ガザ最新情勢:内部で何がおこっているか 2019.3.25

<対ハマス・市民デモ:その後>

ガザ地区では、電気が1日数時間となり、アメリカのUNRWA支援打ち切りに加え、パレスチナ自治政府が、ガザへの支払いを停止したことで、人々の暮らしは一気に悪化をきわめた。若者の失業率は70%とだという。もはや人が住める状態ではないと言われ始めてから久しい事から、限界に近づいているのだろう。

こうした中、カタールが大金の現金をガザへ搬入しはじめ、イスラエルもこれを容認したのだが、その金はどうやら、一般民衆ではなく、ほとんどがハマスのポケットにはいっていたらしい。先週14日、ガザの人々が、「私たちは生きたい。」とのスローガンをもって、対ハマス・デモを開始した。

www.bbc.com/news/world-middle-east-47616809

数百人規模のデモ隊が、ガザ地区9箇所でデモを行い、最終的には、ハマスとの暴力的な衝突となった。ハマスは、ジャーナリストら数十人を逮捕し、負傷者も多数出た。人権保護活動家の中には、ひどい暴行を受けたあげくに逮捕された人もいる。

テルアビブへのロケット弾2発が、ガザから発射されたのはこの直後の15日であった。明らかに、デモ隊の注意をそらすものであったと考えられる。

しかし、その翌日16日には、アパートの賃貸を払えないでいた32歳の男性が、ガザ地区カン・ユニス難民キャンプの自宅で焼身自殺した。

www.jpost.com/Israel-News/Palestinian-Gaza-resident-set-himself-on-fire-in-protest-over-Hamas-rule-583656

この後、ハマスがデモを取り押さえたもようで、この関連ニュースは途絶えている。しかし、ガザでは、4月10日に、カタールからの最後の現金搬入が行われることになっており、この金がどう取り扱われるかによって、市民の対ハマス・運動が再燃する可能性もある。

その場合、ハマスが統一のために、イスラエルとの戦争を誘発させる可能性がある。いい迷惑といえば迷惑だが、ガザとの戦争は時間の問題と懸念されている。

<イスラエルの方針は?>

イスラエルは、テルアビブへのロケット弾について、「間違いであった」というハマスの弁解をそのまま受け入れ、ガザ100カ所への空爆以上のことはしなかった。これは、現在、水面下で、エジプトの仲介で進められているハマスとの交渉を維持するためとみられる。

イスラエルとしては、ハマスが崩壊しその後へ、IS関連、またはイランが進出してくることを避けなければならないので、むしろ、ハマスを温存し、合意で縛る方が好都合である。

しかし、ハマスは、さらなる現金の投入を求めるなど、交渉は難航しているという。結局のところ、イスラエルの崩壊という理念が存在根拠のハマスと、イスラエルがなんらかの合意に至るはずはないわけである。

結局、北部が先か、南部が先か、夏にいずれかで戦争になるのではないか・・というのが、現状である。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5478670,00.html

別件になるが、26日は、1979年にエジプトとイスラエルが和平条約に調印してから40周年を迎える。一時ムスリム同胞団が政権を取った際には、和平条約の継続が危ぶまれたが、今のシーシ大統領は、イスラエルとの平和な協力を維持する方針のようで、両国の関係は、これまでになく良好である。

<金曜国境デモ:今週もパレスチナ人2人死亡>

ガザ内部は、分裂、混乱しているようだが、イスラエルへの攻撃は相変わらずである。

21日木曜、発火物搭載の風船が、イスラエル南部キブツ・ニール・アムなどに複数飛来。野に火災を誘発させた。これを受けて、イスラエル軍戦車が、ガザ南部に戦車砲を撃ち込んだ。

www.timesofisrael.com/fresh-fires-sparked-by-flaming-devices-flown-from-gaza/

また22日金曜から土曜夜、数千人が、イスラエルとの国境付近で暴徒と化した。このため、イスラエル軍が実弾で対応し、パレスチナ側の情報によると、パレスチナ人2人(18歳、29歳)が死亡した。

www.timesofisrael.com/thousands-riot-on-gaza-border-fire-balloon-launched-into-israeli-kibbutz/

ハマスは、以後、夜間の攻撃を毎夜7日続ける作戦を開始したもようである。

<イスラエル国内刑務所でハマス反乱>

イスラエル南部のケツィロット刑務所では、日曜、ハマス受刑者らが反乱を起こし、イスラエルの刑務官2人をナイフで刺した。1人は首をさされて重症だったが、その後、中等度との報告になっている。

反乱を取り押さえる中で、ハマス受刑者11人も負傷した。

この反乱は、イスラエルが、刑務所での携帯電話の使用や、外部との回線を制限しようとしたことに端を発している。これに対し、ラモン刑務所では、ハマス受刑者らが、ハンガーストライキを行う中、ベッド14床に火をつけて燃やす事件も発生している。

公共治安相のギラッド・エルダン氏は、「刑務所からの携帯電話使用制限は、刑務所内部から、テロの指示を出さないようにするためであり、重要な措置だ。」と述べている。

www.timesofisrael.com/prison-guard-stabbed-seriously-hurt-by-hamas-inmate/

<石のひとりごと>

以前、イスラエルの刑務所に取材に行ったが、ハマスのセルにいる人々から発せられる非常な怒りと憎しみの空気は、今も忘れられない。もはや通常の人間を超えたなにかに、完全に支配されているような感じであった。

こうした超自然的ななにものかに支配されていると思われる人を見たことがあるが、子供でも複数の大人の男性がとりおさえられないとか、何日も食事なしでも平気であるとか、尋常では考えられないような力を発揮するようである。

まともな人間レベルでの交渉だけでなく、霊的なレベルでの戦いが、ガザ地区に関しては必要であろうと思う。

ガザ内部にいる普通の人々、またハマスに反抗しようとする人々、わずかだがいると聞いているクリスチャンたちが、直面している苦難は想像を絶する。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。