは、ヒズボラにイスラエルに続くトンネルを作らせた覚えはない。」と発表。イスラエルとの武力衝突になる理由はないとの見解を表明した。

ハリリ首相は、親サウジアラビア、つまりはアメリカよりとも考えられ、ヒズボラとは対立する。しかし、国内の安定のため、連立政権には、ヒズボラも抱える難しい立場である。

さらに、レバノンのアウン大統領はヒズボラ派で知られる。アウン大統領は、レバノン軍に対し、国境で作業するイスラエル軍を十分観察するよう指示したとのこと。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5420940,00.html

<ヒズボラの反応:トンネル破壊は問題ではない>

肝心のヒズボラだが、作戦がはじまってすぐに、テルアビブを攻撃するといった脅迫するビデオを発信した。その後、イスラエルが摘発するクファル・カラの施設は、本当にセメント工場であると反論するような情報を出したりしていたが、以後、静かになって、音沙汰なしの感じである。

イスラエルでは、ヒズボラの不気味な静寂に、次の出方と見定めているのではないかと懸念する意見や、予想外にイスラエルがトンネルという主要攻撃ルートを破壊されたナスララ党首は、あわてているのではないかとの見方をする専門家もいる。

イスラエル国家治安委員会のアモス・ヤディン氏は、トンネルがヒズボラの主要戦略ではないので、気を抜いてはならないと警告する。ヤディン氏は、ネタニヤフ首相が、ヒズボラのミサイルの中で、誘導であるのはごく一部であると発表したことに懸念を表明した。

北部情勢において、諜報活動は最も重要な戦略である。ヒズボラが、今イスラエルがなぜその情報を得たのか、ヒントを与えてしまったというのが、ヤディン氏の懸念である。

<今後どうなるのか>

今のとこころ、北部国境の平穏は保たれている。しかし、ぼろぼろと、イスラエルの閣僚たちから、レバノンへ踏み込む可能性を示唆する発言も出ている。

しかし、これについては、たとえヒズボラがテロ組織ではあっても、レバノンの正規の政党である以上、レバノンにイスラエルが入ってこれを攻撃すると、レバノンとの戦争ということになってしまう。これが第二次レバノン戦争の間違いだったと警告する声もある。

むしろ、今、アメリカが、レバノン政府に圧力をかけて、ヒズボラを追い出すようにするのが良いとの意見のある。ヒズボラの追放は、その背後にいるイランの弱体化にもつながるというのである。今後のアメリカの動きに期待したいところである。

聖書には、いつかは、ロシアとイランを含む大軍がイスラエルへ攻め込む「その時」が来ると書かれている。しかし、それがいつかは、神のみぞ知る・・である。まったく予想もしないときに、戦争になる可能性は大いにある。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。