世界に拡大するウクライナ危機:ゼレンスキー大統領のイスラエルへの要請 2022.3.14

ロシアのウクライナへの侵攻が始まって3週間目に入っている。激しい経済制裁が次々に課される中、トルコが外相会談を仲介したが、話にもならず、先週ドイツ、フランス首脳とプーチン大統領のオンライン直接交渉が行われたが、プーチン大統領が、妥協することはなかった。ロシア軍の攻撃は、今や一般市民にも向けられ始めている。

こうした中、中国が、構図の中に入り始めている。ロシアが、中国に軍事・経済支援を要請したとの動きもある。中国がどう出てくるのか、今後注目なければならない。

またイランも構図の中に入り始めている。ロシアが、イランとの核兵器開発に関する交渉(JCPOA)において、イランへの経済制裁解除が成立した場合、イランとのビジネスにおいては、ロシアへの経済制裁は不適応にすることを要求したため、交渉が一時中断することとなった。

こうした中で、ゼレンスキー大統領が、エルサレムでのロシア・ウクライナ首脳同士の直接会談の可能性を持ちかけるなど、イスラエルにもさまざまな要請を出している。中立を維持したいイスラエルも、ますます難しい立場になりつつある。

3月14日朝:ウクライナ情勢まとめ

1)キエフ陥落直前・西部にも攻撃拡大・市長拉致

ウクライナ情勢は、解決への糸口が見えないまま、18日目。キエフを包囲するロシア軍は、3方向からじわじわと近づいており、陥落も時間の問題かともみられている。退避していない市民たちは、地下鉄構内などで避難生活を続けている人もいる。

これまでにわかっているだけでも596人のウクライナ市民が死亡。ゼレンスキー大統領によるとウクライナ軍兵士1300人が死亡。13日には、アメリカ人ジャーナリストのブレント・ルノーさんがロシア軍の砲撃で死亡したとのニュースが入っている。

しかし、上記の数字に入っていないのか、ロシア軍に完全に包囲されているマリウポリでは、産科病院が攻撃を受けた他、食糧や水が底をつき、すでに市民2187人が死亡したとのこと。また、マリウポリ南東部のメリトポリ市の市長が、ロシア軍に拉致され、13日には、クレパ外相が、南東部ドニプロルドネ市の市長も拉致されたと報告した。

ウクライナ南部は、クリミア半島からロシア軍に掌握される地域が拡大しており、その手は、まもなくオデッサに到達するとみられている、

また、ロシア軍は、これまで戦火が及んでいなかったウクライナ西側にも攻撃を開始している。ルーツクの空港が空爆された他、リビウ近郊ではヤボリウ(ポーランドからわずか20キロ)の軍事施設が砲撃され、一般市民を含む35人が死亡、134人が負傷した。もはや、軍事拠点だけでなく、一般市民も標的にしはじめたとみられている。

ウクライナでは、各地で流通が止まっており、食糧、水だけでなく、薬品も不足している。麻酔薬が足りないとの悲惨な声もある中、負傷者がどうしているのか、懸念するばかりである。

ウクライナから周辺国への避難民は、避難回廊がなんとか機能したとのことで、昨日1日で10万人が国外へ出て、269万人(12日データ)以上となった。ゼレンスキー大統領は、12万5000人が退避できたと言っている。避難先で、最も多いのはポーランドの167万人だが、ロシア側へも10万人が避難したとのこと。

一方、ロシア軍兵の死者数は、ウクライナ側報道によると、1万人以上と言っているが、アメリカ系メディアは、5000―6000人と伝えている。

www3.nhk.or.jp/news/html/20220314/k10013527381000.html

edition.cnn.com/europe/live-news/ukraine-russia-putin-news-03-10-22/h_37bea8ce9b7eaa6f4918862159493995

2)原子力発電所その後・生物化学兵器使用の危険性

ロシア軍は、チェルノブイリを制圧し、その後、電気が止まるので危険とのニュースがあったが、IAEAは、電力は回復していると発表。しかしながら、ウクライナ人の職員が疲弊しきっており、検査などで今後落ち度が出てくる危険性があるという。

また、ウクライナとヨーロッパ最大といわれたザポリーじゃ原子力発電所については、ウクライナ人技術者が協力を拒否したかなにかで、ロシアからの技術者が到着し、ロシア当局に支配される形になっているとのこと。(CNN)

edition.cnn.com/europe/live-news/ukraine-russia-putin-news-03-12-22/h_58411049df7971c8fd14eaee4aa4f910

この他、ロシアが、ウクライナが、アメリカ国防省の支援を受けて、生物化学兵器を開発していたとの偽情報を流したことから、ホワイトハウスは、ロシア軍が生物化学兵器を使用する可能性についても警告を発している。

www.nikkei.com/article/DGXZQOGN121CV0S2A310C2000000/

3)アメリカが2億ドル(230億円)相当の軍事支援表明・ロシアが兵器運搬車両を攻撃の可能性で牽制

ウクライナは、NATOに上空飛行禁止区域指定を要請したが、NATOとロシアの直接対決を避けるためとして、これは今も実施されていない。ウクライナはアメリカに戦闘機の支援を要請したが、それがどこからくるかで、ロシアとの対決になってしまうため、ポーランドとアメリカがいろいろ相談するばかりで、実際どうなったのかは不明。

こうした中、アメリカのブリンケン国務長官は、12日、ウクライナに最大2億ドル(230億円)の軍事支援を行うと発表した。内容は、対戦車ミサイル「ジャベリン」や、地対空ミサイル「スティンガー」といったかなり最新の強力な武器が含まれているという。

www3.nhk.or.jp/news/html/20220313/k10013528971000.html

これを受けてロシアは、これからは、これらの武器を運搬する車列も攻撃の対象になると牽制する声明を発表した。ことによっては第三次世界大戦に発展すると脅迫していることになる。

この後、ゼレンスキー大統領は、あらためてNATOに、ウクライナ上空を飛行禁止区域にするよう要請。そうでないと、ロシアのミサイルが、ヨーロッパに到達するのは時間の問題だと強い警告を発した。

www.timesofisrael.com/zelensky-warns-nato-will-be-attacked-next-as-russian-offensive-aims-westward/

4)ロシアが中国に軍事支援要請か

アメリカは、ロシアが、中国に武器供与を要請したと発表。可能性として、中国が、ドローンをロシアに提供する可能性を示唆した。アメリカは、本日ローマで、中国の代表と会談することになっている。

アメリカはまた、ロシアが世界中からの経済制裁を受ける中、中国との貿易で埋め合わせすることを危惧している。また、バイデン政権は、特に、ウクライナが生物化学兵器を開発中といった偽情報を流し、逆にそれらをロシアが使う道備えをしたとも考えている。

中国は、北京オリンピックの際、ロシアがドーピング疑惑で、正式な出場ができない状況にあるにもかかわらず、開会式にプーチン大統領を招待していた。この時、両首脳は、おそらく、ウクライナ侵攻についても話し合いをしていたとみられている。

本日、アメリカと中国の代表が、ローマで会談することになっている。

www.timesofisrael.com/russia-asking-china-for-military-equipment-us-says-ahead-of-meeting/

5)へリソンでロシアへの大規模抗議デモ・ロシアでも抗議デモ・ローマ教皇も非難声明

東部へリソンは、先週3日にロシア軍に制圧されたが、人々の抗議デモとロシア軍との衝突が続いている。NHKによると、町の中心部に2-3万人が集まっていた。

そのヘリソンだが、ロシアが、でっちあげの住民投票を行って、ヘリソン人民共和国にしようとしているとのニュースがある。ロシアは、これまでに東部のドネツクと、ルガンスクをそれぞれ共和国として独立させ、それを認めるとしている。それと同じということである。

www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_622e93ece4b02961583cf6f5

ロシア国内でも反戦運動が行われている。以下のビデオでは、「No War」と叫んでいる。13日だけで、860人が逮捕され、これまでの累計はNYTによると、1万4500人と推測される。ロシア国内では、情報操作が厳しくなる中、ロシアは正しいとのプロパガンダが流されている。

この他、バチカンのローマ教皇も、13日の世界に向けた礼拝で、ロシア軍によるマリウポリなどへの攻撃に言及し、「子供たちや罪のない人々を殺ギアするという残虐な行為に戦略上の理由などない」と避難する声明を出して、平和への祈りを捧げた。

法皇フランシスは、2015年に、プーチン大統領と、ウクライナのプルシェンコ当時大統領に会い、ミンスク合意を遵守するよう要請。今回のウクライナ危機にあたっても、早くから警告と祈りを発していたのであった。

ゼレンスキー大統領のイスラエルへの期待

1)ロシア・ウクライナ首脳会談をエルサレムで開催してほしい

ベネット首相は、先週、プーチン大統領とモスクワで会い、その後、ゼレンスキー大統領、またNATO諸国首脳とも会談していた。この時、ベネット首相は、単にプーチン大統領の考えを伝えたと強調していた。

しかし、12日、イスラエルのメディアはいっせいに、ベネット首相が、ゼレンスキー大統領に、ロシアに降参するべきだと伝えていたと報じた。すぐに、イスラエル政府とウクライナ政府が、これを否定する声明を出した。しかし、人命保護最優先のイスラエルが、ある程度ロシアに譲ることを提案したということもありえない話ではないだろう。

ふりかえってみると、ベネット首相との会談のあと、ロシアは、ゼレンスキー大統領の辞任を要求しないとか、ウクライナ側は、NATOへの加盟をかならずしも要求しないなど、双方、一歩譲る姿勢を示していたというのが、もしかしたら、その結果であったかもしれない。しかし結果的には、停戦にはならなかったわけである。

イスラエルは、今も、ウクライナやロシアとの水面化での交渉をいっさい公表していない。しかし、ベネット首相は、その後もプーチン大統領とゼレンスキー大統領と数回、電話会談しているとのことである。

今、表面化していることがエルサレムでの首脳会談仲介という点である。ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領との直接会談もありうるとしているが、ロシアは首脳会談をベラルーシでと提案している。ベラルーシはロシアの手中と同じことなので、ゼレンスキー大統領はこの案はありえないと考えている。

ゼレンスキー大統領は、以前にも、中立を維持しているエルサレムで、プーチン大統領との直接階段を行いたいと表明していたが、あらためて、その要請をベネット首相に伝えたもようである。今回は、イスラエルがいつまでも、中立的立場を維持するなら、今後、イスラエルとウクライナの関係にも悪影響になるとも脅迫している。

ウクライナには、多くのユダヤ人がおり、実際、イスラエルの建国の勇士の多くはウクライナ地方の人々であったのだとゼレンスキー大統領は指摘する。今のところ、ゼレンスキー大統領の要請に対する、イスラエルからの反応は明らかではない。

www.timesofisrael.com/bennett-zelensky-speak-on-phone-after-ukraine-leader-proposes-jerusalem-summit/

2)各種武器の供与してほしい

イスラエルは、民間の支援はおこなっているが、これまでのところ、ウクライナからの武器供与の要請は断ってきている。これについて、ゼレンスキー大統領は、理解できないと、苛立ちを表明している。

イスラエルメディアによると、イスラエルは、今、ヘルメットや防弾チョッキの支援を検討し始めたとのこと。

www.timesofisrael.com/israel-said-weighing-ukraines-requests-for-helmets-flak-jackets/

3)ヤド・ヴァシェムの最大支援者はオリガルヒ

エルサレムにあるホロコースト記念館ヤド・ヴァシェムも、この問題に関わっている。ロシアの大富豪で、プーチン大統領を支えてきたとされるオリガルヒの一人、ローマン・アブラモーブッチ氏は、ロシア人だが、イスラエル人でもあり、ヤドヴァシェムへの最大の支援者であった。

アブラモービッツ氏も今、厳しい経済制裁の対象とされている。拠点であるイギリスからは、資産凍結だけでなく、入国拒否になっている。

またロシアが、ウクライナ民間人の殺戮をおこなっていることを受け、ナチスの虐殺を世界に発信しているヤド・ヴァシェムが、アブラモービッツ氏の支援を受けるわけにはいかないということであろう。ヤド・ヴァシェムは、10日、アブラモービッツ氏との関係を停止すると発表した。

www.timesofisrael.com/yad-vashem-suspends-ties-with-russian-israeli-oligarch-roman-abramovich/

石のひとりごと

ゼレンスキー大統領の顔に、だんだん疲れがでてきたように思う。この3週間近く、はたして眠ることはできているのだろうか。一方、プーチン大統領はどうなのだろう。夜眠る心境にあるのだろうか。その目には、これまでにはないようなすごみのようなものも見えるような気もする。

実際、毎日ニュースを追いかけるだけでも、もういい加減、疲れたと思う。現地にいる人々の疲れは想像もできない。食糧や水がないだけでなく、極寒の中である。ロシア軍側もそうだろう。ウクライナは、泥沼が多く、もうすぐ雪が溶けると、泥で動きにくくなるとも考えられる。最悪だ。

かつてナチスもウクライナに入ってこの泥沼に困らされて、やがてガス室での“効率”よい虐殺へと進んでいったのである。いつ終わるのですか。。聖書には、詩篇や哀歌などで、主よ。いつまでですか。。と切実な祈りをささげるものがある。(詩篇13)

これもやがて終わる。とユダヤ人はいつも心に言い聞かせる。しかし、私たちには時は読めないのである。この戦争がいつ、どのように終わるのかは今はまったくわからない。しかし、すべての支配者である主に、時を短くしてくださるようにと祈るのみである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。